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ボンノーさまがいく ~異世界で46cm三連砲を撃つ物語~  作者: wok
第2章 煩悩坊主、姫と聖女と姐と妹と共に

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第25話 拙僧、コンゴウ山にて王都決戦への覚悟を固める

朝――

宿屋『銀狼亭』の食堂に、雨上がりの朝日が差し込んでいた。

窓の外には清々しい青空が広がり、残された水たまりが陽光をきらきらと反射している。

「おはようございます、皆様」

シノが微笑みながらパンとスープを配る。

「昨夜はよく眠れましたか?」

「ああ、おかげさまで」

グレアは兜を被ったまま低い声で答えたが、その声音には昨夜とは違う晴れやかさが宿っていた。

「あたしはぐっすりだったよ〜」

ヴィヴィが大きく伸びをする。

「雨の音って、なんか落ち着くよね」

「そうなのさ。雨音は月の女神の子守歌とも言われているからね」

ナターシャが穀物茶を(すす)りながら応じた。

朝食の席で、ボンノーが口を開いた。

「戒厳令が敷かれて、街の空気も重苦しい。ここは一つ、気分転換に山歩きなどいかがかな?」

「ハイキング?」

シノが首を傾げた瞬間――


「ていとくぅ〜! コンゴウ山に連れていくデース!」


ヴィヴィが突然立ち上がって叫んだ。

その突拍子もない発言に、一同は呆気に取られた。

ボンノーは静かに思いを巡らせる。

(このバナテールにも金剛という名の山があるのか……)

遠い記憶が蘇る。扶桑皇国の誇り高き戦艦「金剛」――巡洋戦艦から高速戦艦へと改装された歴戦の勇士の姿が、脳裏をよぎった。

そして、ヴィヴィの「ていとく」という呼び方に苦笑する。提督といえば本来は中将クラスが務めるもの。自分のような少尉には過ぎた呼び名であった。

「拙僧は提督ではなく、下働きでした」

ボンノーが苦笑しながら答える。

「えー! ボンノーさんは船乗りだったから、きっと偉い提督だと思ってたのに……」

ヴィヴィが少ししょんぼりした。

「でも、ハイキングは良い考えですね」

シノが優しく話題を戻す。

「気分転換に、少し体を動かすのもいいかもしれません」

「俺もシノに賛成だ」

グレアが頷いた。

「決まりなのさ!」

ナターシャも立ち上がる。

「では、昼飯を持って軽い山歩きに参ろう」

ボンノーが錫杖を手に取った。

◆ ◆ ◆

リントベルクから南東へ一時間――

コンゴウ山と呼ばれる小高い山がそびえていた。標高こそさほど高くないが、頂上からの眺めは絶景として知られている。

「さあ、登るよ〜!」

ヴィヴィが先頭を切って山道を進む。

木漏れ日が優しく一行を包み、鳥のさえずりが心地よく響く。時折、リスが木々の間を駆け抜けていく。

「気持ちいいですね」

シノが深呼吸した。

「街の喧騒を離れて、こうして自然の中を歩くのは」

◆ ◆ ◆

一時間ほどかけて、一行は山頂に到着した。

「わあ……!」

シノが感嘆の声を上げる。

眼下にはリントベルクの街並みが箱庭のように広がり、北方へ聖河アレムが黄金の帯のように流れている。白く強い昼の光が川面を磨き上げ、その先にはかすかに王都セレスティアの王城が望めた。

「絶景じゃな」

ボンノーが錫杖を地面に突きながら呟いた。

「あの川、王都まで続くんだよね? 黄金色に輝いて綺麗だねぇ~」

ヴィヴィが見とれている。

山頂には他に誰もいない。戒厳令の影響か、ハイキング客の姿は見えなかった。

「さあ、お昼にしよう!」

ヴィヴィが持参した包みを広げる。

パン、チーズ、果物、干し肉などを岩の上に並べた。

「いただきます」

全員で手を合わせ、和気あいあいと昼食を取り始める。

「このチーズ、美味しいね!」

「ああ、リントベルク名産らしいよ」

「果物も甘くて最高なのさ」

しばし、穏やかな時間が流れた。

◆ ◆ ◆

食事が一段落したところで、ボンノーが静かに口を開いた。

「皆様、語らねばならぬことがございます」

空気が引き締まる。

「ヨコマール枢機卿について、そして……」

ボンノーは一度言葉を切った。

「その前に、シノ殿……いや、リリア殿。聖女リリアの生い立ちをお聞かせ願えますか」

シノ――聖女リリアは少し驚いたように目を見開いたが、やがて静かに頷いた。

「私の過去を、お話しします」

リリアは遠い目をしながら語り始めた。

「十六年前……私は王都セレスティアの大聖堂で、籠の中に入った赤ちゃんとして発見されました」

風が優しく髪を撫でる。

「ヴィタリス教皇様は、私を生命の女神レファリア様が千年に一度バナテールに遣わす代行者だと仰いました」

「千年に一度……」

ナターシャが呟く。

「シスターの方々と教皇様に大切に育てられ、私は聖女として生きてきました。でも……」

リリアの声が震えた。

「六か月前、ヴィタリス教皇様が教皇執務室で謎の死を遂げられました」

「謎の死……?」

ヴィヴィが眉をひそめる。

「はい。突然のことで、誰も原因がわかりませんでした。そして四か月前……」

リリアは深く息を吸った。

「西の森で、私はガルドに殺されかけました。そこでボンノー様に助けていただいて、今に至ります」

「なるほど……」

ボンノーは静かに頷いた。

「では、拙僧からヨコマール枢機卿の話をいたしましょう」

ボンノーは立ち上がり、北方の王都を見据えた。

「一年前、レオシオン王子を殺害したのは、王位継承者を排除するためでしょう」

グレアの肩が震えた。

「六か月前、ヴィタリス教皇を殺害したのは、形式上の上位権力者を排し、教会の権力を掌握するため」

リリアが唇を噛む。

「五か月前、ルークス王を呪いにかけたのは、殺すより行動不能にしておいた方が都合が良いため」

「殺さず縛る……」

ナターシャが肩をすくめた。

「通りの目をごまかす時のやり口なのさ」

「もしクレア姫が表に出て戦っていたら、殺されていたでありましょう」

その言葉に、グレアが息を呑んだ。

「そして数日前、王国騎士団長が倒れたのも、国王派を機能不全にするためでしょう」

「そんな……計画的すぎる……」

シノが青ざめた。

「ヨコマール枢機卿は、極めて戦略的に権力奪取を進めております。今回の戒厳令は、その最終段階……あるいは、何か別の意図があるのかもしれませぬ」

「さらに……」

ボンノーの声が重くなる。

「ガルドを使い、若い女人をシスター見習いとして王都に集めているのは、良からぬ気配を感じます」

「まさか……」

ナターシャが顔をしかめた。

「生贄か何かに使うつもりなのさ?」

「その可能性は高いでしょうな」

ボンノーは深く息を吐いた。

「このリヴィエラ王国の腐りの根は、ヨコマールであると拙僧は考えます。彼を討たねば、この国はもたぬ」

◆ ◆ ◆

その時――

グレアが立ち上がり、兜を外した。

亜麻色の髪が風になびき、青い瞳が真っ直ぐにボンノーを見つめる。

「わたくしは――クレア。リヴィエラ王国の王女です」

クレアは深く頭を下げた。

「わたくしの大切な人を守るため……父上を、国を救うため、どうかお力をお貸しください」

リリアも立ち上がった。

「わたしも……かつて、わたしを大切にしてくれた人を傷つけたヨコマールを、止めたいです」

彼女もまた、深く頭を下げる。

「どうか、お力を貸してください」

「クレアちゃんは姫様で、リリアちゃんは聖女だったのね」

ナターシャが優しく微笑んだ。驚いた様子はない。

「あたいは、クレアちゃんもリリアちゃんも助けるさ」

姉御肌を見せながら、二人の肩に手を置いた。

「悪い人は許せない!」

ヴィヴィも拳を握りしめる。

「あたしも戦うよ! みんなのために!」

ボンノーは仲間たちを見渡し、静かに頷いた。

「――ヨコマールを討つため、王都セレスティアへ参ろう」

錫杖を高く掲げる。

「では、山を下りて街へ戻り、支度を整える。明朝、王都へ出立じゃ!」

クレアが小さく息を吸い、胸を張る。

「わたくしは誓います。この身に代えても、ヨコマールを討ち、この国を守ります!」

リリアは胸の前でそっと手を組んだ。

「レファリア様……わたしは祈ります。ヨコマールの穢れが祓われ、この国に安らぎが戻りますように」

◆ ◆ ◆

夕日が山を赤く染め始めた。

一行は山を下りながら、それぞれの決意を胸に刻んでいた。

王都への道は険しく、ヨコマール枢機卿という巨大な敵が待ち受けている。

しかし、今この瞬間、五人の絆は確かなものとなった。

明日、彼らは王都セレスティアへ向けて旅立つ。

リヴィエラ王国の命運を賭けた、決戦の地へ――

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