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第34話 お届け物はこちらです

【星名玲_視点】


「いやはや! まさか、あの有名女優の星名カノンさんの御息女とうちの娘の凛奈が親しかったとは!」

「ええ、そうなんですよ。学校は違うんですけどね。我が家にも、凛奈ちゃんが遊びに来てくれてて」


「それは、挨拶もせずに失礼しました。うちの娘が何か失礼な事をしてませんでしたか?」

「いえいえ。とても利発で礼儀作法も行き届いた娘さんだと、玲ちゃんから聞いてますよ」


「いやはや、お恥ずかしい」


 目の前で繰り広げられる大人達のお世辞や謙遜の応酬を、ボクは冷めた目で見やっていた。


 いや、凛奈ちゃんのお父さんは終始デレデレだから、うちのお母さんにいいようにやられてるだけか。


 女優の星名カノンがちやほやしてくれるなんて、男の人なら絶対気分良いだろうし。


「それにしても、叡桜女子高の入学前から、このように在学生の保護者からフォローしていただける体制があるとは」


「そうなんですよ~。編入生は特に珍しいので、手厚くフォローをしていこうという話が保護者会で出まして」


 無論、嘘である。

 そんな制度は叡桜女子高にはない。


 日頃、保護者会でも顔がきくお母さんが、保護者会のSNS掲示板で一方的に、『私の方でフォローしておきます~』と宣言していただけだ。


(それにしても、凛奈ちゃん元気ないな……)


 応接室のフカフカした椅子に座る凛奈ちゃんはずっと、精気なくうつむいていた。


 隣でお父さんが、よその家のお母さんにデレデレしてるとか、娘からしたら恥ずかしくて、お父さんを真っ赤な顔して止めるか、侮蔑の冷たい眼差しを送るのが凛奈ちゃんだろうに。


 今日の来客がボクだというのに、何の反応も示さなかった。


 とは言え、ボクがやることは一つだ。


「ちょっと凛奈ちゃんの部屋でお話ししてきていいですか~? ボク、飽きちゃった~」


「これ、玲ちゃん。お母さんは今、大事なお話し中なのよ。西野さんもご迷惑でしょ」


 この、ボクとお母さんとのやり取りは、事前にお母さんと打ち合わせていた掛け合いだ。


 こうして遠慮がちな事を言えば。


「いやいや、そんなことはないですよ。うちの娘も以前に西野さん宅にお邪魔したようですし。凛奈、お部屋で玲さんとお話ししてきなさい」


 予想通り、凛奈のお父さんなら、こう言うと思った。


 事が予定どおりに進んで、ボクとお母さんは心の中でニンマリする。


「よろしいんですか? じゃあ、同じ年頃の娘を持つ親同士、子育ての悩みでも語らいましょうか」


「は、はい。是非とも!」


 そして、お母さんからダメ押しが入る。

 よし、これで完全に凛奈のお父さんの意識は、凛奈ちゃんから外れた。


 男って単純だなと思うけど、でも、超絶カッコカワイイ僕に全然なびかない才斗もいるし、そこは個人差なのかな。


「じゃあ行こうか凛奈ちゃん」


 とっとと退散する後ろを凛奈ちゃんが黙ってついてくる形で、ボク達は応接室を後にした。




◇◇◇◆◇◇◇




「ふわぁ~。お嬢様の部屋だね」


 案内された凛奈ちゃんの部屋は、天蓋つきのベットも執務机もアンティーク調の家具で統一されていた。


「こういうメルヘンなの好きなんだ凛奈ちゃん」

「別に……。あのクソ親父の趣味よ」


 ようやく口を開いた凛奈ちゃんは、悪態をつきながらベッドに仰向けに横たわる。


「客人をもてなす気ゼロだね凛奈ちゃんは。お茶とかお菓子とか出してよ」


 ボクはここぞとばかりに、かつて強引に我が家に押し入ってきた凛奈ちゃんが要求してきた事をブーメランとして返した。


「……は? ああ……。チッ」


 凛奈ちゃんも直ぐに思い出したのか、舌打ちしてから、部屋に備え付けのミニキッチンでお茶の準備を始める。


 やったよボク!

 あの凛奈ちゃんに一矢報いた。


「そういえば、凛奈ちゃんの家にはメイドさんがいるんじゃなかった?」


 凛奈ちゃんにはお付きのメイドさんがいて、以前、ボクと凛奈ちゃんがアスレチックでずぶ濡れになった時に着替えを持ってきてくれたはずだけど。



「伊緒はちょっとね……。それで? なんで女優のお母さんを投入してまで、わざわざ私に会いに来たの。だいたい理由は分かってるんでしょ? 哀れな私を笑いに来たの?」


 眉間にしわを寄せながら、凛奈ちゃんがソーサーに乗った紅茶のカップをボクの目の前に置く。

 間近で見た凛奈ちゃんの顔は、少しやつれたように見えた。


 清楚な……、あくまで見た目だけは清楚な令嬢の凛奈ちゃんに儚さが加わり、破壊力が増してる。

 うん、ここに才斗がいなくて本当によかった。


「ボクはそんな凛奈ちゃんみたいに性悪じゃないよ」


 出された紅茶のカップに口をつけながら目を細める。

 才斗の家の法事でもそうだったけど、凛奈ちゃんの淹れるお茶は何でも美味しいな。


「……じゃあ、何しに来たのよ」

「ボクはただのメッセンジャーだよ。お届け物はこちらです」


 そう言って、ボクはスマホを取り出し、背面のスタンド立ててテーブルの上に置いた。


『よ、よう凛奈。元気か?』


 ボクのスマホの画面に、ボクの想い人がぎこちなく目の前にいる凛奈ちゃんに余所余所しい挨拶をする。


「さ、才斗……」


 完全に不意打ちを食らう形になり、さっきまで土気色の顔だった凛奈ちゃんの表情に喜色が差すのが、目の前の席で紅茶をすするボクにはマルわかりだった。


(ちょっと、敵に塩を送りすぎたかな……)


 と、ちょっと後悔しつつ、ボクは頬杖をつきながら再度紅茶をすすった。

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― 新着の感想 ―
さあどうだろう。案外相手からも塩貰っているような気もするからなあ。 まあ、友人関係に損得勘定を持ち込んでも仕方がないしw 強敵と書いて「供」と呼ぶ、というやつだからw
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