第31話 才斗はもう、ボクの彼氏で~す
法事の帰省から戻って一週間がたった。
こちらに戻ってきても、勉強にバイトにジム通いに、色々と忙しくしていたが、俺には一つ気がかりな事があった。
「じゃあ、凛奈ちゃんと帰省の後から連絡ついてないの?」
「ああ。そうなんだよ」
スケートリンクのバイトの休憩時間。
スケート教室の講師の仕事が終わった玲と自販機のコーヒーを飲みながら相談する。
「どうしたんだろうね? 夏休みだから旅行とか?」
「いや、そんな感じじゃなさそうでな……」
どうしても、法事での別れ際に見せた凛奈の焦った顔が妙に頭の中に残り、俺の心をざわつかせていた。
「あ、よく見たらボクが送った、才斗がタバタ式終わりで死んでる時の写真もスルーされてる」
「玲も同じか……。って、そんな写真送ってたのかよ」
最初は身内に不幸でもあったのかと思って連絡は控えていたのだが、事情を知っているであろう担任教師の剛史兄ぃに聞いても曖昧にはぐらかされるだけ。
剛史兄ぃのリアクションから、身内の不幸などではなさそうだと判断して連絡を入れてみたのだが、これも返信がない。
「じゃあさ才斗。思わず凛奈ちゃんが返信したくなるようなメッセージを送って釣り上げようよ」
釣り上げるというのは表現が悪いが、アイデアはいいかもしれないな。
「どんなメッセージだ?」
「ん~? そ・れ・は・ね~」
妖しく笑うと玲は俺の隣にピッタリと身を寄せる。
「ちょっと玲、くっつきすぎだよ」
「だって、くっつかないと自撮りツーショットに収まらないんだもん」
身体を離そうとするが、敢えなく座っているベンチの端まで追いやられてしまい、横の自販機と玲に挟まれる形となってしまった。
「ほら、スマホ見てピース。『才斗はもう、ボクの彼氏で~す』」
「いや、彼氏ではないだろ」
「どうせ写真だから、声は載らないじゃない。うん、よく撮れてる。はい、送信」
「なんで、そんな妙に仕事早いの?」
玲は日頃からは考えられない手際の良さで、サササッとスマホを操作し凛奈に写真を送りつける。
「フフフッ。日頃、ボクは凛奈ちゃんにはやられっぱなしだからね。反撃できて嬉しいんだよ。あ、既読ついた」
すぐに既読がついたということは、スマホは触れているんだよな。
「あれ? でも何もリアクション来ないね」
「そうだな」
凛奈のことだし、てっきり、中指でも立てたスタンプでも返して来るのかと思ったんだが。
「よし。もっとドギツイのを送ろう才斗。凛奈ちゃんが反応せざるを得ないような。2人で手でハートやるよ才斗」
「お、おう」
またしても身体を寄せて来た玲と、手で半分ずつのハートを作ってスマホの自撮り画面に収まる俺。
「あれ、これでも反応無し。じゃあ、次は抱き合ってチューしてる写真を」
「いや、玲。途中から目的変わってるだろ」
「ギクッ! そ、そんなことないよ」
まったく。
スケートリンクの休憩場なんだから、他の人もいるんだぞ。
「でも、凛奈ちゃん。既読にはなるのに返事がないのはおかしいね。夏休みで一人で悶々としている凛奈ちゃんならきっと、顔真っ赤で罵倒してくると思ったのに」
「そうだな……」
夏休みだで色々と忙しいからと言えばそれまでかもしれないが、俺はどこか引っ掛かっていた。
法事から先に帰る時の凛奈の後ろ姿は、何故か鮮明に映像として記憶されていて、俺の頭から離れなかった。
「よし。じゃあ、これから凛奈ちゃんの家に行こう。ボクもついていく行くから」
「ありがと玲。でも、玲から提案してくれるなんて、その……、意外だな」
日頃、玲は凛奈と俺の取り合いでいがみ合っているのだから、現状はむしろお望みどおりな状態だというのに。
「だって、才斗が元気なさそうだからさ……。それなら、とっとと凛奈ちゃんの状況確認しちゃった方が、ボクも気兼ねなく才斗と遊べるし」
「……。玲ってさ。ワガママ王子だけど、やっぱりいい奴だよな。凛奈の事、内心では心配してるんだな」
「べ、別にそんなことないもん! 凛奈ちゃんはライバルだし。この程度、塩を送った事にもならないよ」
「そっか」
前に、玲が足のケガの事が俺達にバレて殻に閉じ籠っていた時に、凛奈も同じようなことを言ってたなと思いながら、俺は少し気持ちを軽くしてもらった足取りで、凛奈の家へ向かった。