第18話「停戦条約」
結局、新たな部屋でそれぞれ朝を迎えた。
(あんまり寝れなかった気がする。)
「…寝れなかったのか。そんな繊細な玉じゃないだろう。」
挨拶も無しにかけられた言葉は、以前だったら軽く流していたと思う。
しかし、ジャックも自分と同じように昨日のリリスの発言で悩んだのではないか、そんな自分を気遣っているのではないかと余計な勘繰りをしてしまった。
無言でリリスの部屋へと向かいながら、昨日、ロビーでの姿を思い起こす。
リリスの言葉に、リツは、息を呑んだまま、視線を逸らせなかった。
その言葉は、冷たく響いたはずだった。
計算高く、無慈悲な意味として受け取ることもできた。
なのに、どこか、胸の奥が騒めく。
<命は尊い。だから、いちばん無駄にならないところに置く。>
(違う…いや、違うのか?)
あの言葉は、命を切り捨てる論理じゃない。一晩悩んだ結果、そうリツは確信していた。
戦場で命を雑に扱う連中とは違う。
もっと、世界の不条理を理解した上で、それでもなお立ち向かおうとする者の声。
(……あの人、捨ててないんだ。命も、希望も。)
リツは、リリスという人間の“中身”に一瞬だけ触れた気がして、
それが不思議なほど、胸に引っかかった。
(あの人に……情があるなんて、思いたくなかった。)
いつも冷酷無慈悲に薄い微笑みを称えている彼女の人間の部分。
彼女は、平然と他人の命を道具にするように見えて、それ以上に自分を軽んじていたのだ。
自分という存在を、ただの駒として最大限に使うために、命すらも計算に組み込んでいる。
それでいて、彼女は、命を道具として使うという責任から逃げずに向き合っている。
だからこそ、最大限活用するとの決意から溢れ出た言葉だったのではのではないだろうか。
フェッレット事務官に会って、彼の純粋さを眩しいと思っている自分に気が付いた。
だが、彼女はその眩しさに背を向けることなく、正面から受け止め、覚悟で応えた。
彼女の言葉に応えるように、ロビーから戻るフェレット事務官の表情は緊張だけでなく、決意のようなものが滲んでいたように思う。
リツも同じだった。
人として、惹かれてしまう。
信じてしまう。無意識に。彼女の信じるものを。
(……僕は、やっぱりリリスさんを信じてみたい。)
それが、一晩悩んだ末のリツの結論だった。
何も言わないリツの様子に、珍しくこちらを伺うようなジャックと目が合う。
「…ちょっとだけだよ。でも、ジャックも昨日は遅かったんじゃないのか?」
「ああ、少しな。」
フェレットが貴族議員会館に戻ってから、リリスはジャックにだけ個別の依頼を行っていた。
「結局、何だったんだ?」
ジャックは肩をすくめる。
「……ああ、最近は色んな人間とよく会うな。」
「え?」
意味深な言い方だった。
リリスの部屋へと向かう朝の廊下には、ホテル従業員が各部屋に届けていた朝刊がずらりと並んでいた。
「レディーリリスから朝刊を持ってくるよう言われているから先に行け。」
「ああ。」
ジャックの後ろ姿を追ってチラリと表紙を見る。
そこには、衝撃的な見出しが躍る。
<自国民を巻き込んだテロ ― ホテル爆破事件>
思わず眉をひそめ、ジャックを押しのけるように新聞を手に取る。
見開きの記事には、ホテルでの爆発事件の詳細が、あたかもヴェストリア連邦国内の強硬派による“内乱的テロ”であるかのようにセンセーショナルに記されていた。
「……嘘だろ。」
リツは唇を噛みながら紙面を繰る。
爆破の背景には、戦争を助長するような破壊活動があるという憶測、さらに今後市民にまで被害が及ぶ危険があったことが強調されていた。
だが、そこに“アリス”の名は、一切記されていない。
事件の被害者としてさえ、彼女は存在していなかった。
(徹底的に、痕跡を消してる。)
まるで、彼女が“最初から存在しなかった”かのようだった。
そして代わりに紙面を覆っているのは、 「強硬派=国民を狙う危険思想集団」という、あまりにもわかりやすいレッテルだった。
記事によれば、声明文等があるわけではないが、複数の遺体それもヴェストリア連邦を過度に称える際に使われる旗のシンボルが目撃されたとされている。
(情報戦……いや、“印象戦”だ。)
「昨日の成果だな。」
ジャックの顔に美しい微笑みが浮かぶ。
どうやったかは分からない。しかし、反逆者狩りに対しての脅しは、リリスが物理的に彼らを返り討ちにすることだけではなかったのだ。
ヴェストリア連邦国内で進行する“反逆者狩り”を主導している”強硬派に対して、その正当性を崩し、世論の不信感を植え付ける。
強硬派とは、市民を巻き込むような勢力であり、国民を傷つける危険思想だと知らしめたのだ。
(……他国であっても、本気で国ごと動かそうとしてるんだ。)
リツは手に持った新聞を畳む。その顔にはうっすらと微笑みが浮かんでいた。
やり方は冷酷だ。
たった一夜で、悪意の対象をたった一人の命から”国民全体”へとすり替えたのだ。
「リリスさん……。」
小さく呟いた名は、新聞には一文字も存在していなかい。
しかし、ヴェストリア連邦の歴史の一頁が、確かにその手で書き込まれていた。
朝刊を持ってリリスの部屋の扉を開ける。
「あら、リツ君、少しいい顔をするようになったわね。」
アリスの表情の奥に、見慣れた微笑みが見えた。
§
昼下がりの陽光が廊下の壁に差し込むころ、ホテルの内線に一報が入った。
リツがロビーまで降りると、そこには昨夜よりもさらにやつれた顔のフェレット事務官の姿があった。
ワイシャツの襟元は乱れ、眼の下にはくっきりとした隈。
一晩中、ほとんど眠らなかったのだとすぐにわかる。
「……ご無沙汰しています。アリス臨時顧問と、リツさん、ジャックさんにも。」
いつもの丁寧な口調を保ってはいるが、声にかすれがあった。
「お疲れですね。」
リツが声をかけると、フェレットは苦笑した。
「ええ、徹夜です。……というより、昨日から、その騒然としていて、寝る空気でもなくて。」
小さなため息と共に、フェレットの手には折りたたまれた新聞があった。
椅子を薦めると、ゆっくりとそれを広げる。
「……こちらの記事ですが……今、タレコミ先を軍が血眼になって探しています。我々としても流石に事件自体を隠せるとは思っていませんでした。その、ですが、こういった形で出るとは完全に予想外です。」
呆然としたまま、彼は記事の見出しに目をやる。
「皆さんは、その、関わっていないですよね。」
「…。」
リリス―――アリスは当然応えようとしない。
沈黙に耐えかねたフェレットが唾を飲み込む音がやけに響いた。
「………大丈夫です。一応、確認して来いとは言われましたが、国賓に簡単には手出しできないので。」
その声には、驚愕よりも、どこか諦めにも似た感情が滲んでいた。
(疑ってはいる…けど、こっちの味方?いや同士ぐらいには思ってくれているのかもな。)
昨日の様子もそうだが、フェレットは今回の協定に対して前向きであるのは変わっていないようだ。ホッと胸を撫でおろす。
だが、次の瞬間、彼は気を取り直すように顔を上げた。
「ただ、皆さんには明日までヴェストリア連邦側の護衛も付くことになったので、それだけご了承ください。」
「”護衛”ね…。」
ジャックの疑いを隠そうともしない態度にフェレットが冷や汗を流す。
「あの、実は、今回の記事も踏まえて……議員の方がも含め、空気が変わりまして。」
リツが目を見張る。「ほう?」とジャックが片眉を上げた。
「何人か、昨夜まで腰が引けていた議員の方々が、今朝になって自分も出席すると態度を変え始めたんです。」
「明日の件か?」
「はい。非公式対話の場の設置、現実的な見込みが立ってきました。」
声は疲れていたが、その目には確かに光が宿っていた。
「…効いているな。」
ジャックが口角を上げる。
アリスが口を開いく。
「感謝します。フェレット事務官。」
フェレットに対して初めての笑みだった。
§
会談室の扉が閉まる音が響く。
長方形の重厚なテーブルには、ヴェストリア連邦の主要貴族議員たちと、対外経済安定局の長官代理および補佐官たちが顔を揃えていた。
表情は一様に硬く、警戒と探り合いが空気を濁らせている。
アリスの姿で現れた彼女が席に着く。
その一挙手一投足に注目が集まっていることが、傍から見ているリツにも伝わってくる。
その場にあって、彼女だけが、凪いだ様子でどこか異質だった。
対外経済安定局、長官代理が形式的な口上を述べようとした。
彼女は席に着くなり、周囲を見渡すこともなく、まっすぐに口を開いた。
「――本題に入る前に、昨日、私の身に起きた爆破・暗殺未遂について、公式な説明をいただけますか?」
沈黙が落ちた。
議員たちが一斉に視線を交わし、長官代理が小さく咳払いをしながらも回答する。
「……その件につきましては、現在軍部および治安当局が調査中であり、詳細な報告は―」
「“詳細”を求めてはいません。 公式な立場から、あれを『未遂事件』と認識しているかどうかを確認したいだけです。」
淡々とした声に、長官代理の表情が困惑で染まる。
補佐官が小声で何かを耳打ちすると、再度、何とか言葉を紡いだ。
「……はい。国家として、事実として、襲撃未遂は確認しております。遺憾ながら、犯人の身元や動機は不明のままですが……。」
「あら、悠長ですね。国民が狙われていると言うのに。」
挑発的な一言に場の空気が凍る。
「フン、誰が国民なものか。」
そう言ったのは強硬派側の議員だろうか。一気にさざめきが大きくなる。
「いいえ、間違えなく今人質に取られているのは貴国の国民ですよ。」
それは大きな声では無かった。しかし、確かに場の空気を一変させる。
「今回は非公式な交渉の場です。しかし、正式に手続きを踏み、膨大な工数をかけてこちらは伺っています。つまり、私がこの国に存在していた証拠は国家ぐるみであったとしても消すことは難しいでしょう。」
「何が言いたい!」
議員の一人はイライラとした様子で貧乏ゆすりをしている。
事務方の面々は正式な協定の交渉の前に一触即発の雰囲気に冷や汗を拭っている。
「もし、私が今からテロリストに襲われたことを公開すればどうなるでしょうか?」
「は?外交使節臨時顧問だったかな?君は、自分の命にそれほどまでの価値があると思っているのか!君ごときが襲われた事実など、我々にとっては大した事象ではないのだよ。」
(国を運用するましてや領地を持った人間が人の命を軽んじるなんて。ありえない。)
リツは、思わず鋭い視線で議員の方を見た。
すると、どこからかため息が聞こえてくる。
リリスだった。
「みなまで言うつもりはありませんが………多くの国は、貴国が私を狙い、隠蔽しようとしたと考えるでしょう。ヴェストリア連邦は国としての信用を損ない、国民は不名誉な国のレッテルを背負わされることになります。各国、貴国との協定の締結には慎重になり、最終的に経済優位性を失った後に、次は足元を見られるようになる。」
あくまで想像の範囲でしかないホラーストーリーだ。
(―でも、本当にそう仕向けかけないと思っているだろうな。)
先ほどまで、叫んでいた議員もリリスを睨みつけるだけで何も言って来ようとしない。
実際、ヴェストリア連邦の預かり知らぬところで、新聞の情報すらもリリスは操作していたのだ。この場にいる誰もがリリスが仕組んだことなのか、はたまた統合派によるものなのか、思考を巡らせているのだろう。
いずれにせよ、”アリス外交使節臨時顧問”というキャラクターの動き次第で、今の状況を逆手に取り、上記の筋書きに沿った”演出”をすることを匂わせたのだ。
先ほどまで、席を立ってリリスを挑発していた議員が尋ねた。
「脅しか?」
「いえ、可能性の問題です。」
間髪入れずに切り返す。
会場には重たい空気が流れていた。
場を取り成すようにして、長官代理が切り出す。
「…えー、今回の議題の方に入ってもよろしいでしょうか。未遂事件に関しては、…後日軍の方からも正式な発表があるかと思いますので…。」
「ええ、現時点での認識は合わせられたかと思うので構いません。」
リリスは、言い合いなどなかったかのように涼しいかのまま話を促す。
やっと本題に入った。
長官代理は居住まいを正しながら話し出した。
「先日頂いたクレスト鉱山における第三国に対する密輸に関する調査資料については、概ね、事実として認識せざるを得ない状況であります。」
その言葉を合図にフェレットが全員に資料を配る。
「特に、エネルギー資源管理局の旧記録との照合結果から、過去確かに埋蔵の可能性が指摘されたエリアに関する、一部に不正な報告書の改ざん、並びに割当数値の恣意的操作が確認されました。」
場が静まる。
強硬派の議員の一人が「詳しく調べねば、まだ分からん…」と呟いたが、他の者が無言で制する。
全員が次の言葉を待っていた。
「本件については、連邦政府として、まだ全容が明らかになっておりません。よって、個別の責任については引き続き調査中であり、該当職員にはすでに出頭を求めています。」
「調査継続は構いません。責任を追及するのが貴国の正義であるならば、それは尊重しましょう。」
リリスは頷いた。しかしその声は、一歩も退いてはいなかった。
「…こちらの埋蔵量を証拠を元に算出した場合、我が国の年間産出量の5%に匹敵する埋蔵量であると理解しています。」
長官代理は、軽く息を吸う。
「しかしながら――」
「提示されていた10%の優先供給という数値については、こちらとしても異議があります。ヴェストリア国内の消費需要と他国との長期協定を鑑みても、即時の適用は非現実的であり、我が国としては長期での運用は難しいと考えております。」
「つきましては、正確な埋蔵量の算出後に再度検討をさせていただき、優先供給の割合および価格、関税面を含めた交渉を実施させていただきたいと考えております。」
そこまで一気に言い終えると、こちらの出方を伺うように書類から視線を移す。
「現時点での交渉ラインとしては、6~7%で考えていらっしゃると言ったところでしょうか。」
リリスの言葉に、補佐官や長官代理が一瞬気まずげに表情を崩す。
(妥当なラインだったんだな。)
「えー、検討中ですので回答は差し控えさせていただきたいと思います。」
長官代理の言葉にリリスは微笑んだ。
リリスは、一瞬だけ沈黙した。
机に置かれたグラスの中の水が、周囲の緊張を映したように震える。
その微細な揺れを見つめながら、彼女は口を開いた。
「このまま私が帰国すれば、交渉上の起点を再検討することになり、互いに損失は大きなものになるでしょう。」
(それは、間違えない…けど、そうすると計画も後退することになるんじゃないのか。)
リリスが何を言おうとしているのか、リツも注目する。
(リリスさんに戦略が無いわけがない。)
確信だった。もしかしたら、この場にいる誰もが同様のことを想っていたかもしれない。
―――何かあると。
「譲歩案を提示しましょう。」
彼女は姿勢を崩さず、目を伏せたまま、冷ややかな声で続けた。
「我々としては、エネルギー資源協定の締結と同時にレンツェオへの停戦合意をして頂きたい。」
沈黙。
会場全体の空気が、極限まで張り詰めていた。
「……つまり?」
補佐官のひとりが、確認するように問う。リリスの視線が、全員を支配する。
「エネルギー資源協定の締結と同時に国際社会に対して、レンツェオの戦線の停戦合意への調印と治安維持を除く部隊の撤退および人道的支援ルートの再開、が合意されるなら、供給数は7%…いや、既存の5%でも構いません。」
「……!」
複数の議員たちが息を呑む。
「何が狙いだ!」
一人の議員が叫んだ。
前回ベネット大将の持つ精鋭部隊をレンツェオで撃つ際に利用した通り、前線の部隊は互いに派遣し合っており、睨み合いを続けている状態なのは確かだ。
しかし、ヴェストリア連邦側は”砦”を失く、エルトリア共和国側も軍内部が揺らぐスキャンダルが相次ぐなど、レンツェオは事実上の停戦状態でもあった。
それをあえて明文化するだけで、先ほどまであんなにも脅していた人間が、両者に利のある方で矛を収めようとしている。
(信じられないのも無理はないよな…。)
この先の経済特区という構想を知っている自分ですが、先日までどう実現するつもりなのか、本当に出来るのか、そしてフェレットに会ってからは今の命を無下に張るようなやり方が正しいのか、悩みがあった。
(けど、この人は、本気で求めてている。)
―――”エバーグリーン計画”のその先の未来を。
「我々は、“ただの物”ではなく、“秩序”を買いたいのです。」
声は穏やかだが、その場の誰よりも遠くを見据えていた。
あまりに現実的で、同時にあまりにも理想への第一歩だった。
「レンツェオにおける両国の軍事的対峙は、もはや戦術的な意味を失っています。―かの地での第三国の介入の可能性については皆さんもご存じのはず。」
議員たちから「何故それを…」と動揺の声が漏れ出る。
それに対して、フェレットを含む補佐官以下数名は目を見開いていた。
(加えて、今回の密輸事件の資料は、第三国の国家レベルでの関与も示唆されていたはずだ。)
―――第三国による内政干渉の危機。
今までの”敵”と”味方”がひっくり返る瞬間だった。
「三つ巴の戦いの前に、両国の関係を”再定義”するべきタイミングだと理解しています。」
「ご理解、いただけますね?」
先ほどまでこちらを脅していたと思っていた相手が、共に生き残るための道を示している。
議員たちの想いとしても揺れ動いていることだろう。
「…この話、軍にも通す必要のある話だとお見受けする。」
唾を飲み込む音さえ響き渡ってしまいそうな会議室の中で声を上げた人物がいた。
筋骨隆々とした軍人のような威圧的な風貌を持つ影に注目が集まる。
ヴィンセント・ウィテカー伯爵。
このエネルギー資源協定の元となる草案の作成に尽力した人物で、伯爵の地位にありながら個人で実業家として活躍する側面を持ち、経験豊富で経済観念は強いと聞く。
だが、これまで表立って”統合派”や”強硬派”と言った派閥に属しておらず、独自路線の強い印象だったが、この協定の策定に向けて精力的に活動したことで、一部から”統合派”と目されている人物だった。
「ええ。おっしゃる通りです。」
「エルトリア共和国内は調整済みと考えても問題ないか。」
「はい。」
リリスは確信を持っているようだった。
「ウィテカー伯爵、このような案を独断で受け入れようとされるおつもりか!」
周辺の議員たちが騒ぎ出す。
ウィテカー伯爵は彼らを気にも留めず、落ち着き払った様子でリリスを見つめた。
「…少々、時間をいただいても問題ないか。」
騒音が大きくなる。
「ええ、もちろんです。決断には、準備と覚悟が必要ですから。」
フッとウィテカー伯爵が笑う。
「ああ。ビジネスには冷静な選球眼も必要だ。」
「国内の調整については引き続き私預かりとしよう。長官代理、いいか。」
急に現実に引き戻された長官代理の頬が引き攣る。
「………はい。承知しました。」
数名の議員が噛みつこうとするが、ウィテカー伯爵は一括した。
「これ以上我々で議論してもキリのない事です。軍部、不正調査とも並行で調整し、私の方で引き取りましょう。それとも、どなたか私を差し置いてこの案件を引き取りたい方はいらっしゃいますか?」
そう問われた瞬間、誰もが先ほどまでの威勢が嘘のようにドギマギとした煮え切らない様子を見せる。
「では、この場はお開きとしましょう。」
ウィテカー伯爵の満足気な表情に、アリスの仮面を被ったリリスも答える。
「ありがとうございます。貴国がこの提案に誠実に応じてくださることを、期待します。」
「ああ。有意義な”交渉”だった。」
二人は、どちらともなく立ち上がり、握手をする。
(成し遂げた。)
計画の駒がまた一歩大きく進んだ瞬間だった。
§
数ヶ月後、エネルギー資源協定とレンツェオの停戦条約の締結が国民に向けて公表される。
一旦、こちらで第一章は完結となります。
当然、今後もエバーグリーン計画は進んでいきます。
途中で更新が遅くなったりしてしまったので次は書き貯めて更新したいと思います。
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