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ボンノーさまがいく ~異世界で46cm三連砲を撃つ物語~  作者: wok
第2章 煩悩坊主、姫と聖女と姐と妹と共に

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第23話 拙僧、三毛猫との再会にて煩悩の業を積む

翌日の午前、リントベルクの冒険者ギルド二階――

朝の光が差し込む会議室で、九人がテーブルを囲んでいた。ボンノー一行と灰銀の牙。昨日の激戦から一夜明け、ナターシャも完全に回復し、報酬の分配に臨んでいた。

「昨日は……本当に悪かった」

ザリオが深々と頭を下げる。灰銀の鎧がガチャリと音を立てた。

「くだらねぇプライドで兄貴を危険にさらした。王国騎士団を追い出されてから腐ってたんだ。命令に逆らって剣を抜いた日から――でも兄貴に救われた」

「私も傲慢でした」

ユリスも頭を垂れ、胸元でペンダントがコツンと鳴る。

「ユリス・フォン・アイヒェンブルク。没落子爵家の娘です。父がヨコマールに異議を唱え、家は取り潰されました。だから強がっていないと――」

彼女は自嘲気味に笑い、弓に手を添えた。

「弓は人を守るために番えるもの。等級で人を見下すなんて最低でした」

「ゴメンナサイ」

ドランも不器用に謝罪し、ちらちらとヴィヴィを見る。

「あー、その……」

ネルムが眼鏡を直しながら顔を赤くした。

「昨日のことは見なかったことに……特に失禁の件は……」

一同が苦笑いを浮かべた。

◆ ◆ ◆

「謝罪は受け入れます」

ボンノーが静かに頷く。

「『怨みは怨みによりて止まず、慈悲によりてのみ止む』とございます。心を改められたのであれば、過去を責める理由はございませぬ」

「兄貴……」

ザリオの目に涙が浮かんだ。

「俺たち、これからは真っ当にやっていく」

「うむ、それでよい」

ボンノーは穏やかに微笑んだ。

◆ ◆ ◆

「報酬の分配じゃが」

ギルドマスターが羊皮紙を広げる。

「ダンジョン制圧依頼は金貨二十枚。両パーティーで分割するが――」

「待ってください」

ザリオが手を上げた。

「俺たちは兄貴に迷惑をかけた。報酬なんて受け取れません」

「命まで救っていただいて、お金なんて……」

ユリスも同意する。

「ちょっと待たれよ」

ボンノーが錫杖を軽く鳴らした。

「道中のモンスターを駆逐してくださったのは灰銀の牙の皆さんです。おかげで拙僧らは疲弊せずシューティングシャウラと戦えました」

「でも、それは――」

「結果的に共同作業でした。ギルド規約に従い、公平に十枚ずつ分配いたしましょう」

ギルドマスターも頷く。

「ボンノー殿の言う通りじゃ。規約では共同依頼の報酬は貢献度に応じて分配すると定められておる」

◆ ◆ ◆

査定官が大きな袋を運んでくる。中から取り出されたのはシューティングシャウラの巨大な尻尾だった。

「非常に希少な錬金術素材です。金貨十枚で買い取らせていただきます」

「金貨十枚!?」

ヴィヴィが目を丸くした。

ボンノーは心の中で計算する。

(金貨十枚……なかなかの大金じゃ)


— 相場メモ —

銅一≒扶桑円100/銀一≒扶桑円1万/金一≒扶桑円10万/庶民の年収=年齢×金一


「尻尾を切断してくれたのはナターシャ殿ですから、こちらの戦利品は拙僧らでいただきます。よろしいですな?」

「もちろんです!」

ザリオが即答した。

「兄貴のためなら死んでも――」

「死んでもらっちゃ困るわよ」

ユリスが頬を染めて遮る。

「せっかく想いを伝えてもらったのに」

「ユ、ユリス……」

「命は尊い。生きて償い、守ってゆくのじゃ」

ボンノーが静かに諭した。

◆ ◆ ◆

「微笑ましいですな」

ボンノーが穏やかに笑う横で、シノが少し羨ましそうに見つめていた。

(あんな風に素直に気持ちを伝えられるって、いいなぁ……)

グレアは兜の下、複雑そうに腕を組んでいる。

「若いっていいのさ」

ナターシャが微笑む。

「あたいも昔はあんなだったかもね」

「えー、もうそんな関係になっちゃったの?」

ヴィヴィが茶化す。

「今度デートするときは気をつけなよ〜」

「ヴ、ヴィヴィ!」

二人が同時に抗議した。

◆ ◆ ◆

「ところで、グレアの旦那」

ザリオがグレアを向く。

「あの剣技、すげぇかっこよかった! 踊るみたいで……」

「ああ、まあ……ありがとう」

グレアが低い声で答える。

「『姫騎士権能』って叫んでたが、姫騎士ってなんだ?」

場が静まった。グレアの肩が僅かに震える。

「……俺の趣味だ」

「趣味?」

「姫騎士への憧れっていうか……男でも憧れってあるだろ? それで技の名前も……」

「なるほど! 旦那、ロマンがあるな! 俺、そういうの好きだ!」

ザリオが納得した。

◆ ◆ ◆

「でも、この国はどうなるんだろうな」

ザリオが急に真面目な顔になる。

「ルークス国王様は病に倒れてるし、第一王位継承者のクレア姫様は行方不明だし……

グレアの体が強張った。

「……どういうことだ?」

「え? 知らないのか? 五か月前から、クレア姫様が王宮から姿を消してる。政略結婚を嫌がって逃げ出したって噂も……」

グレアの体が震えた。

(政略結婚……そんな噂が……)

「まあ、今はヨコマール枢機卿様が政治を取り仕切ってくださってるから、なんとかなってるけど……でも王様がいない国なんて不安だよな」

◆ ◆ ◆

「そういえば兄貴」

ザリオが話題を変えた。

「兄貴らのパーティー、白魔法使いがいるからバランスがいいよな。俺たちにもいれば――」

「それは良いお考えですな。回復役がいれば、より安全に――」

「そこのお坊様たち〜」

明るい声が響いた。扉の向こうで三毛柄の耳がぴょこんと覗く。

「白魔法なら、そこそこ自信あるにゃ!」

現れたのはスカイブルーの瞳を輝かせた猫耳族の少女。白地に茶と黒の斑が混じる耳と尻尾、腰の杖が彼女の職を物語っていた。

「吾輩、ミケケって言うにゃ。仲間にしてくれると嬉しいにゃ!」

◆ ◆ ◆

「ミ、ミケ……!?」

ボンノーが立ち上がり、錫杖を落とす。

「ミケ! ミケなのか!?」

「にゃ?」

ミケケが首を傾げた瞬間、ボンノーは涙を流しながら駆け寄った。

「ミケ〜!! 寺で飼っておったミケ! ここで巡り合うとは!」

そして抱きしめ、頭を撫でまくる。

「よしよし、元気にしておったか……」

「うにゃーーーっ! やめるにゃっ! 吾輩はミケケにゃ! 離すのにゃ、この変態坊主ーー!」

ミケケの猫耳が伏せられ、尻尾がブンブンと抗議する。

「レディに失礼にゃ!」

「ミケ……なぜじゃ……寺ではあんなに懐いておったのに……毎日煮干しを分けてやったではないか……」

ボンノーはしょんぼりとうなだれた。

「吾輩はミケじゃないにゃ! こんな変態坊主のパーティーはお断りにゃ! 灰銀の牙に入りたいのにゃ!」

◆ ◆ ◆

一同が苦笑いを浮かべる中、ザリオが手を叩いた。

「おお! それはありがたい!」

「ヴィヴィと違って、まともそうな子で安心したよ」

ユリスが微笑む。

「ちょっと、まともじゃないって何よ!」

ヴィヴィが抗議したが、誰も聞いていない。

「よろしくお願いするにゃ!」

ミケケが灰銀の牙の面々に深々とお辞儀をする。

「猫耳族は珍しいな。白魔法の腕前は?」

ネルムが眼鏡を光らせる。

「三式までなら使えるにゃ! 回復も補助も得意にゃ!」

「頼もしい。じゃあ新生灰銀の牙として、新しい依頼を受けようか」

ザリオが満足そうに頷いた。

◆ ◆ ◆

「それじゃあ兄貴、俺たちは行く」

ザリオが立ち上がる。

「正々堂々、やっていく」

「期待しておりますぞ」

「また会いましょう」

「絶対だ! 兄貴!」

灰銀の牙とミケケは元気よく手を振りながらギルドを出て行った。ミケケだけはボンノーを警戒するように遠巻きに見ていたが。

「……あんなに懐いておったミケが……」

ボンノーは深くため息をついた。

「別の猫だったんじゃない? たまたま似てただけで」

ヴィヴィが慰める。

「しかし、あの三毛の模様まで……」

「偶然ですよ、きっと」

シノも優しく声をかける。

「それより、報酬の分配をしましょう」

金貨十枚にシューティングシャウラの尻尾代金貨十枚。合計二十枚を五人で分けると一人四枚ずつ。

「金貨四枚……」

ボンノーが手の中の重い金貨を見つめる。

(扶桑円で四十万円相当か……)

◆ ◆ ◆

会議室の扉が勢いよく開かれた。

「緊急事態だ!」

息を切らした連絡員が駆け込んでくる。ギルド間の情報網を担当する連絡官の腕章を付けている。

「王国騎士団長アベルト・フォン・アルセイン様が病に倒れられた!」

ざわめきが広がる。

「さらに! この緊急事態を受けて、ヨコマール枢機卿が王都セレスティアで戒厳令を発令した!」

「戒厳令だと!?」

ギルド内が騒然となった。冒険者たちが不安の声を上げる。

「王様も騎士団長も倒れて……」

「この国はどうなるんだ……」

ガタンと椅子が倒れる音がした。グレアが立ち上がっていた。

「グレア殿?」

ボンノーが心配そうに声をかけるが、グレアは兜の奥で唇を噛みしめていた。

(アベルト様まで……ヨコマールの魔手が、ついに……)

(父上も、アベルト様も、わたくしの大切な人たちが次々と……)

拳が震えている。

◆ ◆ ◆

「グレア、大丈夫か?」

「……ああ、少し驚いただけだ」

グレアは無理に平静を装った。

「戒厳令か……物騒になってきたな」

「そうですね……私たちも気をつけないと」

シノも不安そうに呟く。

ボンノーは錫杖を握りしめながら深く考え込んでいた。

(ヨコマール枢機卿……王も王女も王国騎士団長も全て無力化し、戒厳令まで発布……これは完全な権力掌握、王国簒奪への動きかもしれぬな……)

陽光が窓から差し込み、足元に短い影が落ちていた。

王国に暗雲が立ち込める中、ボンノー一行の新たな試練が始まろうとしていた――。

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