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ボンノーさまがいく ~異世界で46cm三連砲を撃つ物語~  作者: wok
第1章 108歳童貞煩悩坊主が異世界へ

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第14話 拙僧、偶然の接吻にて姫騎士の真なる力を覚醒させる

ドサッ!

重い鎧の衝撃がボンノーの全身を貫いた。

「ぐっ……!」

なんとか受け止めたものの、その勢いに押されて後方へよろめく。そして――二人の体が地面に倒れ込んだ、その刹那!

偶然が、運命を紡いだ。

ボンノーの顔と、兜を失ったグレアの顔が、互いに引き寄せられるように近づき――

触れた。


唇と、唇が。


一秒。

世界が止まったように、時が凍りついた。

二秒。

ボンノーの瞳が見開かれ、相手の顔をはっきりと認識する。

亜麻色の髪。

整った顔立ち。

長い睫毛。

そして――明らかに女性的な、柔らかな唇の感触。

三秒。

「――――っ!?」

二人同時に、現実を理解した。

◆ ◆ ◆

「わ、わたくしの……わたくしの初めての接吻(くちづけ)が……!」

グレア――いや、その正体は明らかに若い女性だった――が、顔を真っ赤に染めて叫んだ。

月光に照らされたその顔は、まさに王国一の美姫と謳われるに相応しい美貌。高貴な気品と、剣士としての凛々しさを併せ持つ、まさに姫騎士の名に恥じない容姿だった。

「こ、これは……グレア殿、いや、貴女様は……!」

ボンノーが驚愕に震えながら口を開きかけた、その時。

「ボンノーさま……」

すぐ近くで、シノの声がした。

振り返ると、フードを被った少女は複雑な表情でこちらを見つめていた。その瞳には、驚きと、困惑と、そして――

(……この気持ちは、なに……?)

シノの胸の内で、初めて味わう感情が渦巻いていた。

自分を救ってくれた恩人。共に旅をする仲間。そして、いつの間にか特別な存在になっていた人。

その人が、別の女性と――しかも、こんなにも美しい女性と――

「あ、あの……ボンノーさま……」

シノが何か言いかけた瞬間。

ボンノーの顔が、一気に真っ赤に染まった。

唇の感触が、まだ残っている。

グレアの――いや、あの美しい女性の――

「ぼ、煩悩が...煩悩が...!」

混乱した様子で呟く。

「百八年の修行が...初めての...」

声が震える。心臓が激しく打ち、呼吸が乱れる。

「ふ、ふつつかながら拙僧の初めても...」

言葉が支離滅裂になっていく。

鼻から一筋の血が流れ始める。

「ぐふっ...」

視界が揺らぎ、膝から崩れ落ちた。

ばたり。

「ボンノーさま!?」

シノが慌てて駆け寄る。

「あーあ、ボンノーさん鼻血出して倒れちゃった! よっぽど嬉しかったんだね~!」

ヴィヴィが楽しそうに茶化す。

◆ ◆ ◆

「おいおいおい! エロ坊主! なにをいちゃついてやがる!!」

半人半蛇の化け物と化したガルドが、不快そうに吠えた。

「俺様と戦ってる最中だってのに、キスなんかしてんじゃねぇ!」

その言葉に、グレア――正体を現した姫騎士が、はっと我に返った。

「ち、違う! 今のは事故だ! 無効だ!」

慌てて立ち上がり、落ちていた剣を拾い上げる。

「そ、そうだ、今のは無し! 見なかったことにしろ!」

必死に男口調を取り繕うが、顔は真っ赤なままだった。

しかし、その時――

(……何か、感じる)

グレアの内側で、何かが目覚めようとしていた。

熱い。体の奥底から、力が湧き上がってくる。

(これは……まさか、権能……?)

特別な資質を持つ者にのみ宿るという、神秘の力。それが今、覚醒しようとしている。

◆ ◆ ◆

グレアは素早く状況を見渡した。

ボンノーは気絶。シノはその傍で回復魔法を唱えている。ヴィヴィは大盾を構えて警戒中。

そして目の前には、巨大な化け物。

「ヴィヴィ!」

グレアが鋭く指示を飛ばす。

「ボンノーとシノを守れ! ここは俺が引き受ける!」

「え、でも一人じゃ――」

「大丈夫だ」

グレアは顔を真っ赤にしながら、剣を構えて深く息を吸った。

そして、ガルドを真っ直ぐに見据えて啖呵を切る。

「貴様のような外道が、これ以上この地を汚すことは許さない! 王国騎士の名において――いや、リヴィエラの姫騎士として、貴様を討つ!」

「はぁ? 姫騎士だぁ?」

ガルドが嘲笑を浮かべる。

「女が騎士の真似事か! 笑わせるな!」

「……笑いたければ笑え。だが――」

グレアの全身から、赤いオーラが立ち上り始めた。

「これが、俺の誇りの証だ!」

◆ ◆ ◆

「リヴィエラの姫騎士、その名に懸けて――勇気の光、いま解き放て!」


『姫騎士権能・ブレイブハート!』


叫びと共に、赤いオーラがグレアの全身を包み込んだ。

髪が逆立ち、瞳が紅蓮に輝く。握る剣もまた、赤い光を纏って振動し始めた。

「な、なんだ……この力は……!?」

ガルドの声が震えた。本能的な恐怖が、化け物の体を貫く。

「ば、馬鹿な……人間がこんな力を……!」

赤いオーラは増大し続け、周囲の空気すら歪ませ始めた。地面に亀裂が走り、小石が浮き上がる。

「こ、これは……まさか……!?」

ガルドが驚愕の声を上げる。

次の瞬間――

シュッ!

グレアの姿が、掻き消えた。

「速い!?」

通常の三倍――いや、それ以上の速度!

赤い彗星の尾を思わせる残像を引きながら、グレアはガルドの懐に飛び込んでいた。

一閃。

鋭い斬撃が、化け物の鱗を切り裂く。

「ぐあっ!」

二閃、三閃――紅の閃光が軌跡を描く。

四閃、五閃、六閃――空気が裂け、音が遅れて追いつく。

七閃、八閃、九閃――もはや残像すら捉えきれぬ速さ。

まるで戦場に咲く紅蓮の華。舞うように、斬るように、ただ静かに――美しい。

「くそっ! 動きが見えねぇ!」

ガルドが巨大な尾を振り回すが、グレアは軽やかにそれを躱す。

跳躍、回転、そして斬撃。

月光の下で繰り広げられる、美しくも激しい剣舞。

◆ ◆ ◆

「これで――終わりだ!」

グレアが高く跳躍し、剣を振りかぶる。

赤いオーラが最高潮に達し、刃が眩く輝いた。

(この力……導かれるように技の名が浮かぶ……!)

まるで体の奥底に眠っていた記憶が覚醒するように、必殺の技名が口をついて出た。

『紅蓮剣・裂光斬!』

振り下ろされた一撃が、空間そのものを切り裂くように、ガルドの体を真っ二つに断ち切った。

「ば、馬鹿な……俺が……この俺様が……! 人間ごときに……! グギャアアアアアァ……」

断末魔と共に、化け物の体が崩れ落ちる。

どす黒い血が飛び散り、やがて動かなくなった。

静寂が、戦場を包んだ。

◆ ◆ ◆

「う……ん……」

ボンノーがゆっくりと目を覚ました。

「ここは……?」

「ボンノーさま! よかった、目を覚まされて……」

シノがほっとした表情で顔を覗き込む。

「あ、起きた! ボンノーさん、大丈夫?」

ヴィヴィが心配そうに、でも口元は少しにやけながら近づいてくる。

その時、グレアが慌てたように立ち上がった。

「あ、兜……!」

月光の下に転がったままの白銀の兜を見つけ、素早く拾い上げる。そして、迷うことなくすぐに被り直した。

「……ふん、これがないと落ち着かない」

低い声で呟きながら、兜の位置を調整する。

顔を隠してしまえば、照れも恥ずかしさも誤魔化せる――そんな安堵感が、グレアの肩から力を抜かせた。

「ガルドは……?」

「倒しました。グレアさんが」

シノが静かに答える。その声には、わずかな寂しさが混じっていた。

振り返ると、赤いオーラが消えかけているグレアが、肩で息をしながら立っていた。

「グレア殿……いや、貴女様は一体……」

ボンノーが問いかけると、グレアは慌てたように顔を背けた。

「さ、さっきのは事故だ! 無効だからな!」

「え? いや、拙僧が聞いているのは……」

「だから違うって言ってるだろ! わざとじゃない!」

兜の奥から慌てたような声で、必死に否定する。

「あ、あれはキスじゃない! ただの事故! 偶然唇が触れただけで……」

「ふーん、事故ね~」

ヴィヴィが意味深に笑う。でも、その頬もほんのり赤い。

「……でも、三秒は長いよね」

「み、見てたのか!?」

グレアが慌てふためく。

「う、うん……たまたま……」

ヴィヴィも少し照れたように視線を逸らした。

「は、はい……拙僧も、その……事故ということで……」

ボンノーも顔を赤くしながら頷く。

一方、シノは少し離れた場所で、複雑な表情を浮かべていた。

(事故でも……キスは、キスですよね……)

小さくため息をつきながら、胸の奥のもやもやとした感情を押し殺す。

「……シノちゃん」

ヴィヴィがそっと近づいてきた。

「大丈夫?」

「え? な、何がですか?」

「ううん、なんでもない」

ヴィヴィは優しく微笑んだ。自分も実は、少しだけ胸がちくりとしたことは内緒だ。

◆ ◆ ◆

「とにかく、水車小屋に戻ろう」

ボンノーが咳払いをして提案した。

「捕らえられていた女人殿が、まだあそこにいるはずだ」

「そ、そうだね」

ヴィヴィも慌てて話題を変えた。

四人は水車小屋へと向かった。

道中、ヴィヴィは時折グレアとボンノーをちらりと見ては、小さく微笑んでいた。

(なんか……いいなぁ)

そんな思いを胸に秘めながら。

月は静かに、四人の背中を見守っていた。

この夜の出来事が、それぞれの心に刻んだ想いの深さを、まだ誰も知らない――。

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