第9話 ふ~ん……可愛い子だね
「なぁ玲君」
「君付けは面倒だから玲って呼んでいいよ」
「んじゃ俺の事も才斗で。なぁ、玲。俺って何で今日も玲の家でゲームしてるんだろ?」
「それは、お母さんに鼻の下を伸ばしていたペナルティだからだよ」
「ええ……。ペナルティなら普通はゲーム禁止になるでしょ」
あの後、玲と涼音さんとの親子喧嘩は終局の兆しを見せず、流石に仲裁に入ったら、何故か玲の怒りは俺に飛び火した。
たしかに、友達のお母さんを、ふしだらな目で見てしまうのは良くない事だということで平謝りしたのだが許してもらえず、代償行為として今日も遊ぼうという事になったのだ。
なお、お母さんの涼音さんは、今日は午後から仕事という事で行ってしまった。
「だって、ボクのこと可愛いとか言うから……。恥ずかしくて、今はゲームでもしてないと、ちゃんとお喋りできないし……」
「ん? なんだって?」
ブツブツ呟いている玲の声は、ゲームのBGMでよく聞こえなかった。
「何でもない! それより才斗、ボクの服じゃ窮屈そうだね」
流石に一晩経っているので、シャワーを借りて、服も玲のジャージを借りているのだが、少々サイズが合わない。
「そうだな。胸筋のあたりが、ちょっとキツイな」
「うん、パツパツだね……」
ハァハァ言いながら、玲が俺の大胸筋の辺りをガン見してくる。
「ジロジロ見んなよエッチ」
「み、見てないし! 才斗は結構、筋肉質だよね。何かやってるの?」
「部活はやってないけどスポーツジムには通ってる」
「才斗は筋トレ好きなんだ。うちのマンションに住人とゲストしか入れないジムがあるけど行く?」
「何それ行きたい!」
高級タワーマンション専用ジムとか、どんなマシンがあるのか興味あるわ~。
「じゃあ、ボクの顔の痣が治ったら一緒に行こうね。約束だよ」
「もちろん! あ~、しかし、こうやって友達の家でゲームしつつ、次に遊ぶ約束してって、なんか久しぶりだな」
「なに、才斗ってば学校に友達いないんだ?」
ここで悪戯っぽく、玲が笑った。
「俺は県外から高校に入学して知り合いゼロスタートだったからさ」
「そうなんだ。でも、もう今は高1の夏休み前だよ」
……悪い王子が出てきてるぞ玲。
そんなに俺に友達がいないのが滑稽か?
「うぐ……隣の席の奴とは仲良いんだけど、別に一緒に遊んだりする訳じゃないし」
「だから、お休みの日はジムに行ってたんだ」
「うるせ! そもそも、俺に友達が出来ない一番の要因は、その隣の席の奴が主原因なんだよ!」
「隣の席の子がなんで才斗が友達いないのに関係あるの?」
「その隣の席の友達は、学校でも評判の美人でさ。まぁ、話すと愉快な奴なんだけど。で、俺がそいつと入学当初から仲良くしゃべっているのが男子たちは妬ましいらしく、それで男友達が出来ないんだ」
「…………美人?」
あ、あれ?
突然、玲のまとう空気が俄かに不穏になったぞ。
「ふ~~~ん………。隣の席の仲良い友達って女の子なんだ」
そう言うと、玲はゲームのコントローラを置いてしまった。
「あ、玲のキャラ死んじゃったぞ」
操作を放棄したので、玲の自キャラが谷底に落ちてしまったが、玲はまるで意に介さない。
「今はゲームの事はどうだっていい! その子の写真とかある?」
って、なんだ。
急に必死こいた顔で迫ってくるかと思ったらそういう事か。
親衛隊もいるイケメンだけど、なんやかんや玲も年頃の男の子なんだな~。
「玲も、美人って聞いて興味津々か?」
「いいから早く見せて!」
「はいはい。そんな欲しがるなよ。ほら」
そう言って俺は、スマホで凛奈の写真を見せる。
いつだったか学校の屋上で一緒に弁当を食べた時に、見事な青空で景色が良いからと撮った写真に、イタズラで凛奈が映り込んできた写真画像だ。
「ふ~ん……可愛い子だね。清楚系って感じで……」
ひったくるように俺のスマホを奪った玲は、まじまじと凛奈の画像を見つめたかと思ったら、俺の方をジトッとした横目で睨んでくる。
玲はヴィジュアル系だから、てっきり女の子の好みもバンギャ系とかになるのかと思ったけど、清楚系が好きなのか?
「見た目はそうだけど、凛奈の本性は割とガサツだぞ。俺の前では下ネタとか平気で飛ばしてくるし」
「ふ~ん……凛奈ちゃんって言うんだ。才斗も可愛い子だって思ってるんだ」
「まぁ客観的には、そこは認めざるを得ないな」
だから、俺が学校の野郎共に目の敵にされてる訳だし。
「じゃ、じゃあ、もしかしてこの凛奈ちゃんと付き合ってたり……」
「彼女いないって昨日言ってたじゃん。話聞いてたか? やっぱり、まだ電車でのトラブルが頭に影響してんのか?」
「ひっどい! そんな事ないし!」
俺に、見てくれがいい女友達がいるのが、そんなに羨ましいのかしら?
自分はファンクラブ持ちで、女の子を複数侍らせている癖に。
さては、よっぽど凛奈が好みなのだろうか?
まぁ、友達っていうのは友達を介して広がっていくものだしな。
そして、上手くすれば、玲のファンの女の子たちと繋がれるかも。
まさにWINWINじゃないか?
「何か変なこと考えてない? 才斗」
「何も~。ほら、ゲームの続きやろうぜ」
そう言って、俺はマスクの上からもむくれているのが分かる玲にコントローラーを渡す。
俺がお前のキューピッド役を担ってやるぜと、俺はひそかに心の内でお節介おばさん精神をたぎらせた。
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