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第20話 やはり畳の上が落ち着くな(泣)

「嫌じゃ! 我も千代子さんの一周忌の準備のお手伝いするのじゃ!」


 祖母ちゃんの家に着いた所で、愛梨が地団駄を踏み踏み駄々をこねだした。


 なお、愛梨の言う千代子さんとは、祖母ちゃんの名前だ。


「いや、愛梨。流石に夏休み中の受験生にそんな手伝ってもらうのは悪いよ」

「嫌じゃ! 千代子さんには、物心ついた頃から本当に可愛がってもらったのじゃ! だから絶対に手伝う!」


 愛梨は全く折れようとしない。


 でも、そうなんだよな。


 正直、中学から一緒に住みだした実の孫の俺よりも、祖母ちゃんとの付き合いについては、近所に住んでた愛梨の方が長くて濃いんだよな。


「こら、愛梨。そんなワガママを言うな。才斗もお前のためを思って」

「兄者も普段から、田舎に住む者として、集落での義理立ては大事だと言っているではないか! 我を不義理な人間にする気か!」


「うむぅ……」


 いさめようとした英司に対し、妹の愛梨が正論で反論してやり込められてしまう。


 まぁ、英司も弁が立つ方じゃない無骨番長だからな。


「わかった。じゃあ、法事の当日は愛梨にも手伝ってもらうよ。列席者へのお茶だしとか、人手は多い方がいいし」


 どのみち、愛梨も法事には絶対に参加するのだ。


 それなら、法事当日の1日間だけお願いして、愛梨のお手伝いしたい欲求の溜飲を下げさせよう。


「やった! 約束じゃからな!」


「ほら、戻るぞ愛梨。そんなに手伝いがしたいなら、豊作のトマトの収穫手伝え」

「うひぃ~~。でも頑張るのじゃ」


 こっちが折れた形になり、自分の主張が通った事に気を良くしたのか、愛梨はご機嫌で去っていった。



◇◇◇◆◇◇◇



(チ~~ンッ)



 開け放った縁側の網戸越しにセミの鳴き声がうるさい中、仏壇のお鈴の音が響く。


「祖母ちゃん久しぶり。この家を出た時には、ちょくちょく帰るつもりだったのに、結局一周忌の時になっちまった。ごめんな」


 そう言って、仏壇の上の鴨居の上に掲げられた祖母ちゃんの遺影に話しかける。


 遺影の写真の祖母ちゃんは笑っている。


 田舎の家での女性の遺影には大体、何かの葬儀の時に撮った喪服着物姿の写真が用いられるのが一般的だが、『そんな神妙な顔してるのは私らしくない』と遺影の写真を事前に祖母ちゃん本人が指定していたのだ。


「才斗のお祖母さん、いい笑顔してるわね」

「ああ。笑顔を最重要視して遺影を選んだから、服は普段の農作業用だけどな」


 でも、これぞ祖母ちゃんという感じで、俺も好きな写真だ。


「才斗はお祖母ちゃん子なんだね。嬉しそうな顔してるよ」

「俺にとっての家族だからな」


 家族が褒められるのは、何だかくすぐったい気分。


「さて。じゃあ、才斗の家族にもご挨拶出来たし。そろそろ始めようか」

「そうだね凛奈ちゃん」


 先程まで仏壇に向かっていた凛奈と玲が、こちらへ向き直る。


「さて、才斗。私とヘタレ王子を2人とも実家に連れてきた件だけど」


「え?」

「望郷の念に浸る流れでボク達を誤魔化せると思った?」


 すいません……。


 電車で2人で取っ組み合いしてるのを見てる時は、ワンちゃん誤魔化せるかなと、ちょっと思ってました。


「正座。そして聞かれたことに正直に答えなさい。黙秘は認めません」

「はい……」


 凛奈に言われて、大人しく言うことを聞き正座する俺。


 古い家で、仏間の畳の上なのが正座する上で都合が良い。

 日本人はやはり畳の上が落ち着くな。(泣)


「さっき電車の中で取っ組み合いをしつつ、ボクと凛奈ちゃんで話を擦り合わせたけど、ボクが先に才斗と実家に行く約束したよね?」

「はい……」


「その上で、私も誘ったわけだ? ヘタレ王子も誘ってることは言わないで」

「はい……」


 腕組みしている玲と凛奈から見下ろされつつ、追及の言葉に素直に答える俺。


「女の子が男の子に、自分の実家に誘われたら、どう思うか解る?」

「……はい」


「はいだけじゃなくて、どう思うかを私は聞いてるんだけど? 具体的に話してくれる?」


 頷きマシーンと化していた俺に、すかさずムチが入る。


 凛奈こえぇぇ……。

 こりゃ、浮気とかしたら理詰めで追い込んでくるタイプやで。


「多分……。対外的にもオフィシャルな関係にある男女だと周囲に認知されると思います……」


「そうだよね? 解ってたんだよね才斗は? 女の子を自分の実家に連れて行く意味が」

「はい……」


「ちなみにボクは、最初から結婚の挨拶のつもりだって才斗に言ってたからね」

「はい……。誤解だと弁明する余地もありません……」


 玲は直球しか投げられない子なので、こういう時に逆にとぼける事が出来ないんだよな。


 そういう意味では、玲が先に俺の実家に行きたい云々を言い出してくれたのは、都合が良かった。


「で、ヘタレ王子と約束してるのに、私も追加で誘って。そうとは知らずに、電話口で焦って取り乱してた私の様子は、さぞかし滑稽だったでしょ?」


「いや、そんな事は無いよ! 『こんな取り乱して、声を弾ませて喜んでくれるもんなんだ。可愛いとこあるじゃん』って思ってました」

「そうやって調子いい事言って……。追及の手を和らげようとしても無駄よ」


 凛奈がそっぽを向く。


「何でも正直に話せって言ったのは凛奈じゃん」

「凛奈ちゃん嬉しそうなメス顔してる……」


「してない!」

「してるよ」


 玲の茶化しによって、少し場の空気が弛緩する。


「あ~あ、まぁボクはもういいよ。こうして、才斗の実家に来れて、お祖母さんにも挨拶できたし、お泊りも出来るし」

「玲……。ごめんな」


 どうやら玲の方は、俺の謝罪が届いたようである。

 だが……。


「私はまだ意図的にヘタレ王子の事を隠されてた事が、心に引っかかってる」


 凛奈の方はまだ憮然としている。

 この反応の違いは、玲と凛奈が先手だったか後手だったかの違いによるものだ。


 玲としては、凛奈も一緒に来ることを黙っていられたという点だけだが、凛奈としては、俺が能動的に騙して連れてこられたという意識があるのだろう。


 たしかに、そういう意味では、凛奈に対しての俺の罪は重い。


「どうすれば許してくれる?」

「そうね。とりあえず、今夜の同衾(どうきん)はマストね」


「「ふぁっ!?」」


 唐突な同衾という言葉に、俺と玲から素っ頓狂な声が上がる。


「同衾って……。あのな、凛奈、祖母ちゃんの家は見ての通り、田舎特有の無駄に広い家なだけあって、部屋や布団には事欠かないんだが」


「ダメ。これ位してもらわないと私の気持ちは治まらない。受け入れられないなら私は帰る」

「帰るって言ったって、そんな……。草鹿さんとかに迎えに来てもらうのか?」


 時刻は既に昼過ぎだ。

 この時間からでは、帰りは遅くなってしまう。


 何せ、電車の本数が少ないから。


「ううん。伊緒は今は、別の仕事で別行動よ」

「じゃ、じゃあ運転手さんとか」


「今は専属運転手さんも夏休み中だから電車で帰るしかないわね。一人、泣きながら田舎の電車に揺られて帰るの。私みたいな美少女が夜の電車で泣いてたら、どうなるかな~」


 こいつ……。

 凛奈は自分を人質にして主張を通そうとしてやがる。


 だが、俺には他に選択肢は無かった。


「わ、分かったよ……」

「やった。じゃあ、お掃除頑張ろっか」


 俺が折れたことで、途端に機嫌が良くなる凛奈。


「な、何それ!? じゃあ、ボクも才斗の事許さない! ボクも才斗と一緒に寝る!」


 一方、折角落ち着いていた玲の方は再噴火した。


「じゃあって何よヘタレ王子。自分の言葉に責任をもって、あんたは別部屋で一人で寝ればいいでしょ」


「嫌だよ! そもそも一緒のお布団で才斗と何する気なの凛奈ちゃん!」


 こうして話は紛糾し、一先ず俺の犯した咎については有耶無耶になったが、代わりにデカすぎる代償を払う事になりそうで、俺は頭が痛かった。


 そんな時にふと視線を感じた気がして仰ぎ見ると、祖母ちゃんの遺影が俺に笑いかけていた。


 心なしか、苦笑いしているように見えた。


才斗の贖罪はつづく~。


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― 新着の感想 ―
同衾などしたらそれをネタに親に申告、結婚まっしぐら 両方の女子と同衾するしかないかな
まぁ誰が悪いかは一目瞭然なので、おとなしく蹂躙(仮)されたまえ。
祖母以外の親族は出てきてないけど、祖母の家には今は誰もいないのかな。 だとしたら、夜に何があっても目撃される心配はないわけだw 案外、愛梨が夜中に忍んでできたりw
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