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第26話 頑張れ幼馴染みの杏子ちゃん!(仮)

 女の子と一緒のお布団に入る。


 それは、幼馴染みの女の子が居た勝ち組な男だとしても、そうは起きないイベントだ。


 ただ、もしかしたら、物心つく前に一緒のお昼寝布団で寝ていた写真がアルバムにあったりはするのかもしれない。



『一緒のお布団で最初に寝たのは私だけどな』



 と、主人公の男の子をポッと出の女の子に奪われた負けヒロインな幼馴染みの女の子が彼女にマウント取ったりして。


 頑張れ幼馴染みの杏子ちゃん!(仮)

 でも、そういうやり方だと君は負けっぱなしだぞ杏子ちゃん。


 ……さて。


 何で俺がイマジナリー幼馴染み負けヒロインの杏子ちゃんに想いを馳せているかと言うと、ちゃんと理由がある。



「ちょっとヘタレ王子、手が私の顔の前に来てて邪魔よ」


「それくらい我慢してよ。凛奈ちゃんは才斗の背中にくっついてるんだから良いじゃん」

「才斗の顔の正面は譲ったんだからいいでしよ」


  はい。


 理由は、今まさに、俺は抱き枕になっているからです。


 3人の女の子から四方八方から布団の中で……。


 複数の女の子の肌の温もりと、湯上がりのいい匂いを感じながら……。


 そりゃあ、イマジナリー幼馴染みの1人や2人脳内に生み出さなくては、とてもこの難局を乗り切れない。


「いや、確かにボクは才斗とお布団で向き合ってドキドキはするんだけど、間に愛梨ちゃんがいるから才斗の身体にはほとんど触れられないんだよ」


「しょうがないでしよ。愛梨ちゃんが何とか許可してくれたのが、このフォーメーションなんだから」


「才斗兄ぃの胸の中、あったかいのじゃ……」


  俺の胸の中で、愛梨が小柄な身体を猫のように丸めて呟く。


「ねぇ。狭いんだけど」


「ボクたちみたいな可愛い女の子に囲まれて寝てるのに感想がそれなの才斗? 今、才斗は色んな男の人たちを敵に回したと思うんだ」


「そこはヘタレ王子に同意ね。エッチなお店でもせいぜい二輪車コースまでなんだから、中々出来ない体験してるのよ才斗」


「二輪車コースって何なのじゃ? バイクの教習所の話か?」


  あえなく3対1で完封される俺だが、俺にも言い分はあった。


「なんで布団が1組しかないんですかね……」

「だって、布団干したの1組だけだったから」


 当たり前でしょみたいな口ぶりで凛奈が俺の疑問に答える。


「いや、来客用の布団なんて何組もあったろうが! 俺が聞いてるのは、なんで敏腕メイドさんの凛奈が1組の布団しか天日干ししなかったのかって事だよ!」


「そんなの才斗の逃げ道を潰すために決まってるじゃない」

 

  背中にいる凛奈に振り向き様に抗議するが、こいつ……、なんて真っ直ぐな目だ。


 何でも正直に言えば許されると思ってるのか?


「ちなみにヘタレ王子は床で寝させるつもりでした」

「ひどいよ凛奈ちゃん!」


「別の布団を用意しても、どうせアンタもこっちの布団に潜り込みに来てたでしょ」

「それは、そうだけど」


 じゃあ、結局布団を複数用意しようが結果は変わらなかったのな……。


「さあ、明日の法事本番に備えて寝ましょうか。明日も朝早いんだし、寝不足は大敵よ」

「「は~い」」


「いや、安眠なら俺は別の所で寝たいんだが」


「「「却下」」」


「はい……」


 こうして、帰省1日目の夜は更けていったなであった。



◇◇◇◆◇◇◇



「って、寝れる訳がないんだよな……」


 そう言って、俺は天井を見上げながら独り言ちた。


 暗闇で目が慣れてしまい、天井の木目の柄まできちんと見える。


「スースー」

「スヤスヤ」


「何やかんや疲れてたんだな玲と愛梨は」


  胸の中にいる愛梨と、顔の正面にいる玲は割とすぐに寝息をたて出した。


 玲は長距離移動に慣れない法事の準備で、愛梨は受験勉強でそれぞれ疲れていたようだ。


 後は……。


「凛奈。起きてるんだろ?」


 俺は背後にいる凛奈に小声で話しかけた。


「スースー……。あら、狸寝入りがバレちゃった。何で分かったの?」


「背中越しに抱きついてる腕の力が抜けないから」


 本当に寝ているなら、ホールドする腕の筋肉は弛緩し、だらりとした重しにしかならずに、徐々にほどけていくはずだ。


 でも、俺の背中はキッチリと凛奈に抱え込まれたままだ。


「残念。才斗が寝たら既成事実の一つ二つでも作っておこうかと思ったのに」


 狸寝入りがバレて開き直ったのか、凛奈は俺の背中を強く抱きしめてくる。


「暑いから、あんまりくっつくなよ」


  布団に4人もいるので熱源まみれで言うまでもなく暑いのだ。

 胸の中にいる愛梨とか暑くないのだろうか?


「だって才斗逃げそうだから捕まえておかないと」

「罰なんだから、そんなことしないよ」


「美少女3人に布団に潜り込まれる事を罰と言えるなんて、才斗は随分な色男ね」


 そう言って、凛奈が身体を背中に引っ付ける。

 柔らかさを感じた俺の背中は、逆に固くなる。


「背中固くなってる。でも、固くなってるのは背中だけかしら?」

「こういう時にド下ネタ止めてくれる? こっちだって、いっぱいいっぱいなんだよ」


 もし反応しちゃったら、胸の中で猫みたいに丸くなってスヤスヤ寝る愛梨の顔付近に、モノが当たっちゃうんだよ!


 友人の妹の中学生にそんなことしたら、完全にお縄だ。


 鎮まれ俺の俺!


「アハハッ! 大変ね」

「誰のせいでこうなってると思って」


「ねぇ、どの子の身体で一番興奮してる?」


「……言い方がヤラシイぞ凛奈」

「私で興奮してくれてたら嬉しい」


 そう言って、凛奈が俺の身体をグイッと自分の方に引き寄せる。


「お、おい」

「どうなの?言わないなら、才斗の息子さんに直接聞いてみてもいいけど」


「ああっ、もう! 凛奈だよ凛奈の!」


 俺は半ばヤケになって答えた。

  熱を帯びた身体が触れる


「そ、そう……どんな所が?」

「凛奈が一番距離近いし密着度合いが強いから」


 最初は、何で凛奈がわざわざ背中側に回り、玲や愛梨に正面側を譲ったのか分からなかった。


 だが、いざ寝てみると身体全体が背中に密着してきて、凛奈の体温がこちらに伝わってくる。


 この熱が自分の体温なのか凛奈のものなのか分からないように、溶け合うような一体感。


 意識するなという方が無理だ。


「へぇ。才斗は布団で抱きつかれてる女の子だったら誰でもいいんだ」

「布団の中で男に抱きついてきてる時点で、そんなの女の子がオーケイしてるようなもんだろが」


 俺は照れ隠しに


「そうね……」


 珍しく殊勝にも黙り込む凛奈。

 しばらく沈黙が流れる。


 って、しまった!


 今の言い方じゃ、


『お前は今、据え膳状態なんだから手を出されても文句言うな』


 って言っているようなものだ。


 え、俺、やっちゃった?

 これ、やらなきゃいけない感じなのか?


 いや、隣には玲も愛梨もいて……。


 一気に心拍が上がって、汗が全身から出るのを感じた。


「フフッ……アハハハッ!」

「な、なんだよ凛奈。急に笑いだして」


 背中ごしに凛奈が笑っている振動が伝わる。

 寝ている玲や愛梨を起こさないために顔を俺の背中に埋めているようだ。


「今、私の事抱こうか否か心の中で葛藤してたでしょ?」

「は、ハァ!? そ、そんなことねぇし!」


 ずばり心の中を凛奈に言い当てられた俺は動揺しつつも平静を装う。


「才斗の背中が強張ってるの、抱きついてるからよく分かったよ。背中で語る男なんてカッコいいじゃない」


「茶化すなよまったく」


 まったく褒めてないだろそれ。


 こういう時に本当にカッコいい男っていうのは、ウジウジ考えないで動ける奴だ。


 玲を電車で助けた時もそうだ。

 俺はいつも、色々と考えすぎてしまって、直ぐには動けないカッコ悪い奴なんだ。


「違うよ才斗。才斗はちゃんとカッコいい」

「え?」


 まるで俺の心の中が見えているかのような言葉と共に、凛奈が俺の背中を抱きしめ直す。


「私との事だって誠実に考えてくれてるからこそ、動けないんだって分かってるから」


「凛奈……。いつの間に心の中読めるようになったの?」

「背中を抱いてると何か解るみたい。自分でも、ちょっとびっくり」


「そういうもんなのか」

「だから、本格的に抱いたら才斗の全てが理解できて」


「はよ寝ろ」


 まったく凛奈は。

 隙あらばすぐにそっち方面に話を持っていこうとする。


 話は終わりとばかりに、俺は身体を揺する。


「は~い。でも良かった……。最後に想い出ができて」

「凛奈?」


「お休み才斗」


  そう言って背中に引っ付いた後の凛奈は喋らずに、しばらくした後に本当に寝息をたて出した。


(思い出って夏休みのって事か? でも高校1年生で最後って……)


 寝入りばなにこぼした凛奈の言葉が何故か気になり、背中にいる凛奈の方を振り向く。


 本当に寝ているので、凛奈の身体は俺の背中からズズズッと滑り落ちていく。


「……泣いてる?」


 ずり落ちていく凛奈の目元に光るものが見えた気がしたが、凛奈はそのまま布団に顔を伏せてしまったので、俺の気のせいかと思うことにした。


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― 新着の感想 ―
中学生の時にさ、僕の布団の打ち直しがあり布団が無く、父親と寝たのね 多分冬だと思う 圧倒的な安心感と心地よさに驚いたね 人と一緒に寝るとこんなに気持ちいいのかと思った その時、女性と寝たらもっと気持ち…
寄せられる好意からは目をそむけるくせに、相手が危機に陥ったらどんな手段を使っても助けに行ったりするんだろうなあ。そしてますます深い沼に引きずり込むとw 「早々は起きない」は、少なくともこの漢字表記は…
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