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ボンノーさまがいく ~異世界で46cm三連砲を撃つ物語~  作者: wok
第1章 108歳童貞煩悩坊主が異世界へ

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第12話 拙僧、娼館街にて煩悩の極致を見る

バスタの町、薄汚れた石畳の裏通り――

「ここでよかろう」

ボンノーが錫杖で指し示したのは、城壁に程近い三階建ての宿屋だった。看板には『月牙亭』とかすれた文字が刻まれている。外観こそ古びているが、扉や窓枠は手入れが行き届いており、信頼できそうな雰囲気があった。

「うーん、ちょっと高そうだけど……」

ヴィヴィが財布の中身を確認しながら首をかしげる。

「安全第一じゃ。ガルドの手の者がうろつく町で、宿選びを誤るわけにはいかぬ」

一行は重い木扉を押し開け、薄暗い受付へと足を踏み入れた。カウンターの奥から、白髪混じりの宿主が顔を出す。

「いらっしゃい。四名様かね?」

「うむ。数日ほど世話になりたい」

ボンノーが銀貨を差し出すと、宿主は素早く勘定して頷いた。

「部屋は二階に三つ空いてる。どう振り分けるかね?」

ボンノーは振り返り、仲間たちを見渡した。

「ふむ……拙僧とグレア殿で一部屋、シノ殿とヴィヴィ殿で一部屋というのはどうじゃ? 経費節減にもなる」

瞬間、白銀鎧から冷たい声が放たれた。

「断る」

「え、えっと……」

ボンノーが困惑していると、グレアは腕を組んだまま続けた。

「俺は一人がいい。それに――」

兜の奥から、じっとボンノーを見つめる視線を感じる。

「お前、寝相が悪そうだ」

「そ、そんなことは……」

「じゃあ決まり!」

ヴィヴィが手を叩いた。

「あたしとシノちゃんで一部屋、ボンノーさんとグレアさんはそれぞれ個室ね!」

「いや、しかし宿代が……」

「ケチくさいこと言わないの! 命あっての物種でしょ?」

結局、グレアとヴィヴィの押しに負け、三部屋を確保することになった。

◆ ◆ ◆

夕刻、二階の一室――

「シノ殿、申し訳ないが、今夜は部屋で待機していただけぬか」

ボンノーが神妙な面持ちで切り出した。

「街の様子を探りに行くのですね。私も――」

「いや、危険すぎる」

グレアが首を横に振る。

「ガルドの手下どもが、お前の顔を知っている可能性がある。俺が護衛につく」

シノは少し不満そうな表情を見せたが、やがて小さく頷いた。

「……わかりました。でも、皆さんも気をつけてくださいね」

「うん、任せて! あたしとボンノーさんで、ばっちり情報収集してくるから!」

ヴィヴィが胸を叩いて見せた。

かくして、ボンノーとヴィヴィの二人は、夜のバスタへと繰り出していった。

◆ ◆ ◆

石畳の通りを歩きながら、ボンノーは違和感を覚えていた。

「……妙じゃな」

「ん? 何が?」

「若い女子おなごの姿が、ほとんど見当たらぬ」

確かに、道行く人々は男か老婆ばかり。活気ある町なら当然いるはずの、若い女性の姿がまるでない。

「……不気味だね」

ヴィヴィも顔をしかめた。

やがて二人は、黒羽隊の兵士たちが集う酒場へとたどり着いた。『黒山羊亭』――扉の向こうから、粗野な笑い声と酒臭い空気が漏れてくる。

「行くよ、ボンノーさん」

「うむ」

◆ ◆ ◆

薄暗い酒場の片隅で、黒羽隊の兵士たちが杯を傾けていた。二人は隣のテーブルに着き、ヴィヴィは麦酒、ボンノーは麦茶を注文した。そして、さりげなく黒羽隊の会話に耳を傾ける。

「――で、三日後だとよ」

髭面の兵士が、仲間に向かってぼやいた。

「王都への女輸送任務。めんどくせぇ」

「ヨコマール枢機卿様のご命令だろ? シスター見習いにするんだとか」

「へっ、表向きはな」

兵士たちが下卑た笑いを漏らす。

「ガルド様はいいよなぁ」

別の兵士が羨ましそうにつぶやいた。

「明日の夜、護送される女の中から上物を味見するらしいぜ」

「マジかよ!」

「町はずれの水車小屋でな。いいなぁ、俺も味見してぇなぁ」

ボンノーの拳が、静かに震えた。

(……外道どもめ)

ヴィヴィもまた、大盾を握る手に力を込めていた。

貴重な情報を得た二人は、これ以上の長居は無用と判断し、静かに店を後にした。

◆ ◆ ◆

宿への帰路――

月明かりの下、ボンノーは足を止めた。視線の先には、周囲とは明らかに異質な一角があった。そこだけ石畳が磨き上げられ、建物の窓からは赤い灯りが漏れている。艶やかな笑い声と、甘い香りが風に乗って流れてきた。

「……あそこは何じゃろうな」

「ボンノーさん、ダメだよ!」

ヴィヴィが慌てて袖を引く。

「あそこは……その……男の人が行く場所だから!」

「男が行く場所? 拙僧も男じゃが……」

「違う違う! えーっと、つまり……」

ヴィヴィが顔を真っ赤にしてもごもごしていると、ボンノーは錫杖を握りしめた。

「情報収集は多いに越したことはない。拙僧、ちと見て参る」

「ちょ、ボンノーさん!?」

制止を振り切り、ボンノーは赤い灯りの区画へと足を踏み入れた。

◆ ◆ ◆

――それは、地獄だった。

いや、極楽だった。

いやいや、煩悩の坩堝るつぼだった。

薄絹をまとった女たちが、窓から身を乗り出して手招きをしている。

「あらぁ、お坊さま♪」

「堅そうなお顔して、実は――」

「ふふっ、遊んでいかない?」

甘い声が四方八方から降り注ぐ。香の匂いが鼻腔をくすぐり、赤い灯りが視界を染める。

(こ、これは……!)

108年間、ひたすら煩悩を断ち切ってきた身には、あまりにも刺激が強すぎた。

「お坊さま、こっちよ~♪」

艶めかしい手が、ボンノーの袖を掴む。

「!?」

振り返れば、豊満な肢体を惜しげもなく晒した女が、妖艶な笑みを浮かべていた。

「初めて? 大丈夫よ、優しくしてあげる♪」

(だ、だめだ……煩悩が……煩悩があああああ!!)

プシュー!

鼻から赤い噴水が吹き出す。

「きゃあ!?」

女が驚いて手を離した瞬間、ボンノーは全力で逃走を開始した。

「な、南無三宝! 煩悩即菩提! 拙僧はまだ108歳の若輩者ゆえ、この程度の誘惑には……ひいいいいい!」

錫杖を振り回しながら、まるで悪霊から逃げるように走り去るボンノー。その後ろ姿を、女たちは呆然と見送った。

「……変わったお坊さまね」

「でも、可愛かったわ」

くすくすと笑い声が、夜の街に響いた。

◆ ◆ ◆

宿屋『月牙亭』――

「はぁ……はぁ……」

息も絶え絶えに戻ってきたボンノーを、先に帰って待っていたヴィヴィが呆れ顔で出迎えた。

「遅いよ、ボンノーさん! あたし、止めたのに勝手に行っちゃうから、先に戻って待ってたんだよ」

「す、すまぬ……拙僧、あのような場所があるとは……」

鼻に詰め物をしたボンノーは、力なく頷いた。

階段を上がると、心配そうな顔をしたシノと、腕を組んだグレアが待っていた。

「ボンノーさま、お怪我は……って、その鼻は?」

「いや、その……」

ヴィヴィが状況を説明すると――

「……まあ、男なら仕方ないか」

グレアが腕を組んだまま言いかけたが、途中で咳払いをした。

「い、いや、そういう場所に行くのは感心しないな。破廉恥だ」

妙に力の入った否定に、ヴィヴィが首をかしげた。

「グレア、なんか反応が変じゃない?」

「う、うるさい! とにかく、坊主のくせに情けない!」

兜の奥で顔を赤くしているとも知らず、ボンノーは首をかしげた。

「……? グレア殿、顔でも赤いのか? 声が上ずっておるが……」

「な、なんでもない! 次の話だ、次!」

(なぜ急に怒ったのじゃろう……男同士なら理解してくれると思ったのじゃが……)

ボンノーは唖然としながら、グレアの不可解な反応に頭を悩ませるのだった。

「ボンノーさま……そういう場所に行かれたんですか……」

シノの視線も、どこか冷ややかだった。

「ち、違う! 拙僧はただ情報収集を――」

「ボンちゃんのばか……」

シノの「ボンちゃん」呼びには、明らかに軽蔑のニュアンスが込められていた。

「誤解じゃ……拙僧は純粋に情報を……」

膝から崩れ落ちるボンノー。

しかし、ヴィヴィが真面目な表情で口を開いた。

「でも、重要な情報も手に入れたんだ」

そして、酒場で聞いた黒羽隊の会話を伝える。三日後の女性輸送、明日の夜の水車小屋――

「……許せない」

シノの瞳に、静かな怒りの炎が宿った。

「明日の夜か」

グレアが剣の柄を叩く。

「必ずガルドを討ち取る――」

「うむ」

ボンノーが立ち上がり、錫杖を床に突いた。

「明日の夜、水車小屋にガルドが現れる。これは千載一遇の好機じゃ。奴を討てば、捕らわれた女性たちも自然と解放されよう」

「そうだね! 元凶を叩けば全部解決!」

ヴィヴィも拳を握りしめる。

「ガルドさえいなくなれば、黒羽隊も烏合の衆。女性たちの輸送も止められます」

シノも静かに頷いた。

「明日の夜、水車小屋で必ず仕留める」

グレアが剣の柄を叩く。

こうして、作戦会議が始まった。娼館街での醜態はひとまず棚上げされ、四人は明日の夜に向けて準備を整え始めた。

だが、ボンノーの脳裏には、あの赤い灯りと甘い声が、まだ鮮明に焼き付いていた。

(煩悩……恐るべし……)

合掌しながら、ボンノーは深く反省するのだった。

しかし――

明日の夜、水車小屋で待ち受けるものが、さらなる煩悩の試練になろうとは、この時はまだ知る由もなかった。

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