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第21話 トータルでは勝ってるから大丈夫!

「いきなり床の拭き掃除しちゃ駄目でしょ才斗。ホコリは上から下に落ちていくんだから、まずは天井や床をハタキで払って」


「わかった凛奈」


 凛奈に指摘され、俺は雑巾をバケツに引っかけて、ホコリを落とすハタキを手に持つ。


「えーと、えーとボクは何をすれば……」

「ヘタレ王子は、流しに置いたお茶だし用の湯呑みを洗って。100個はあるからね。湯呑みが終わったらコーヒー用のカップも同じく100個で」


「ひえぇぇ!」


「才斗。参列者は縁側から、直接仏間に入られるのよね?」


「ああ。玄関からじゃとても出入りが出来ない人数が来るからな」

「そうすると、靴置き場が必要じゃない?」


「ああ。確かに、前に祖父ちゃんの法事の時には臨時のクツ箱を縁側近くに置かれてたな。あれ、どこにあったかな?」

「それはさっき私が見つけた。あと、法事の時って、男性はみんな黒の革靴で他人のと間違いやすいから、古い洗濯バサミで作ったタグを着けてもらうようにするから」


「お、おう。ありがと」


 あれ?


 ここって、俺が3月まで住んでた家だよな?

 何で俺じゃなくて、凛奈が掃除を取り仕切ってるんだ?


「なに? キョトン顔して。あ、さては私のメイド服姿にドキドキしてるな?」

「し、してねぇよ」


 イタズラっぽく凛奈が笑いかけ、メイド服のスカートの裾を持ち上げてみせる。


 掃除で汚れるからと言って凛奈着替えてきたのは、何とメイド服だった。

 草鹿さんのを借りてきたらしい。


「伊緒から、才斗はメイドフェチは無さそうだって聞いてたけど、案外好きなんじゃない」


 そりゃあ、草鹿さんは最初からメイドだったからな。

 仲の良い女友達が自分のためにメイド服を着てくれているという今の状況とは全然違う。


「良ければ夜もこの格好でしましょうか? ご主人様」


 耳元でコショッと囁いてきた吐息が耳をくすぐる。


「いや、メイドさんだって夜は寝間着を着るだろ」


「そうね。まぁ、私も初めてがいきなりコスプレなのは嫌なのが本音だから、マンネリ時期に着てあげる。じゃあ、私は座布団干しやリネン周りの洗濯しておくから」


「お、おう」


 そう言って、凛奈は押し入れのある座敷の部屋へ向かって行った、


 残念ながら、さっきから凛奈と会話のキャッチボールが成立してない。

 仕事はビシバシやってくれているのだが。


「凛奈ちゃん凄いね……」


 湯呑みを洗いながら、玲が俺に話しかけてくる


「ああ。そういや凛奈は行儀見習いで他家で使用人をしてたって言ってたからな」


 行儀見習いを受け入れるような家だから、きっとこの手の法要や、ホームパーティーの準備も幾度かしてきたのだろう。


 経験値と面構えが違う。


「くっ、ボクも頑張らないと……。って、ああ!」


 カチャーン! と音を立てて、玲の手から滑り落ちた湯呑みが板張りの床で割れる。


「ご、ゴメン……才斗! 湯呑み割っちゃって」

「大丈夫大丈夫。列席者用のその他大勢用の湯呑みだから」


 湯呑みの欠片を拾いながら、申し訳なさそうにする玲に気にするなと返す。


 湯呑みの数が多くて、早く終わらせなくてはと気が急いているのだろうか。


「やっぱりボクも凛奈ちゃんみたいに着替えようかな。この格好じゃ満足に掃除も出来ないし」


 そう言って、玲がしょんぼりとしながらワンピースの裾をつまむ。


「凛奈は掃除に関してはガチだからな。しかし、まさか草鹿さんが着てるようなメイド服を持ってきているとは」


 以前、俺の部屋を掃除してくれた時も凛奈は掃除にうるさかったからな。


 実家帰省バッティングの件はともかく、戦力的には凛奈を誘って大正解だったと言える。


「ボクが甘かった……。才斗の実家に行けるって事に浮かれちゃってた。お母さんとランジェリーショップで吟味のために4店舗も回っちゃったから……」


「ランジェリーショップ?」

「あ! いや、こっちの話だよ才斗。それより、何か作業がしやすい服とか無いかな?」


 ブツブツ言っていた玲が、慌てて着替えを乞う。

 確かに、白のワンピースなんて汚れたら洗濯が大変そうだ。


「とは言え、俺も作業用の服は今着てる1セットしか持って来なかっ……。あっ、そうだあれが残ってるか」


 作業用の服ということで、ある物を思い出した俺は、かつての自分の部屋へ向かい、衣類棚を漁る。


「はい、これ。ちょっとダサいけど」

「才斗。これって……」


「俺の中学時代のジャージだよ」


 玲に渡したのは、赤茶色の着古した中学時代の学校指定ジャージだ。


 田舎ゆえ、デザインは大昔から変わらない、芋ジャージである。


「これ……、才斗が中学時代に着てたジャージってこと?」

「そうだな。ごめんな、こんなのしかなくて」


 逡巡した様子の玲。


 そりゃ、そうだよな。


 片や、凛奈は本職仕様のメイド服。

 なのに、自分は俺の中学時代のダサい芋ジャージである。


 恥ずかしいに決まってる。


「やっぱり駄目か」

「待って才斗! そうじゃないんだ。有りがたくこのジャージを使わせてもらうよ」


「そうか? 無理してないか?」

「むしろトータルでは勝ってるから大丈夫! じゃあ着替えてくるね」


 そう言って、玲はジャージを抱えて着替えに行ってしまった。


 トータルで勝ってるってなんだ?

ジャージプレイって結構いいと思うんだよね。

体操服よりシチュエーションも豊富だから。


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― 新着の感想 ―
うんでも、ブルマーとかならズラすだけでとかあるかもしれないけれど、ジャージは結局全部脱がせないと……w 玲だけだったら、戦力に不足をきたしていたかな。 それとも、彼ジャージ装着したら、変身するだろう…
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