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ボンノーさまがいく ~異世界で46cm三連砲を撃つ物語~  作者: wok
第3章 王都決戦

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第34話 拙僧、地下の守護者と対峙する

錆びた鉄梯子が軋む。

封鎖された旧下水の点検坑から、一行は暗闇へと降りていく。

「うわ〜、やっぱりじめじめしてる〜」

大盾を背負ったまま器用に降りるヴィヴィが顔をしかめた。

「でも、思ったよりは臭くないね」

「封鎖されて久しいからな」グレアが兜越しに答える。

「ここは十年前に使用禁止になった区画だ」

ボンノーが最後に降り立つと、シノが詠唱を始めた。

『白ノ四式・サークルライト!』

淡い光球が浮かび上がり、古い煉瓦造りの通路を照らす。壁にはカビが生え、天井から水滴が滴っていた。

◆ ◆ ◆

「こっちだ」

グレアを先頭に進むと、やがて本来の地下水路と合流した。幅広の通路が現れ、中央の溝には乾季のせいか五センチほどの汚水が静かに流れている。

「ここからが本番だな」

ザリオが剣の柄に手をかけた。

両脇の歩廊は、人が二人並んで歩ける程度の幅があった。


途中、上へと続く鉄梯子のある縦穴に差し掛かった。

「ここの点検坑を上れば、城内の街中に出られる」グレアが梯子を見上げる。

「兄貴、俺たちはここで」

ザリオが立ち止まった。

「アジトは港湾区の三番通り。『錨と樽』って看板が目印だ。何かあったら来てくれ」

「必ず情報を集めておく」

ユリスが弓の弦を軽く弾く。「なにか手がかりを見つけてみせるわ」

「ヴィヴィ、マタナ」

ドランが小さく手を振る。

「うん。ドランも気をつけて」

ネルムは眼鏡を押し上げ、小声で囁く。「ではまた」

「変態坊主、またにゃ」

ミケケはしっぽを一度揺らし、暗がりに溶けていった。


灰銀の牙を見送った後、ボンノー一行は地下水路を進み始めた。

「アベルト屋敷までは、まだ距離がある」

グレアが暗い通路の先を見つめる。

「ヨコマールも馬鹿じゃない。必ず何か対策をしているはずだ」

「うむ、警戒を怠らぬようにしましょう」

ボンノーが錫杖を握りしめた。

「……なんか、嫌な気配がするのさ」

ナターシャが眉をひそめる。

「私も……何か、感じます」

シノも不安そうに呟いた。

◆ ◆ ◆

通路が広くなった場所に出た。

騎士団長屋敷へと続く点検坑があるはずの場所だ。

「あれだ」

グレアが指さす先に縦穴が口を開けている。

しかし――

「待て」

ナターシャが鋭く制止した。

「何かいる」

全員が身構えた瞬間、暗闇から重い足音が響いてきた。

ズシン……ズシン……

「こ、これは……」

シノの光球が照らし出したのは、三メートルはあろうかという巨大な岩の人形だった。全身が灰色の岩石で構成され、関節部分からは紫の光が漏れている。目に当たる部分には赤い宝石がはめ込まれていた。

「ロックゴーレム……!」

グレアが呻く。

「まさか、地下水路にまでゴーレムを配置していたとは」

「……抜かりないね、ヨコマール」

ナターシャが舌打ちした。

ゴーレムの赤い目が侵入者を捉え、低い唸り声と共に巨大な拳を振り上げる。


「散開!」

ボンノーの号令で全員が左右に飛び退いた。

ドゴォン!

拳が地面を打ち、石畳が砕け散る。

「シノ殿、防御を!」

「はい!」

シノが素早く白ノ二式「プロテクション」「ブレス」を重ねる。二重の加護が仲間たちを包んだ。

「硬い……!」

グレアの剣は岩の表面を滑るだけ。火花は散るが、ダメージはない。

「剣じゃ分が悪いな」

「拙僧の錫杖も、打撃力に欠けますな」

ボンノーの一撃も効果は薄い。

「ならば魔法で――」

『白ノ三式・ホーリージャベリン・ツヴァイ!』

シノが放つ聖なる光の槍も、ゴーレムには効果が薄かった。


「あたしが受け止める!」

ヴィヴィが大盾を構えて前に出た。

ガァン!

正面から拳を受け止める。しかし次の瞬間――内角をえぐり込むように放たれた左ジャブが、ヴィヴィの肩口を捉えた。

「ぐはっ!」

小柄な身体が壁まで弾き飛ばされる。

「ヴィヴィ!」

『白ノ三式・ヒール・ツヴァイ!』

シノの治癒魔法がヴィヴィを包み込む。


「うっ……大丈夫……」

肩口を押さえながら、ヴィヴィがゆらりと立ち上がった。

その間もボンノーとグレアが必死にゴーレムの注意を引いている。だが岩の身体にはほとんど効いていない。

ヴィヴィの瞳に、強い決意が宿った。

「みんな……下がって」

「ヴィヴィ?」

「大丈夫、あたしにまかせて」

ヴィヴィが盾を構え直し、ゴーレムの前に立った。


深く息を吸い込み、天を仰ぐ。

瞳に亡き父と兄の姿が浮かんだ。

「父ちゃん、兄ちゃん——見てて。今度は、あたしが護る!」

両手で盾を握りしめ、祈りを込めて叫ぶ。

「大地の神イグナよ、我が盾に神威を宿せ!」

その瞬間、ヴィヴィの全身から蒼い光が立ち上った。

聖盾士せいじゅんし権能・ディヴァインシールド!』

大盾が蒼く輝き始め、神聖な力を帯びる。

「こ、これは……!」

「まさか……聖盾士!」

シノとグレアが驚愕の声を上げた。


ゴーレムが連打を繰り出す。

ドン! ドン! ドン!

だが蒼い光を纏った盾は、すべての攻撃を完璧に受け止めた。

「すごい……」

グレアが息を呑む。

「でも、このままじゃ倒せないよね」

ナターシャが冷静に分析する。

「ナターシャさん!」ヴィヴィが盾で攻撃を受けながら叫ぶ。「風魔法で、ゴーレムに小さなヒビを入れて!」


「なるほど、そういうことなのさ」

ナターシャが両手を前に突き出す。

『黒ノ三式・エア・ツヴァイ!』

真空の刃が放たれる。続けて――

『黒ノ三式・エア・ツヴァイ!』

『黒ノ三式・エア・ツヴァイ!』

複数の真空刃がゴーレムを切り裂き、硬い岩に亀裂が入り始めた。

「よし……いける!」


ヴィヴィが盾を引き、一歩下がる。

そして全身の力を込めて駆け出した。

「これが——あたしの必殺技!」

蒼い光が最高潮に達し、盾全体が眩く輝く。

『蒼盾・砕鳴衝波そうじゅん・さいめいしょうは!』

強烈なシールドバッシュがゴーレムの胸部を直撃した。

ガァァァン!

鈍雷のような轟音が響き渡る。亀裂が一気に広がり――

ガラガラガラ……

ロックゴーレムが粉々に砕け散った。

◆ ◆ ◆

静寂が訪れる。

「や、やった……」

ヴィヴィが膝をつき、荒い息をつく。蒼光がほどけ、権能は霧散した。痺れる両腕――もう一度は、いまは無理だ。

「ヴィヴィ殿、いつの間にそんな権能を……」

「あたしも……よく分かんない」ヴィヴィが照れたように笑う。「でも、みんなを守りたいって思ったら、自然と力が湧いてきて」

「聖盾士か……」グレアが感心する。

「聖盾士の権能は大地神イグナに選ばれし者のみ。まさかヴィヴィが——」


「とりあえず、先に進もう」

ナターシャが頭上を見上げる。「まだ油断はできないのさ」

点検坑の梯子の下に集まる。五メートルほど上に鉄製の蓋がある。

「あたいが確認してくるのさ」

ナターシャが軽やかに梯子を上り、蓋を押すがびくともしない。

「やっぱり鍵がかかってるのさ。でも任せて」

怪しげなシーフツールを取り出し、カチャカチャと格闘する。

「……よし、開いたのさ」


「まず、あたいが上の様子を確認してくるのさ」

蓋を数センチ押し上げ、隙間から覗く。騎士団長屋敷の裏庭が見える。

しかし――

「ちょっと待った」

ナターシャが小声で警告する。「屋敷が見張られてる。遠くから誰かが監視してるのさ」

梯子を降りてきて説明する。

「神殿騎士か?」

「たぶんね。でも、ちょっと待ってて。あたいが片付けてくるのさ」

『黒ノ三式・インビジブル!』

ナターシャの姿が空気に溶けるように消えた。


十分後――

「お待たせ〜、なのさ! 今なら大丈夫だよ」

点検坑の上からナターシャの声が聞こえてきた。

「見張りは?」

「認識阻害をかけておいたのさ。こっちを見ても何も見えないようになってる。上がってきて」

一人ずつ鉄梯子を上る。全員が騎士団長屋敷の裏庭に立った。

夜の闇が一行を包み込む。

裏口のドアには鍵がかかっていたが――

「さっき開けといたのさ」

ナターシャがにやりと笑う。

「流石は姐さん、抜かりないね!」

ヴィヴィが感心した。

◆ ◆ ◆

静かにドアを開け、屋敷の中へと侵入する。

廊下は暗く、人の気配はない。

「まず、ソフィア様に会いに行く」

グレアが先導し、足音を殺しながら階段を上る。

やがて王国騎士団長の妻、ソフィアの部屋の前に辿り着いた。

「ここか……」

ボンノーが錫杖を握りしめる。


すべては、この扉の向こうから始まる――。

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