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ボンノーさまがいく ~異世界で46cm三連砲を撃つ物語~  作者: wok
第3章 王都決戦

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第33話 拙僧、検問を破り灰銀の牙と王都へ潜入す

朝靄が晴れ始めた頃、ボンノー一行はポンコ団のアジトだった廃教会を後にした。光明号は彼らに譲り、徒歩でセレスティアへと向かう。

「光明号をポンコ団に譲ったのは良い判断でしたね」

シノが歩きながら優しく微笑む。

「彼らも真っ当な道を歩めますし、私たちも身軽になりました」

「そうだね〜! 歩くのも冒険って感じでワクワクする!」

ヴィヴィが大盾を背負い直し、軽やかにステップを踏む。

「それに、あの人たちの笑顔が見れただけで、何だか報われた気がするよ」

◆ ◆ ◆

北上を続けて一時間。西の地平線に巨大な水車がゆっくりと回転しているのが見えてきた。

「あれは……」

ボンノーが目を細める。

「アレム揚水塔なのさ」

ナターシャが説明を始める。

「聖河アレムの水を汲み上げて、王都まで送る仕組みでね。全部で五基あるって聞いたよ」

巨大な水車が規則正しく水を汲み上げ、塔の頂上にある貯水槽へと送っている。その先には、優美な曲線を描く石造りの水道橋が、王都へと伸びていた。

「ほう、上水道もあるのですな」

ボンノーが感心したように呟く。

「なかなか文明的じゃ」

「おれの……いや、王都の誇りだ」

グレアが兜の奥から静かに、しかし確かな誇りを込めて言った。そして視線を北へ向ける。

「もうすぐ街道が分岐する。そこから東の林道に入るぞ」

◆ ◆ ◆

グレアの言葉通り、程なくして街道は三叉路となった。

西は港湾区へ続く商人街道。中央は南門に続く大街道。東は鬱蒼とした林道が東門へと伸びている。

「グレア殿の知る抜け道は、確か北東でしたな」

ボンノーが確認すると、グレアは無言で頷いた。

「ああ。東の林道を抜けた先にある」

一行は人気のない東の林道へと足を踏み入れた。

◆ ◆ ◆

木々が頭上を覆い、薄暗くなってきた林道を進むこと三十分――

「止まれ!」

鋭い制止の声が響き渡った。

道の中ほどに、白銀の鎧を纏った神殿騎士が十名。レファリア教の紋章が陽光を受けて鈍く光る。

隊長格の男が威圧的に前へ出た。

「戒厳令下では、すべての通行人の身元確認が義務付けられている。通行証を見せろ」

「承知いたしました」

ボンノーは動揺を見せず、懐からヨコマール枢機卿の偽造通行証を取り出した。冒険者ギルドの銀等級プレートも併せて提示する。

隊長は通行証を受け取ると、疑い深い目で観察を始めた。

「ふむ……」

蝋印を指でなぞり、においまで嗅ぐ。そして傍らの騎士を呼んだ。

「鑑定しろ」

「はっ」

騎士が小さな水晶を取り出し、通行証にかざす。

水晶が不吉な赤い光を放った。

「隊長、これは……偽物です」

空気が一瞬にして凍りついた。

「偽造通行証とはな。いい度胸だ」

隊長が剣を抜く音が、静寂を切り裂く。他の騎士たちも一斉に武器を構えた。

「全員、その場で武器を捨てろ」

完全包囲。前方に五名、後方に三名、左右に一名ずつ。逃げ場などない。

「これは……」

シノが青ざめる。

「まずいのさ……」

ナターシャも緊張した面持ちで拳を握る。

「万事休す、か」

グレアが小さく呟いた瞬間――

ビュッ! ビュッ! ビュッ!

風を切る音と共に、三本の矢が飛んできた。

「ぐあっ!」

後方の神殿騎士三名が、麻痺毒に侵されて崩れ落ちる。

「何者だ!?」

隊長が叫んだ次の瞬間――

『黒ノ五式・パラライズ!』

『白ノ五式・スリープ!』

紫の霧と白い光が、二名の神殿騎士を包み込む。

一人は麻痺し、もう一人は眠りに落ちた。

「敵襲だ! 迎撃態勢を――」

隊長の号令も虚しく、林の中から二つの影が疾風のように飛び出した。

「うらああああ! 兄貴の危機とあらば――」

「ブッツブス! アニキ、マモル!」

灰銀色の鎧を纏ったザリオが、剣を振りかざして突進する。その隣では巨躯のドランが、大斧を豪快に振り回していた

「神殿騎士だろうが何だろうが、俺の敵だ!」

ザリオの剣が一閃し、騎士の一人を斬り伏せる。

ドランの斧も容赦なく、別の騎士を薙ぎ払った。

前方の五人が後方の脅威に振り返った、その一瞬の隙を見逃さない。

『白ノ五式・スリープ!』

シノの睡眠魔法が一人を眠らせる。

『黒ノ五式・パラライズ!』

ナターシャの麻痺魔法がもう一人を動けなくする。

「はあっ!」

グレアの剣技が冴え、騎士の武器を弾き飛ばす。

「とりゃあ!」

ヴィヴィの大盾が別の騎士を吹き飛ばした。

「南無三宝!」

ボンノーの錫杖が最後の一人の後頭部を的確に打ち据える。

どさりと倒れる神殿騎士。

わずか数十秒で、十名全員が地に伏していた。

「よっ、兄貴! ご無沙汰してました!」

ザリオが剣を肩に担ぎ、爽やかな笑みを浮かべた。

「ザリオ殿! なぜここに?」

ボンノーも驚きながら目尻を緩める。

林の中から、残りのメンバーも姿を現した。

金茶の髪を束ねたユリスが、弓を下ろしながら歩いてくる。

「戒厳令を聞いて、アジトに戻ろうと思ってね」

黒ローブのネルムも眼鏡を直しながら続く。

「ミケケが皆さんの気配を察知して、急ぎ駆けつけたんです」

そして最後に――

「にゃ〜、また会ったにゃ!」

三毛柄の猫耳を揺らしながら、ミケケが飛び出してきた。

「変態坊主、助けてやったにゃ。感謝するにゃ」

「おお、ミケ――」

ボンノーが手を伸ばすと――

「シャーッ! 触るなにゃ、変態坊主!」

ボンノーは肩を落とした。(なぜじゃ……拙僧は何も悪いことはしておらぬのに……)

◆ ◆ ◆

「とりあえず、こいつらを何とかしないとな」

ザリオが倒れた騎士たちを見回す。

「シノちゃん、全員眠らせられるかい?」

ナターシャの提案に、シノが杖を掲げる。

「はい、やってみます。生命の女神レファリアよ――我が祈りを受け、安らぎの夢で敵を包み給え!」

『白ノ二式・サークルスリープ・ツヴァイ!』

白い光の輪が広がり、騎士たち全員を深い眠りへと誘った。

「よし、縛って木に括り付けておこう」

グレアの指示で手際よく騎士たちを縛り上げる。

作業をしながら、ザリオが口を開いた。

「それにしても兄貴、何でセレスティアに?」

「ヨコマール枢機卿を討ちに参りました」

ボンノーの答えに、灰銀の牙一同が息を呑む。

「ヨ、ヨコマール枢機卿を!?」

ユリスが驚愕の声を上げる。

「正気か、兄貴!?」

「あの男は、多くの罪なき者を苦しめておる」

ボンノーが静かに、しかし力強く語る。

「バスタでのガルド討伐の折に知った事実じゃ。若い娘を集め、王都へ送っておる」

「女を集めてる件も、ガルド討伐も――どっちも初耳だ」

ザリオが鋭い眼光を放つ。

「……けど、兄貴が通った道なら信じる」

「拙僧も詳細は存じませぬが、何か良からぬことに使われているのは確実でしょう」

ボンノーが錫杖を握りしめる。

「だからこそ、止めねばならぬのです」

「なるほど……」

ザリオが腕を組んで考え込む。

「確かに最近、若い女が行方不明になってるって噂は聞いてた」

「表向きは王都での奉仕活動ということになってますが……」

ネルムが眼鏡を直しながら付け加える。

「怪しいのさ」

ナターシャが腕を組む。

ヴィヴィが肩をすくめて苦笑した。

「絶対に裏があるね」

「とにかく、俺たちも情報を集めてみる」

ザリオが胸を張って宣言した。

「兄貴の敵は、俺の敵だ。それに、俺たちのアジトは港湾区にある。情報収集なら任せてくれ」

「協力、感謝します」

ボンノーが深く頭を下げる。

「で、兄貴たちの目的地は?」

「王国騎士団長を解呪するため、アベルト殿の屋敷へ向かいます」

「なるほど、アベルト団長か。あの人が復活すれば、確かに心強いな」

◆ ◆ ◆

「抜け道まで一緒に行こう」

グレアが提案する。

「灰銀の牙も、正面から入るのは危険だろう」

「助かる!」

ザリオが笑顔を見せた。

「それじゃあ、みんなで行くか」

両パーティーは合流し、北東へと進み始めた。

林道を更に進むこと三十分――

「ここだ」

グレアが唐突に立ち止まった。

目の前には、草木が生い茂った何の変哲もない空き地があるだけ。

「どこにも道なんて見えないけど?」

ヴィヴィが首を傾げる。

グレアは無言で地面を見回し、やがて一箇所で膝をついた。

「この落書き……」

岩肌に、かすかに何かが彫られている。子供が描いたような、二人の人物の絵。

「レオ兄様と……わたく――いや、俺だ」

グレアの声が、わずかに震えた。

「幼い頃、二人でここから抜け出して、冒険者ごっこをしたんだ」

バイザーの影から、何かを堪えるような息遣いが漏れる。

ボンノーはそっと肩に手を置いた。

「良い思い出ですな」

「……ああ」

グレアは立ち上がり、ボンノーから錫杖を借りた。地面を突いていくと、ある部分で音が変わる。

コンコンと、空洞の音。

「ドラン、ここを斧で砕いてくれ」

グレアが示した地点に、ドランが大斧を構える。

「ワカッタ」

ズシン!

一撃目で土と木の根が砕けるが、まだ穴は開かない。

「モウイッカイ」

ドランは足を半歩開き、斧の角度をわずかに調整する。短く息を吸い――

ドガァン!

絡み合った根の芯が裂け、地面がぐらりと沈む。ドランはすかさず刃を割れ目にねじ込み、柄をてこのように使って一気にこじ開けた。

メキメキ……バキン!

黒い口がぱっくりと開き、下からひやりとした風が吹き上がる。

気づけば陽は傾き、林は橙色に染まっていた。斧の刃に西陽がきらりと反射する。

「――開イタ」

ドランは斧を引き抜き、短く頷いた。

「ドラン、すごかったよ。……でも下は真っ暗だね」

ヴィヴィは不安そうに盾を胸に寄せる。

「ヴィヴィ、キヲツケテ」

◆ ◆ ◆

人ひとりがやっと通れる幅の穴。グレアが覗き込み、低く告げる。

「封鎖された旧下水の点検坑だ……崩れやすい。慎重に行く」

闇の奥を指差し、短く宣言した。

「ここから王都へ入る」

穴の中を覗くと、底知れぬ暗闇が広がっていた。湿った空気と、かび臭いにおいが鼻を突く。

「うわ〜、じめじめして気持ち悪い〜」

ヴィヴィが顔をしかめる。

「でも、他に道はないのでしょう?」

シノが覚悟を決めた様子で言った。

「行きましょう」

「うむ、皆で力を合わせれば、必ず道は開けます」

ボンノーが錫杖を握りしめた。西日が錫杖の環に、最後の光を走らせる。

ゴォン――。

遠くセレスティアの大聖堂から、鐘の音が響いてきた。二打、三打……四、五。夕刻を告げる鐘。

「入る」

グレアが顎で示した。

一行は一人また一人と黒い口へ身を滑らせ、闇の中へと消えていった。


――セレスティア滅亡まで、あと九日――

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