第17話 玲様がロミオ役……
「いい公演だったな」
「そうね」
劇の第2幕が終わり、終幕。
各々が席を立ちホールを後にする中、俺と凛奈はまだ席を立たずに、そのまま佇んでいた。
何でだろ……。知ってるお話だし、ミュージカルタイプもバレエタイプでも観てきた演目なのに、いい公演だったなって思うのは。
「お客さん、みんないい顔してる。いい公演の時って、席から立ち上がる人たちの顔が活き活きしてるんだよね」
「そっか。これが、演芸ホールで観る醍醐味か」
幼少の頃に、有名な演劇は一通り観せられた。
だが、劇が終わった後は、感想をまとめたレポート作成とその添削が待っていたので、ちっとも楽しいなんて思っていなかった。
「劇場は色んな人が来るの。例えば、あの老夫婦を見て」
「ん」
凛奈の目線の先を追うと、俺たちよりステージ寄りの席に座っていた老夫婦たちが、ちょうど席を立つ所だった。
既にお仕事は引退しているであろうお歳とお見受けするが、旦那さんはきちっとジャケットを着て、髭も髪も整えられている。合わせてご婦人の方も、シックな装いでおめかしをしている。
通いなれたという風の2人は、談笑しながら俺たちの席の横を通り過ぎていく。
「私もあんな風に歳を取っていきたい。共白髪まで、ああして仲睦まじく、たまに着飾って一緒にお出かけして。それが私の今の夢」
そう言いながら、凛奈は目を細める。
「女子高生にしては随分とささやかな夢だな」
「だって、好きな人のお嫁さんになる夢は叶いそうだから。私はもっと先のゴールを見据えてるの」
だから、お嫁さんは気が早いだろが! とツッコミたい所だが、凛奈の言う夫婦関係に憧れるのは同意だっため、俺はあえて何も言わずにおいた。今はまだ、演劇の余韻に浸っていたい。
そう思いながら、満足そうな他の観客たちが出ていくのを眺めていると。
「あれ? 中條会長だ」
「本当ね」
俺たちの座席ブロックの列に、学校の制服を着た中條会長が歩いていた。
そして、その横にはもちろん。
「会長、楽しかったですね」
「ああ。放課後の生徒会活動外の時間なのに、わざわざ一緒に来てくれてありがとう滝瀬くん」
「べ……別に。会長が一人だと寂しいだろうからと、御一緒しただけです」
「そうか、ありがとう。ボクは滝瀬くんと一緒に観劇出来て良かった。この後、落ち着いて感想を話し合いたいな」
「え……落ち着いてって……もしかしてホテ……」
「自宅に帰ったら、電話で感想を述べあおう。高校生は、もう帰宅すべき時間だ」
「会長のバカ……」
もはやお馴染み、滝瀬副会長である。
2人とも学校の制服だから、すぐに分かった。
対して、こちらはまだ座席に座っているままなので、気づかれない。
俺と凛奈は反射的に顔を俯かせて、座席の横を通りつつ会話する2人をやり過ごした。
「会長と副会長って付き合ってるわよね?」
「いや、あれで、まだ付き合ってないんだよな……」
凛奈のツッコミに俺は同意して見せる。
これ、他の生徒会役員が生徒会活動をボイコットしてるのって、このジレジレ環境に耐えられなかったのも一因なのでは?
「俺たちもそろそろ行こうか」
そう言って立ち上がると、俺は凛奈に手を差し出す。
「うん。ありがと」
真っすぐこちらの目を見てお礼を言う凛奈は、今日のドレス姿も相まってドキッとさせられる。
触れた凛奈の手は、思ったよりもほっそりしていて儚げで。
って、俺は立ち上がる補助として凛奈に手を差し伸べたのだが、凛奈は手を合わせるだけで握ろうとしない。
「ロミオとジュリエットなら、手を合わせて直ぐにファーストキスをかますんだけど?」
「こんな所で出来るか!」
劇中でのロミオとジュリエットは、最初は手と手を合わせるだけで満足しようとするが、ジュリエットがキスを誘うんだよな。
ジュリエットは本当、肉食系女子である。
「あ、じゃあここじゃなきゃいいんだ? 実はこの後、感想を言い合うために素敵なホテルを取ってるんだけど」
「ここにも肉食系女子が⁉」
油断していた俺は凛奈に腕を抱きこまれる。
こいつ手が触れてるのをいいことに!
これ、男女が逆だったらアウトだからな!
そんな小競り合いをしていたので目立ったのだろう。
「………何をしていますの? 九条さん」
声を掛けられてしまい、俺はてっきり中條会長たちに見つかってしまったのかと思った。
あれ? でも、お嬢様言葉ってことは……。
「佐々木さん⁉」
冷ややかな視線を送ってきているのは、叡桜女子高の玲のファンクラブ会長にして親衛隊隊長の佐々木さんだった。
普段の制服姿ではなく、シックなワンピース姿だ。
あ、後ろに妹の氷花ちゃんもいる。
どうやら佐々木さんは家族で観劇に来ていたようだ。
「玲様というものがありながら、貴方という人は……」
「あ、いや、これはその……」
完全に浮気現場を関係者に抑えられたような状況に、俺はしどろもどろになる。
「こんにちは佐々木さん。スケートリンクの時はどうも。あらためまして、西野凛奈です。才斗の妻です」
「妻ぁ⁉」
そして凛奈の挨拶が場をかき回す。
「お前は、これ以上話をややこしくするな! 佐々木さん、違くて」
「弁明なら玲様の前ですればよろしいのでは? 玲様可哀想……。想い人に裏切られて……」
あかん。
ここは、ちゃんと弁明をしなくては。
「実は今度、うちの叡山高校と叡桜女子高との合同文化祭でロミオとジュリエットの演劇をやることになってね。その参考のために今日は観劇に来たんだ」
「……そんな、ばっちりドレスアップしてですか?」
佐々木さんは訝し気に、俺と凛奈の格好を一瞥する。
う……。そこを突かれると痛い。
だが、ここは押し通るしかない。
「いや、ジュリエット役が凛奈でな。ロミオ役の玲に迷惑をかけないように」
「ちょっと才斗。私が、あのヘタレ王子の足を引っ張るって言うの⁉」
いや、そこ噛みついてくるなよ凛奈。
今は、佐々木さんを何とかなだめないと、玲に今日の話が伝わって、それこそ合同演劇どころじゃなくなる可能性があるんだから。
ここは、玲のためなんだよという細い勝ち筋を手繰り寄せるしかない。
玲の親衛隊隊長の佐々木さんなら、きっと分かってくれて。
「……………………玲様がロミオ役……ですって?」
ん?
何だろ、佐々木さんの雰囲気。
「あれ、知らなかった? 叡山高校の文化祭のステージで、叡桜女子と合同演劇を行うことになって、ロミオ役で玲が出るんだ」
てっきり、親衛隊隊長の佐々木さんなら、当然、玲から聞いてると思ったんだが。
「……わたくし、急用を思い出しましたので、これで失礼させていただきます。ごきげんよう」
「はぁ……ごきげんよう……。って、佐々木さん、今日の事は玲には内緒に!」
踵を返しツカツカと早歩きで行ってしまった佐々木さんの背中にお願いをしたが、佐々木さんは聞こえていないのか、まるで歩調を緩めることなく行ってしまった。
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