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ボンノーさまがいく ~異世界で46cm三連砲を撃つ物語~  作者: wok
第3章 王都決戦

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第32話 拙僧、廃教会にて流れ者たちに慈悲を示す

朝――

ミナール村の宿屋を出発する準備が整った。

「さあ、出発なのさ」

ナターシャが馬車「光明号」の手綱を握りながら、振り返った。

「明日の夕方には王都セレスティアに着ける予定なのさ」

「戒厳令が敷かれている以上、正面からの入城は難しいでしょうな」

ボンノーが錫杖を馬車の脇に立てかけながら呟いた。

出発からしばらくして、グレアがボンノーに相談を持ちかけた。

「ボンノー、王都の城門は完全に封鎖されているはずだ」

兜の奥から、静かな声が響く。

「馬車どころか、人の出入りも制限されているだろう」

「なるほど……では、どうやって王都へ?」

ボンノーが尋ねる。

「俺に考えがある」

グレアが少し懐かしそうに語り始めた。

「王都の北東に、廃止された下水坑がある。昔、レオ兄様と……」

一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに続けた。

「兄と外へ抜け出すときの、二人だけの秘密通路だった」

「レオ兄様……」

シノが悲しそうに呟く。

「さすが王族だけあって、王都の裏道にも詳しいですな」

ボンノーが感心したように言う。

グレアは少し照れたように咳払いをした。

「まあ、色々あってな」

「姫様も苦労してたんだね〜」

ヴィヴィが茶化すように笑う。

「う、うるさい!」

錫杖の鈴がコトリと鳴き、場の笑いが引いたところでボンノーは口を開いた。

「王都に入ったら、まず成すべきはアベルト殿の解呪と考える。グレア殿が最も頼れる方にして、ヨコマールと相対する要の戦力だからじゃ。」

グレアも静かに頷く。

◆ ◆ ◆

聖河アレムに沿って街道を北上する。

黄金色に輝く川が、午後の陽光を受けてさらに美しく輝いていた。

「綺麗だね〜」

ヴィヴィが川を眺めながら呟く。

「でも、この川の先に待ってるのは……」

「ヨコマール枢機卿との戦いですね」

シノが杖を握りしめた。

昼過ぎ――

聖河アレムは西に大きく曲がり、一行は橋を渡って北上を続けた。

森が深くなり、人通りもまばらになってきた。

「このあたりは寂しいところなのさ」

ナターシャが周囲を警戒しながら言う。

夕刻――

小さな泉のある場所で野営の準備を始めた。

「今日はここで一泊ですね」

シノが水を汲みながら言った。

「行程は順調じゃ。夜明けに立てば、夕刻には王都の灯が見えよう」

焚き火のそばで、ボンノーが錫杖を軽く突いた。

その時――

遠くから、かすかに鐘の音が聞こえてきた。

ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……

「鐘の音?」

ヴィヴィが首を傾げる。

「王都から聞こえてくるのかな」

◆ ◆ ◆

夕食を終え、そろそろ寝ようかという時――

「……囲まれている」

ナターシャが小声で警告した。

「少なくとも十人はいるのさ」

次の瞬間、茂みから男たちが現れた。

粗末な革鎧を着て、錆びた剣や棍棒を持っている。

「へへっ、運が悪かったな」

頭目らしき大柄な男が前に出た。

髭面で、左目に傷跡がある。歳は四十代半ばといったところか。

「俺はポンコ。この辺りを仕切ってる」

ポンコと名乗った男が、下卑た笑みを浮かべた。

「食糧を全部置いていけ。命までは取らねぇ」

「断る」

グレアが即座に拒否し、剣を抜いた。

「盗賊風情が調子に乗るな」

「あたしたちを誰だと思ってるの!」

ヴィヴィも大盾を構える。

「ちょっと待つのさ」

ナターシャが冷静に状況を観察していた。

(この男たち……様子が変だね)

よく見ると、野盗たちの顔は疲れ切っている。

服はボロボロで、明らかに栄養失調の者もいる。

中には、まだ十代と思われる少年もいた。

「……飢えているのか」

ボンノーが静かに問いかけた。

ポンコの顔が一瞬歪む。

「う、うるせぇ! とにかく食い物を置いていけ!」

◆ ◆ ◆

野盗たちが一斉に武器を構えた。

しかし――

ナターシャが素早く詠唱を始める。

『黒ノ五式・パラライズ!』

紫の霧がポンコを包み込んだ。

「ぐあっ!」膝が落ち、体が痺れて動けない。

ナターシャは味方を巻き込まぬよう狙いを絞り、指先をはじく。

詠唱なしの短い操作で、細い紫の霧糸が次々と伸びる。

一人、また一人の四肢に絡みつき、力が抜けて崩れ落ちた。

シノの背後で、痺れの解けかけた少年が突進した。

「――っ!」杖がカランと落ちる。

「下がれ!」グレアが割って入り、峰打ちで少年の手首を打つ。

「怪我はないか」

「だ、大丈夫……です」

緊張が走り、全員の視線が鋭くなる。

なおも起き上がろうとする者には、グレアが峰打ちで刃を落とし、ヴィヴィが大盾で押し倒す。

ボンノーの錫杖も正確に急所を打った。

あっという間に、野盗団は全員縛り上げられてしまった。

錫杖の輪が、ちり、と鳴る。

静けさが戻った。

「……はやい。さすがナターシャ姐さん!」

ヴィヴィが息を吐いた。

「しかも一人ずつ、巻き込まないように落としてる」

「百八年も生きてれば、このくらいはね」

ナターシャが涼しい顔で呟いた。

「はぁ……はぁ……」

地面に転がされたポンコが、悔しそうに呻く。

◆ ◆ ◆

「さて、事情を聞かせてもらおうか」

ボンノーは錫杖を軽く地に当て、ポンコの前にしゃがみ込んだ。

「なぜ野盗などを?」

「……」

ポンコは黙り込んだが、やがて重い口を開いた。

「俺たちは……流れ者や棄民の寄せ集めなんだ」

「戒厳令のせいで、とうとう仕事もなくなった」

ポンコが続ける。

「日雇いの仕事も、行商も、全部ダメになった。食べるものがなくて……仕方なく……」

よく見ると、野盗団の中には様々な年齢の男たちがいる。

老人から少年まで、明らかに素人の集まりだった。

「十人もいれば、何か仕事はあるはずだ」

グレアが冷たく言い放つ。

「言い訳にすぎん」

「仕事なんてねぇよ!」

ポンコが叫ぶ。

「身分証明もない流れ者を、誰が雇ってくれるってんだ!」

その言葉に、一同は黙り込んだ。

◆ ◆ ◆

「……なるほど」

ボンノーが静かに立ち上がった。

そして、野盗たちの縄を解き始める。

「ボンノー!? 何をしてる!」

グレアが慌てて止めようとするが――

「案ずることはない」

ボンノーは穏やかに微笑んだ。

「ポンコ殿、貴方たちのアジトまで案内してもらえぬか」

「は?」

ポンコが目を丸くする。

「アジトに何の用が……」

「炊き出しをしようと思ってな」

ボンノーの言葉に、全員が驚いた。

「ボンノーさま……」

シノが心配そうに見つめる。

「いいのさ」

ナターシャが理解したように頷いた。

「お坊様らしいね」

「面白そう!」

ヴィヴィも賛成する。

グレアは呆れたようにため息をついた。

「……お前は、本当に甘い男だな」

◆ ◆ ◆

野盗団のアジトは、近くの廃教会だった。

かつてはレファリア教の教会だったらしいが、今は屋根も崩れ、廃墟と化している。

「ここに……住んでるの?」

シノが哀れむような目で見回す。

「他に行く場所もねぇからな」

ポンコが自嘲的に笑った。

ボンノーは馬車から食料を降ろし始めた。

「さあ、皆で料理を作ろう」

大鍋を火にかけ、野菜と干し肉でスープを作る。

パンも切り分けて、全員に配った。

「い、いいのか……?」

野盗たちが信じられないという顔で見つめる。

「どうぞ、遠慮なく」

シノが優しく微笑みながら、スープをよそう。

さっきシノに突っかかった少年が、ぼろ帽子を握りしめて列の端に立った。

視線を落とし、肩をすぼめている。

シノは気づいて、変わらぬ笑みでお玉を傾けた。

「熱いから、気をつけてね」

差し出された器の縁を、シノがそっと支える。

湯気の向こうで、少年のまつげがふるえた。

「……さっきは、ごめん」

かすれた声。

「ううん。お腹が空いてたんだもの」

シノは小さく首を振る。

「名前、聞いてもいい?」

「おれ、レイ」

「レイくん、もう一杯あるよ。友だちの分もね」

少年はこくりとうなずき、耳まで赤くした。

少年が一口すすったのを合図に、周りの野盗たちも次々に手を伸ばした。

「う、うめぇ……」

涙をこぼしながらすする者もいる。

「何か月ぶりだろう……まともな飯……」

◆ ◆ ◆

食事が一段落したところで、ボンノーが立ち上がった。

「皆、聞いてくれ」

野盗たちの視線が集まる。

「拙僧らは明日、王都へ向かう。馬車はもう必要ない」

そして、驚くべき提案をした。

「この光明号は、そなたらに譲る。拙僧らは旅の携行分のみ手元に留め、余った食糧は残らず渡そう」

「な、なんだって!?」

ポンコが飛び上がった。

「馬車を……俺たちに!?」

「ああ」

ボンノーは頷く。

「ただし、条件がある」

「もう野盗はやめて、真っ当に生きてほしい」

ボンノーの真剣な眼差しに、ポンコは言葉を失った。

「十人もいれば、冒険者ギルドで簡単な仕事にありつける」

「冒険者ギルド……?」

「身分証明も不要じゃ。腕さえあれば、誰でも登録できる」

「リントベルクへ行くことを勧める」

グレアも助言する。

「あそこなら仕事も多い」

「そうなのさ」

ナターシャも頷く。

ヴィヴィが指を折って続けた。

「荷運びとか、魔物退治とか、色々あるよ」

ポンコの目から涙がこぼれた。

「あ、あんたら……どうして俺たちなんかに……」

「衣食足りて礼節を知る、という言葉がある」

ボンノーが優しく語りかける。

「腹が満ちれば、人は正しい道を歩める。誰もが、やり直すチャンスを持つべきじゃ」

「あんた……」

ポンコが震え声で言った。

「あんたは、俺たちのお頭だ!」

「え?」

ボンノーが困惑する中、ポンコは土下座した。

「こんな俺たちを救ってくれた! 一生恩は忘れねぇ!」

他の野盗たちも次々と頭を下げる。

「い、いや、頭を上げてくれ」

ボンノーが慌てて止める。

「拙僧はただ、皆に正しく生きてほしいだけじゃ」

「ボンノー様……いや、お頭!」

ポンコが顔を上げた。その目は、新たな希望に輝いている。

「俺たち、生まれ変わる! 真っ当な冒険者になってみせる!」

◆ ◆ ◆

翌朝――

ボンノー一行は、徒歩で王都への道を歩き始めた。

後ろでは、ポンコ団が光明号に乗って、リントベルクへ向かって行く。

「お頭ぁぁぁ! 本当にありがとうございます!」

ポンコの叫び声が、朝の空気に響いた。

「いいことしたね」

ヴィヴィが満足そうに微笑む。

「ボンノーさまらしいです」

シノも優しく頷いた。

「甘すぎるがな」

グレアは呆れながらも、どこか温かい声で言った。

「でも、悪くない」

「さあ、急ごう」

ボンノーが錫杖を握りしめた。

「王都で、すべてに決着をつける時じゃ」

一行は、聖河アレムの黄金の輝きを横目に、王都セレスティアへと歩を進めた。

煩悩坊主と呼ばれた男が導いた、小さな奇跡。

それは後に「ポンコ団の改心」として、冒険者ギルドの伝説の一つとなるのだが――

それはまた、別の物語。

――セレスティア滅亡まで、あと十日――

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