現代のお城
遥か古の時代。
魔王が勇者に敗北した。
自分を撃ち滅ぼした青年に魔王は告げる。
「見事なり。しかし忘れるな。我は何度でも蘇る」
勇者は吐き捨てる。
「黙れ。それならば俺もまた何度でも蘇り貴様を殺す」
魔王はその言葉に笑う。
そしてその笑みを最後に死んでしまった。
遺骸となった魔王に勇者はぽつりと告げた。
「そんなにも美しいのだから、次の生はただの女として生まれることを願う」
宿敵から手向けられた言葉を魔王は受け取ることは出来なかった。
・
・
・
初々しいカップルが手を繋いで出て行くのを僕は見送った。
給料が良いから働いているが職場の環境は最悪。
早く新しい仕事を見つけなきゃな……なんて思っているとドアが開く。
「ここか?」
僕は思わず声を漏らした。
入って来たのはまだ五つくらいにしか見えない幼女だったのだ。
なんでこんなところに……親は何をしているんだ?
あぁ、もしかしたら外観がお城にしか見えないから興味を惹かれてやってきたのだろうか。
そんなことを思いながら僕は幼女のもとへ向かう。
「お嬢ちゃん、どうしてここに来たの?」
「あっ? お前は門番か?」
そう言いながら僕を見上げた彼女と視線があった瞬間。
僕はたった今まで忘れていた記憶を全て思い出す。
遥か古の時代。
宿敵であった魔王の記憶を。
そして、彼女を殺すために何度も転生すると誓ったことを。
「えええええ!? お前何してるの!!?」
「は? うわ!? 勇者!?」
驚いた様子の幼女だったが僕が誰だか気づいた瞬間に顔を顰める。
「復活した直後に貴様と会うなんてなんたる幸運。あの時の続きを……!」
そんなことを宣う彼女を僕は慌てて抱え込み外へ出る。
「な! 貴様! 何をする! 我を城の中に戻せ!!」
「あのね!! あそこはお前のお城じゃないの!」
「馬鹿を言うな!! あんなに欲望にまみれた場所が魔王の城でないはずないだろう!!」
「と・に・か・く! お前はまだ小さいんだからあんな場所に入っちゃいけません!!」
混乱している魔王を他所に僕はアルバイト先であるラブホテルをこの日バックレた。
この日以降、魔王と僕のドタバタな日常が始まるがそれはまた別のお話。