第7話 歩く災害として校内を練り歩く
「先ほどは大変失礼いたしました。私、叡桜女子高生徒会長の清水萌ですわ」
「副会長の脇美波ですわ」
「書記の森下いろはです」
ようやく合コン云々のくだりが落ち着いて、ようやく改めての自己紹介となった。
まさか、冒頭からこんなグダグダするとは。
「いえ、こちらこそ慣れぬ場に緊張してしまい申し訳ありません。早速ですが合同文化祭についての話をしたいと思います。こちらでいくつか案を作りましたので。滝瀬くん、資料を皆さんにお配りして」
「はい、会長」
早々に本筋について話し出した中條会長は、どうやら仕事スイッチを入れたようだ。
「なるほど。いきなり全面的な合同文化祭の開催は難しいので、いくつかの出店や舞台出し物から始めていくと。確かに、本番までそこまで期間がない中での実現化を考えると、そこが落としどころですね」
中條会長につられるように、清水会長も真剣な顔つきになる。
さっきまで、合コンがどうとか騒いでいた人達とは思えない。
言っても、それぞれ学校を代表する立場を任されている人達なので、一度流れに乗ってしまえば大丈夫だな。
そうなると、今日は単なる顔繋ぎ役で、協議自体には参加しない俺としては暇になってしまった。
後は、解散の時にさっきの合コン発言のような迂闊な事を口走らないように気を付けなきゃな。
そんな事を、一応俺にも配られた合同文化祭の資料をボンヤリと眺めていると。
(ツンッ)
ん?
何かが足のスネ辺りに当たって。
(ツンッツンッ)
それは間をあけずに立て続けに行われたので、意識して行われている事が分かった。
そうスネの感触から悟った俺は、目の前にいる犯人に視線を向ける。
俺の視線に、玲がいたずらっ子っぽい笑みを見せる。
今、俺たちが打ち合わせをしている応接セットは、座るのはソファだが、テーブルはローテーブルではなく、資料やパソコンで議事録を取るためのリビングテーブル位の高さがある。
故に、机の下はゆとりのあるスペースがあり、こうして玲が俺にちょっかいを出せると。
(なんだよ。打ち合わせに飽きちゃったのか?)
戸惑う俺に対して、玲は表では微笑みの素知らぬ顔で、足元の動きを緩めない。
触れる足は柔らかく体温がある。という事は、いつの間にか玲の奴、上履きを脱いでるんだな。
そして、まるで赤ん坊が甘えせがむように俺の足の方をはい回る。
ただ、来客用スリッパの部分では俺の方の熱を感じられないらしく、スリッパから出ている足首あたりをお好みの場所として定めたようだ。
「んあっ」
「ん? どうした九条君」
つい、くすぐったくて漏れた声に対し、隣の席の中條会長がこちらを見てくる。
「え⁉ あ、いや何でもないです」
「そうか?」
いぶかしそうにしつつも、中條会長は協議を再開した。
あぶねぇ……。
(ツンツンッ)
(ネットリ)
俺が声を漏らして、中條会長たちにバレかけたのもお構いなしに、対面の席の玲は俺の足に自分の足を絡めてくる。
「ん……」
ただ、まったく平静というわけではないようで、玲の顔は赤く、机の上から覗かせている上半身をクネクネさせる。
でも、足元の攻勢はやめない。
(引く気はない訳ね……じゃあ)
先ほどから、されるがままだった俺だが、ここからは攻めに転じる。
でないと、また女子高の生徒会室で嬌声を上げる変態野郎になってしまう。
それは、いろんな意味で避けたい。変な性癖に目覚めてしまうという意味で……。
だから、この攻撃は正当なんだと、俺はまるで開戦に踏み切る国家元首のごとき言い訳を並べて、スリッパを机の下で脱いで、玲の足へ侵攻を開始する。
「んあ……」
玲の足へ足で触れる初撃で、お互いの防御力の違いが浮き彫りになった。
俺の足をくるむは制服のズボンで露出部分はわずか。一方の玲は制服スカートで、いつもの黒ストッキング装備。
黒ストッキングの薄さと心もとなさは明白だった。
「んあ……はぁ……」
先に攻撃を仕掛けてきたくせに、防御力はてんでヨワヨワな玲のおみ足を、足先でなぞる。
もはや、俺の足に小悪魔的攻撃を繰り出す余裕もなくなった玲は、その感触に必死に悶えるのを我慢し、我慢しきれない部分が吐息として漏れ出る。
その様子は、たまらなく色っぽく、また足先のストッキングの滑らかな感触と相まって、ついつい攻撃の手、いや足は緩まず、もっと上へ。
「ん? 星名さん大丈夫ですか? なんか顔が赤いですよ」
「「っ⁉」」
叡桜女子の清水会長の一言に、現実に引き戻される。
ここは女子高の生徒会室。
そして今は、合同文化祭の協議の真っ最中である。
そんな時に俺らは何やってるんだ!
「ちょ、ちょっとお手洗いへ行ってきます」
「あ……。男性用トイレはこの学校には少ないから、ボクが案内します」
いたたまれない二人は、そそくさと神聖な生徒会室から逃げ出した。
◇◇◇◆◇◇◇
「も~。才斗のイジワル」
「いや、先にちょっかい出してきたのは玲からでしょ」
先ほどのインモラルな雰囲気からは打って変わって、生徒会室を出て2人きりになった気安さから軽口をたたきあう玲と俺。
叡桜女子高の厳かな敷地内という周りの景色も、急速にエッチな方面の行動を抑制しているのかも。
さすがはお嬢様女子高だと、変なベクトルから感心してしまう。
「だって、ああいうのに憧れてたんだもん……。校内で、机の下でこっそり2人だけで手を繋ぐみたいな」
「いや、いきなりレベル高めだったんだけど」
あの足下での攻防は、こっそり社内恋愛してるドスケベ後輩OLとのプレイ並みだったぞ。
「そ、そうなの? お母さんにアドバイスしてもらったんだけど」
「って、涼音さんの差し金かよ!」
どおりで、スキンシップレベルが数段飛びで来たわけだよ。
「でも、こうやって通いなれた叡桜女子高の敷地内が、才斗と一緒にいるだけで新鮮で、いつもと違ってドキドキしてる」
そう言って、玲は無邪気に笑った。
叡桜女子高校の敷地内というホームにいるから、玲の笑顔がより屈託のない感じがして新鮮に感じる。
「そりゃ、本来は俺が校内に入ったら捕まっちゃうからな」
「あのね才斗。もう一つお願いなんだけど、手繋いでくれるかな?」
「ん、どうぞ」
「えへへっ。ありがと」
嬉しそうに、玲が手をしっかりとつないでくる。
そうそう。
こういう些細な所に喜びを見出してくれるのが、玲の可愛いところなんだから。
「これくらいならいいさ。さっきみたいなエッチなのは、ちょっと勘弁してくれよ」
「むぅ……。女の子と手を繋ぐのが、これぐらいなんて……。いつのまに、才斗はそんな経験豊富になったのさ」
え、そこ頬をむくれさせる所?
「いや、今のは言葉の綾だって。さっきみたいに、足を絡めてみたいなのと比べればってだけだ」
「それならいいけど……。大丈夫? 凛奈ちゃんに襲われたりしてない? ボクが知らない間に大人の階段上っちゃってたりしない?」
「夏休みの大半は玲の家で遊ぶか、一緒のスケートリンクでのバイトだったじゃん」
夏休みに一緒にいる時間は間違いなく、玲が一番多かった。
凛奈とは、婚約騒動のゴタゴタで連絡がつきづからかったこともあり、ほとんど遊んでない。
「でも、学校が始まっちゃうと、才斗と触れ合える時間が減っちゃうからさ。だから、こうして合同文化祭の話を立ち上げたんだよ」
「え⁉ 叡桜女子高校とうちの高校の合同文化祭って、玲が発起人なの?」
「正確には、ボクのお母さんが学校に働きかけたんだよ。うちのお母さん、保護者会の代表だし」
「ああ、そういう……」
急に話が来たと思ったら、そういう事なのか。
娘のために、そこまでするのかあの人。
そして生徒会に属してる訳じゃない俺に話が回ってきたのは、大方うちの高校の校長や教頭相手に、俺の名前を出して推挙でもしたんだな。
女優の星名カノンがお願いしたら、あの校長と教頭ではひとたまりもないだろう。
「これなら、大手を振ってお互いに学校を行き来できるよ」
「すげぇ大技……」
十賢哲でも、ここまでする家は無いんじゃないかな……。
彼らって、九条家と同様、普段はあまり表立って目立つようなことはしないから。
「ここまで助力してくれるなんて、ボクも思ってなかったんだ。お母さんは才斗のこと、よっぽど気に入ってるのかも」
「ははは……」
そういえば、涼音さん。
前に、娘婿検定合格とか言ってたもんな。
2人分とか訳わからん事言ってたけど。
しかし、涼音さんは俺の家のことも、会った当初期の頃から知ってるっぽかったんだよな。
なんでだろう?
まぁ、何かあれば暗部の剛史兄ぃが知らせてくると思うんだけど、今度機会があったら聞いてみ。
「おがぁぁああああああ!」
「玲様が……! 玲様が、男性と恋人つなぎぃぃぃぃいいいいいい!」
「あぁぁぁぁああああああ! 目がつぶれてぇぇぇ‼」
と、考え事をしていたら、いつの間にか学校内のメインストリートにさしかかったみたいで、部活中の子たちや委員会活動の帰りと思しき女子生徒たちが、阿鼻叫喚の叫びを上げ、バタバタとその場に崩れ落ちる。
「ちょ⁉ 大丈夫⁉」
「あ、大丈夫だよ才斗。こうなる事は想定済み。親衛隊の子たちが介抱することになってるから」
たしかに、崩れ落ちた女子生徒たちの元には、親衛隊の腕章をつけた子たちが駆け寄っていた。
「え? よく親衛隊の人たちが許したね」
俺との手つなぎ校内お散歩なんて、親衛隊の子たちこそ視界に入れたくないだろうに。
「うん。今日の介抱のために、目隠しをしてても動けるように校内の敷地を身体に憶えこませたんだって」
「あ、それで親衛隊の皆さんは、布で目元を縛ってるんだ」
倒れた女子生徒のもとに駆け付ける、目隠しをしてでも責務を全うせんとする少女たち。
(何か、女性の花園って、思ったのと違うな……)
そんな失礼な事を思ったが、この地獄絵図は俺と玲のせいなので文句は言えないなと思いつつ、俺と玲はその後も歩く災害として、校内を練り歩くことになるのであった。
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