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ボンノーさまがいく ~異世界で46cm三連砲を撃つ物語~  作者: wok
第2章 煩悩坊主、姫と聖女と姐と妹と共に

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第20話 拙僧、褐色姐さんの月光制裁にて範囲魔法の恐怖を知る

翌朝、宿屋『銀狼亭』――

「さて、今日も稼がねばなりませぬな」

ボンノーが錫杖を手に立ち上がる。昨夜のジューシーボアステーキで腹は満たされたが、路銀はまだ心もとない。

「そうだね! もっと稼いで、美味しいもの食べよう!」

ヴィヴィが元気よく大盾を背負った。その大盾は彼女の身長ほどもあるが、軽々と扱っている。

「冒険者ギルドへ参りましょう」

シノも祈りの杖を握りしめる。朝の光が、杖頭に反射して眩しい。

「今日はどんな依頼があるかな」

ナターシャが伸びをしながら呟いた。褐色の肌が朝日に照らされ、健康的な艶を放っている。

◆ ◆ ◆

冒険者ギルド――

掲示板の前に、人だかりができていた。冒険者たちのざわめきが、普段より大きい。

「なんだろう?」

ヴィヴィが背伸びして覗き込む。小柄な彼女には、人垣を越えるのも一苦労だ。

その中央には、一枚の羊皮紙が貼られていた。赤い封蝋で留められた、緊急依頼の証。


**【緊急依頼:ヌマーノ湿地帯ダンジョン脅威制圧】**

**報酬:金貨20枚**

**内容:新発見ダンジョンより魔物が出現。近隣住民に被害拡大中。至急討伐求む**


「金貨二十枚!?」

ヴィヴィの目が輝いた。それは、ボンノー一行らの宿代1月分にも相当する大金だ。

「これは大きい依頼ですね」

シノも興味深そうに見つめる。

「よし、これを受けよう」

グレアが即決した。騎士としての責任感と、路銀への渇望が彼を突き動かす。

### ◆ ◆ ◆

カウンターへ向かうと――

「おっと、その依頼は俺たちが受けるぜ」

低い声が響いた。振り返ると、灰銀色の鎧を着た長身の男が立っていた。彫りの深い顔立ちは確かに整っているが、どこか鼻につく自信に満ちている。まるで世界が自分を中心に回っていると信じているような、傲慢な笑み。

「灰銀の牙のザリオだ。昨日の偵察で把握済みだ。依頼は俺たちのもんだ」

その背後には、三人の仲間が控えていた。それぞれが高級な装備を身に着け、明らかに格上のパーティーだと示している。

深緑の軽鎧に金茶の髪を束ねた女が、冷ややかな笑みを浮かべている。

「あら、銅や銀のプレートで金貨二十枚の依頼? 身の程を知らないのかしら」

弓使いのユリスが鼻で笑う。その口調には、見下しと侮蔑が滲んでいた。

◆ ◆ ◆

「ドケ」

巨躯のスキンヘッドが、ヴィヴィを睨みつけた。2メートルを超える筋肉の塊が、小柄な少女を威圧する。

斧を肩に担いだドランの威圧感に、ヴィヴィは大盾を構える。しかし、その手は微かに震えていた。

「なによ、いきなり!」

「チビ、ジャマ」

ドランの言葉は短く、暴力的だった。

黒ローブの痩せぎすな青年――ネルムが眼鏡を光らせた。その瞳には、計算高い冷酷さが宿っている。

「ギルド規約では、先に掲示板を確認した者に優先権があるんですがねぇ。君たちは後から来たでしょう?」

「何を言う!」

グレアが一歩前に出た。

「俺たちが先に見ていた!」

「証拠は?」

ザリオが鼻で笑う。

「お前の言葉だけじゃ、証明にならねぇな」

◆ ◆ ◆

「なら、決闘で決めるか?」

グレアが剣の柄に手をかけた。騎士の誇りが、彼女を突き動かす。

ザリオも腰の剣を抜きかける。刃が鞘から覗き、殺気が漂い始めた。

「上等だ、おっさん騎士。相手してやる」

一触即発の空気が流れる中――ギルド内の冒険者たちが、息を呑んで見守っている。

「待たれよ」

ボンノーが錫杖を地面に突いた。澄んだ音が、ギルド内に響く。その音には、不思議な説得力があった。

「争いは何も生みませぬ。話し合いで――」

「うるせぇ、坊主!」

ザリオが怒鳴る。唾が飛ぶほどの怒声だった。

「引っ込んでろ!」

◆ ◆ ◆

その時――

「何事だ!」

奥からギルドマスターが慌てて出てきた。片耳の古傷のある白髪の老人だが、かつては高名な冒険者だったという威厳がある。その眼光は、まだ鋭さを失っていない。

「ギルド内での私闘は禁止だぞ!」

「ギルドマスター、この依頼は――」

ザリオが言いかけた時、ギルドマスターが提案した。長年の経験が導き出した、最善の解決策。

「共同依頼にしてはどうだ? 報酬は山分けになるが、安全性は上がる」

「共同だと……?」

ザリオが顔をしかめる。明らかに不満そうだったが、ギルドマスターに逆らうわけにもいかない。

「拙僧は賛成です」

ボンノーが静かに頷いた。

「協力すれば、より確実に任務を遂行できましょう」

「ちっ……」

ザリオは舌打ちしながらも、渋々頷いた。

「いいだろう。共同だ」

◆ ◆ ◆

ヌマーノ湿地帯への道中――

二台の馬車が、並んで湿地帯へと向かっていた。車輪が泥道を踏みしめる音が、不規則なリズムを刻む。

灰銀の牙の馬車からは、時折嘲笑が聞こえてくる。

「あいつら、絶対何か企んでるよ」

ヴィヴィが不満そうに呟く。

「同感さ。でも証拠がないからね」

ナターシャが肩をすくめた。

「警戒は怠らぬようにしましょう」

シノも不安そうに前方を見つめていた。祈りの杖を、いつもより強く握りしめている。

◆ ◆ ◆

ダンジョンの入口――

じめじめとした空気が肌にまとわりつく。湿地特有の腐敗臭が鼻を突き、不快感を増幅させる。

二台の馬車から、それぞれのパーティーが降り立った。

「なあ、坊主」

ザリオが不敵な笑みを浮かべた。

「共同はダルい。先にボス落とした方が総取りだ。乗るか?」

「それは……」

シノが不安そうに呟くが、ボンノーは静かに答えた。

「よろしいでしょう。正々堂々と競い合うのも、また一興」

「へっ、話が分かるじゃねぇか」

ザリオが仲間たちと目配せする。

◆ ◆ ◆

ダンジョンの分岐点――

二つの道が、暗闇へと続いている。どちらも同じように不気味で、危険な雰囲気を漂わせていた。

「右が俺たちだ」

ザリオが親指で右の通路を指した。

「てめぇらは左」

「なぜ拙僧らが左なのです?」

「文句あんなら帰れ」

ユリスが嘲笑う。

「臆病者には無理な依頼よね」

「……わかりました」

ボンノーは仲間たちを見回し、頷いた。何か引っかかるものを感じながらも、進むしかない。

「では、左へ参りましょう」

◆ ◆ ◆

ランタンの灯りを頼りに、左の通路を進む。オレンジ色の光が、湿った壁に不気味な影を作り出していた。

「なんか嫌な感じ……」

ヴィヴィが呟く。

「あいつら、絶対何か企んでる」

「同感だけど、証拠がないのさ」

ナターシャが肩をすくめた。

しばらく進むと、通路が広がり、大きな空間に出た。天井が高く、まるで地下闘技場のような広さだった。

「ここは……?」

一歩足を踏み入れた瞬間――

『黒ノ三式・ストーン・ツヴァイ!』

背後から詠唱が響いた。ネルムの冷たい声だった。

ゴゴゴゴッ!

大きなの岩石が降り注ぎ、入口を完全に塞いでしまった。退路は断たれた。

◆ ◆ ◆

「があはははは!」

灰銀の牙の笑い声が、岩の向こうから聞こえる。悪意に満ちた、醜悪な笑い声だった。

「まんまと引っかかったな、坊主ども!」

ザリオの声だった。計画通りという満足感に満ちている。

「そこはブラッドウルフの巣だぜ! 人食い狼の餌になるがいい!」

「このダンジョンはまだ手付かずだ。中には宝箱も魔具も山ほど眠ってるはずだぜ。それを横取りされるわけにはいかねぇんだよ」

欲望と悪意に満ちた告白だった。

「じゃあな、坊主ども。せいぜい祈ってろ!」

ユリスの嘲笑と共に、足音が遠ざかっていく。

「くそっ! 罠だったのか!」

グレアが剣を抜いた。面頬(めんぼう)の隙間で歯噛み(はがみ)の音が小さく鳴る。

◆ ◆ ◆

「シノ殿、明かりを」

『白ノ四式・サークルライト!』

白い光球が浮かび上がり、空間全体を照らし出す。

そして――

「こ、これは……!」

全員が息を呑んだ。恐怖が、背筋を凍らせる。

赤い眼が、無数に光っている。血のように赤く、飢えた眼が。

ブラッドウルフ――人食い狼が、50匹。

じりじりと包囲網を狭めてくる。涎を垂らし、低い唸り声を上げながら。

「ご、五十匹……!?」

ヴィヴィが震え声を上げる。大盾を構える手が、恐怖で震えている。

「これ、無理じゃない!?」

その時――

◆ ◆ ◆

「下がって!」

ナターシャが前に出た。褐色の肌が、白い光に照らされて艶めかしく輝く。

「あたいに任せるのさ」

両手を天に掲げ、高らかに宣言する。

「月の女神ルナテミスよ、銀光を下し、我が敵を焼き尽くせ!」

そして、にやりと笑った。いたずらっぽく——


「わるいわんこには、月に代わっておしおきなのさ!」


『黒ノ二式・メガフレア――ッ!!』

◆ ◆ ◆

巨大な火球が生成され、ブラッドウルフの群れの真上へ飛んでいく。それは小さな太陽のように輝いていた。

そして――

ドォォォォォン!!

まぶしい光と熱風が洞窟を揺らし、熱が肌を焼く。土壁が振動し、小石が落ちてくる。

無数の小さな火球が弾け、まるで火の雨のように群れを包み込んだ。

キャイン! キャイン!

断末魔の叫びが響き渡る。哀れな獣たちの最期の声。

40匹が一瞬で炭と化した。焦げ臭い匂いが、洞窟に充満する。

「す、すごぉぉいよぉ……」

ヴィヴィが呆然と呟く。

「ナターシャ姐さんは……もしかしてリッチロード!?」

「あたいはまだ死んでないのさ」

ナターシャが苦笑しながら髪をかき上げた。汗が褐色の肌を伝い、妖艶な雰囲気を醸し出している。

「リッチは不死の魔法使いでしょ? あたいはちゃんと生きてる百八歳の乙女なのさ」

◆ ◆ ◆

「もし、あのときリッチロードにこの魔法を撃たれていたら……」

ボンノーも冷や汗を流していた。

「拙僧ら、一瞬で全滅していたやもしれませぬ……」

範囲魔法の恐ろしさを、改めて実感する。

しかし――

10匹のブラッドウルフが爆炎を免れ、なおも迫ってくる。生き残った彼らは、より獰猛になっていた。

「まだいるよ!」

「私が!」

シノが素早く詠唱を始めた。祈りの杖が、柔らかな光を放つ。

「生命の女神レファリアよ――我が祈りを受け、安らぎの夢で敵を包み給え!」

『白ノ二式・サークルスリープ・ツヴァイ!』

白い霧が広がり、6匹のブラッドウルフが眠りに落ちた。

◆ ◆ ◆

「いい判断だね、シノちゃん」

ナターシャが褒めながら、追加の呪文を唱える。容赦のない、冷酷な魔法使いの顔になった。

「月の女神ルナテミスよ、銀光を下し、我が敵を蝕み尽くせ!」

『黒ノ二式・サークルポイズン・ツヴァイ!』

黒紫色の霧が、眠っているブラッドウルフを包む。猛毒の霧が、静かに命を奪っていく。

「寝てるまま、あの世行きさ」

毒に侵された狼たちが、苦しそうに痙攣しながら息絶えていく。

残り4匹――

「来るぞ!」

グレアが剣を構えた。

◆ ◆ ◆

4匹のブラッドウルフが、同時に襲いかかってきた。飢えた獣の最後の突撃だった。

グレアに1匹。その牙が、首筋を狙う。

ボンノーに1匹。錫杖を構える僧侶に、殺意を向ける。

そして、シノとナターシャを守るヴィヴィに2匹。最も小柄な彼女を、獲物と見定めたのだ。

「接近されたらあとはタンクに守ってもらうしかないのさ。ヴィヴィちゃん頼むのさ!」

ナターシャは短剣を構えながら言い放った。

「任せて!」

ヴィヴィが大盾を構える。小さな体に、大きな勇気が宿った。

ドカッ!

1匹目の突進を盾の角で打ち返し、そのまま撲殺。完璧なカウンターだった。

ガツン!

2匹目の牙が、盾に深く食い込んだ。

衝撃がヴィヴィの両腕を通じて大盾を震わせる。骨が軋む音がした。

「くっ……重い!」

◆ ◆ ◆

シュッ!

グレアの剣が鋭い弧を描き、ブラッドウルフの首を刎ね飛ばす。見事な太刀筋だった。

ズシャ!

そのまま返す刀で、ヴィヴィの大盾に噛みついている一匹を横合いから切り伏せた。

斬撃の衝撃に、獣の牙が盾から外れ、血飛沫が地面を染める。

「ありがと、グレア!」

「礼は後でだ。今は前を見ろ!」

最後の一匹――

ボンノーの錫杖が唸りを上げ、狼の頭蓋を粉砕した。鈍い衝撃音とともに、獣の体が力なく崩れ落ちる。

静寂が、洞窟に戻る。

生き残った者たちだけが、荒い息を吐いていた。

「……なんとか、切り抜けたか」

ボンノーが額の汗を拭った。生きていることの実感が、じわじわと湧いてくる。

大空洞に、静けさが満ちていく――

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