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ボンノーさまがいく ~異世界で46cm三連砲を撃つ物語~  作者: wok
第1章 108歳童貞煩悩坊主が異世界へ

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第13話 拙僧、水車小屋にて外道の化身と対峙す

夕刻、宿屋『月牙亭』の一室――

質素な夕食が木のテーブルに並んでいた。固いパンと薄い野菜スープ、それに申し訳程度の干し肉。

「……今夜の戦いに備えて、もう少し良いものを食べたかったけどね」

ヴィヴィが残念そうにスープをすすった。

「すまぬ……拙僧が金貨を二枚も使ってしまったばっかりに……」

ボンノーが申し訳なさそうに頭を下げる。

「いいよいいよ! また冒険で稼ごうよ!」

ヴィヴィが慌てて手を振った。

「……ボンノーさまが金貨を差し出したのは、私を荷台から降ろさずに済ませるためですよね。どうかご自分を責めないでください――ありがとうございます」

シノは淡い金の睫毛をふわりと伏せ、頬をわずかに染めた。

「贅沢は言えぬ。腹が満ちれば十分じゃ」

ボンノーは静かにパンをちぎりながら、遠い目をした。

「……腹が減っては戦はできぬ、か」

グレアは兜を外さぬまま、器用にパンを口元へ運んでいた。

質素ながらも、四人は黙々と食事を済ませた。

窓の外では、夕陽が赤く町を染め始めていた。

◆ ◆ ◆

日が完全に沈み、月が顔を覗かせる頃――

四人は宿を抜け出し、町はずれの水車小屋へと向かった。

小屋の周囲は森に囲まれ、水車の回る音だけが静かに響いている。

「ここじゃな」

ボンノーが錫杖を握りしめた。

「まだ誰も来てないみたいだね」

ヴィヴィが周囲を見回す。

「茂みに隠れて待とう」

グレアの提案で、一行は水車小屋を見渡せる茂みに身を潜めた。

◆ ◆ ◆

しばらくすると、松明の明かりが揺れながら近づいてきた。

黒羽隊の兵士が二人、大きな麻袋を担いでいる。

「重てぇな、おい」

「文句言うな。ガルド様のお楽しみだぞ」

兵士たちは水車小屋の扉を開け、麻袋を中に運び込んだ。

そして何事もなかったかのように立ち去っていく。

「……袋の中身は……」

シノが不安そうに呟いた。

「おそらく、女人じゃろう」

ボンノーの拳が震えた。

◆ ◆ ◆

さらに一刻ほど待つと、再び松明の群れが近づいてきた。

今度は十人ほどの黒羽隊に護衛され、巨躯の男が悠然と歩いてくる。

月光に照らされたその顔は、まさに悪徳領主ガルドその人だった。

「始まるぞ」

グレアが剣の柄を握る。

ボンノーは静かに作戦を告げた。

「まず、シノ殿が『白ノ四式・サークルスリープ』で護衛を眠らせる。耐えた者は拙僧とグレア殿で峰打ちじゃ」

「わかりました」

「了解だ」

「あたしは?」

「ヴィヴィ殿は、いざという時の盾になってもらう」

「任せといて!」

◆ ◆ ◆

ガルドが水車小屋に入るのを確認してから、作戦は開始された。

シノが静かに詠唱を始める。

『白ノ四式・サークルスリープ!』

淡い光が護衛たちを包み込む。

八人がその場に崩れ落ちた。

しかし、二人だけは踏みとどまっている。

「な、なんだ!?」

「敵襲か!?」

その瞬間、ボンノーとグレアが茂みから飛び出した。

錫杖の柄が一人の後頭部を打ち、剣の峰がもう一人の首筋を叩く。

二人の兵士は、声も上げずに気絶した。

「よし、縛り上げるぞ」

手際よく十人全員を縄で縛り、近くの木に括り付ける。

◆ ◆ ◆

その時、水車小屋の中から不気味な声が漏れ聞こえてきた。

「がははは! いい女じゃねぇか!」

ガルドの下卑た笑い声だった。

「女はみんなヨコマール様に献上すんのが決まりよ。その前に、お前は俺様がたーっぷり味見をしてやる!」

くぐもった女性の呻き声が続く。口を塞がれているのだろう。

「……許せない」

シノの全身が震えていた。

「行くぞ!」

ボンノーの号令と共に、四人は水車小屋へ突入した。

◆ ◆ ◆

扉を蹴破って飛び込むと、そこには信じがたい光景が広がっていた。

粗末な藁の上に、褐色の肌をした耳の長い女性が転がされている。首には禍々しい紋様が刻まれた首輪がはめられ、口は布で塞がれていた。

そしてその上に、獣のような笑みを浮かべたガルドが覆いかぶさろうとしていた。

「なんだ、てめぇら!?」

ガルドが振り返る。その顔に、驚愕の色が走った。

「まさか……リリア!?」

シノ――いや、聖女リリアがフードを脱ぎ捨てた。

淡い金色の髪が月光に照らされ、神々しく輝く。

「ガルド……神の名において、あなたの悪行をここで終わらせます!」

凛とした声が、小屋に響き渡った。

「私は――聖女リリア。あなたに殺されかけた、あのリリアです」

「ば、馬鹿な! 俺は確かにお前の喉を切り裂いた! 呪いの刃も突き立てた! 生きているはずがない!」

ガルドの顔が青ざめる。

「神の御加護により、私は蘇りました。そして今――あなたの罪を裁くためにここにいます」

リリアは祈りの杖を掲げた。

「神と正義の名のもとに――悪徳領主ガルド、ここで裁きを受けなさい!」

◆ ◆ ◆

「ふざけるな!」

ガルドは壁にかけていた大剣を抜き放った。

「死人が生き返るなんざ、あり得ねぇ! 幻覚か、それとも偽物か!」

ボンノーは一歩前に出て、わざと挑発的に錫杖を構えた。

「ほう、その程度の剣術で、よくも領主が務まったものじゃな。拙僧ならば、この錫杖一本でも――」

そう言いながら、ボンノーは素早く錫杖を振るい、小屋の中央にあった木樽を叩き割った。

樽から水が溢れ出し、床を濡らしていく。

「おっと、すまぬな。この狭い場所では、お主の自慢の大剣も宝の持ち腐れじゃろう? 天井に当たって満足に振れまい」

「てめぇ……!」

ガルドが大剣を振り上げた瞬間、刃が天井の梁にぶつかり、木屑が舞い散った。

「ほれ見よ。外ならば存分に暴れられようが……まさか、狭い場所でしか戦えぬ腰抜けか?」

ボンノーはにやりと笑いながら、じりじりと扉の方へ後退する。

「舐めやがって! 表へ出ろ! その生意気な口、叩き潰してやる!」

激昂したガルドは、大剣を担いで扉を蹴破り、勢いよく外へ飛び出した。

(うむ、思った通りじゃ。単純な男よの――これで女人も安全であろう)

ボンノーは内心でほくそ笑みながら、仲間たちと共に外へ続いた。

月明かりの下、四人とガルドが対峙する。

――暗い川の流れと水車のきしむ音が、夜の静けさを切り裂いていた。

◆ ◆ ◆

「始めるぞ」

ボンノーが錫杖を構えた。

リリアが詠唱を開始する。

「生命の女神レファリアよ――我が祈りを受け、守護の環を顕現せよ!」

『白ノ二式・サークルプロテクション・ツヴァイ!』

「生命の女神レファリアよ――我が祈りを受け、仲間に祝福の息吹を与え給え!」

『白ノ二式・サークルブレス・ツヴァイ!』

二重の加護が仲間たちを包み込む。

「行くよ!」

ヴィヴィが大盾を構えて前に出る。

ボンノーとグレアが左右から挟み込むように動いた。

ガルドの大剣が唸りを上げて振り下ろされる。

ガァン!

ヴィヴィの大盾が激突を受け止めた。

「ぐっ……重い!」

「だが、隙だらけだ!」

グレアの剣がガルドの脇腹を狙う。

しかし、ガルドは信じられない反射神経でそれを躱した。

「甘いな、騎士風情が!」

大剣を横薙ぎに振るい、白銀の鎧を纏ったグレアを弾き飛ばす。

「グレア殿!」

ボンノーが錫杖で追撃を防ぐ。

「こいつ……強い!」

ヴィヴィが歯を食いしばる。

殺しのプロとして長年君臨してきたガルドの実力は、噂に違わぬものだった。

◆ ◆ ◆

激しい攻防が続く。

四人がかりでも、ガルドを追い詰めるのは容易ではなかった。

しかし、徐々にガルドは劣勢へと追い込まれていく。

「はぁ……はぁ……」

ガルドの呼吸が乱れ始めた。

「くそ……四対一じゃ、分が悪い……」

その時、ガルドは懐から奇妙な物を取り出した。

黒い液体の入った注射器のようなもの。

「これは……ヨコマール様から賜った、最後の切り札だ!」

リリアが息をのむ。

「な、何をする気ですか――やめなさいっ、ガルド!」

しかし、止める間もなくガルドは自らの首筋にそれを突き刺した。

「グガァァァアアアッ――ッ!!」

獣のような雄叫びが夜空に響き渡る。

ガルドの体が、みるみるうちに変貌していく。

骨が軋む轟音とともに皮膚が裂け、下から黒い鱗が芽吹いた――それは人という器が砕ける音。

膨れ上がった筋肉は鱗に覆われ、腕も脚も異形へねじ曲がる。

最後に腰から下が蛇の胴へと伸び、巨大な尾が地面を叩きつけた。

「ちょ、なにあれ!?」

ヴィヴィが震え声を上げる。

半人半蛇の化け物――

それが、ガルドの成れの果てだった。

「ぐるるるる……力が……みなぎる!」

化け物と化したガルドが、赤い眼で一行を睨みつける。

「これで……お前らなど……ひとひねりだああああ!」

巨大な尾が、凄まじい速度で振るわれた。

「みんな散れ!」

ボンノーが叫ぶ。

ヴィヴィとリリアは素早く横に飛び退いた。

しかし――

「ぐあっ!」

不意を突かれたグレアが、巨大な尾の直撃を受けた。

白銀の鎧が激しい音を立てながら、宙を舞う。

カラン――

衝撃で兜が吹き飛び、月光の下に転がった。

兜の下から解き放たれた亜麻色の髪が、夜風になびきながら広がっていく。

「グレア殿!」

ボンノーは錫杖を投げ捨てた。

半人半蛇の化け物が、不気味な笑い声を上げる。

「がははは……まずは一人……!」

吹き飛ばされたグレアの体が、地面に叩きつけられようとしていた。

(間に合え……!)

ボンノーはグレアを受け止めるべく、全力で駆け出した。

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