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第19話 ぬ!? 都会の女!

「お~、変わらないな。我が故郷は」


駅舎からの景色は、昨年度に俺がここを離れてから、一つも変わりはなかった。


駅前だが、土産物屋も古びた喫茶店も何らお店の入れ替わりなんてイベントは発生しない。

悲しいかな、これが我が町のメインストリートの実情だ。


「はぁはぁ……。くそ! 結局、ヘタレ王子を排除出来なかった」


「はぁ……それはこっちのセリフだよ凛奈ちゃん。何でボクより身長低いのに、そんな強いの」


電車内での激戦により、折角の白ワンピがすっかりヨレてしまった2人は、既に満身創痍だ。


そりゃ、あんだけ暴れたらな。


都会の電車であんなキャットファイトしてたら、確実に俺のまぁまぁニキと同じ末路を辿っていただろう。


電車内でネタになるのは俺だけでいい。


「おう才斗。来たな」

「お、英司。久しぶりだな。迎えに来てくれたのか」


駅を出た目の前の道路に、タオルをバンダナのように巻き、ツナギを着た長身の日に焼けた、同級生の英司が立っていた。


「夏休み中は流石に長ラン着てないのな」

「我の家は、夏休み中は夏野菜の収穫が忙しいからな」


英司がニカッと笑うと、黒く日焼けした肌に白い歯が映えた。


こいつも、番長スタイルのトンチキな格好や物言いじゃなければ、気のいいガタイがデカいイケメンの部類なのに、もったいない奴だ。


「農作業が繁忙期なのに、わざわざ迎えに来てくれたのか?」

「ああ。こやつの付き添いでな」


そう言って、英司が後ろへ顔を向ける。


「ちょっ、兄者」

「お、愛梨(らぶり)じゃないか。久しぶり」


ブラインドになっていた英司が退くと、そこにはチマッとした金髪ロングの女の子が立っていた。


英司がデカイとはいえ、その背中に全身がすっぽり隠れてしまうくらいに小柄だ。


「相変わらず似てない兄妹だよな」

「う、うるさいのじゃ才斗兄ぃ! 都会に行った裏切り者が!」


小柄なのに、どこにそんなパワーがあるのかという大きな声を張り上げる愛梨。


だけど、定番のやり取りがむしろ懐かしくてホッとする。


「まぁまぁ。お、そう言えば愛梨が羽織ってるの、番長の証の長ランか。懐かしいな」


ツナギを着ている英司とは対照的に、愛梨はセーラー服タイプの中学の夏制服の上に、長ランを肩で羽織っていた。


 昨年度までは、英司が羽織っていた物だ。


「ふふん、どうじゃ! これが第50代目にして初の女性番長総代の威光じゃ」

「愛梨が羽織ってると、長ランが地面スレスレだな。某海賊マンガの海軍マントみたい」


「我がチビだと言いたいのか、才斗兄ぃ! この! この! このぉ!」

「おお、愛梨の拳のラッシュも久し振りだな」


拳は軽いが手数は多い。


組み技で重い一撃狙いの英司とは反対のファイティングスタイルだから、この点も兄妹で似てないな。


と思いつつ、拳を手で受け捌く。


「それで才斗兄ぃは、都会で夢破れて郷心(さとごころ)がついたのか? 夏休み明けには、こっちに戻ってくるのか? ん?」


勝手に都会からの敗残兵呼ばわりされているのだが、何で愛梨の奴は嬉しそうなの?


「いや、その予定はないよ」

「そうか……」


分りやすくショボくれる愛梨だが、まあ、俺が都会に行くのに超反対してたもんな愛梨は。

別れ際も餞別を投げつけてきたし。


「あ、そういえば愛梨から貰ったトレーニング用のグローブなんだけど、すげぇ使いやすくて重宝してるぞ」


「そ、そうなのか? ま、まぁ我が選んだんじゃから当然なのじゃ」


そして、プレゼントの事を褒めたら、途端に上機嫌だ。

ワンコ系キャラの愛梨なので、尻尾をブンブンと振っているのが幻視される。


「この子が噂の愛梨ちゃんか……」

「のじゃ語尾チビッ子女番長……。ボクと全然タイプの違う女の子だね……」


「ぬ!? 都会の女!」


 凛奈と玲を見咎めて、何故かファイティングポーズを取り警戒体勢に入る愛梨。


「いや愛梨、言い方……。凛奈、玲、紹介するな。この子は、荒城(あらき)愛梨(らぶり)。英司とは年子の兄妹だ」


 間に入った俺は、その流れのまま凛奈と玲に愛梨を紹介する。


「よろしく愛梨ちゃん。才斗とは高校のクラスメイトで隣の席の西野凛奈です」

「初めまして愛梨ちゃん。ひょっとしたら動画観てくれてるかな? ボクは星名玲。電車で才斗に助けてもらったんだ」


「…………」

「ちゃんと挨拶せんか愛梨。それでも番長総代か」


「アイタ! 痛いのじゃ兄者!」


 挨拶されたのに、黙り込んで凛奈と玲を睨んだままの愛梨の頭に、兄の英司からゲンコツが入った。


「すまんな西野さん、星名さん。まだまだ教育の行き届いていない小娘な妹で」


「いえいえ、そんな」

「大丈夫ですよ」


英司が丁寧に腰を折り、凛奈と玲に妹の愛梨の無礼を謝罪する。


デカい男がしっかり腰を折って謝罪してると、その高低差ですげぇ謝ってる感が出て、凛奈と玲も恐縮している。


「うぐぅ……。兄者は我の味方ではないのか?」


 ゲンコツが落ちた頭を押さえながら、愛梨が兄の英司に問いかける。


「闘うなら、まっすぐ正面からが番長総代としての矜持だ。その背中を見せてこそ、後の者が続くのだ」


 相変わらず、礼節ごとには厳しいな英司は。

 しかし、闘うって何のことだ?


 隣町の中学との抗争でもあるのかな?



 と思っていると、兄の英司のツナギを掴む愛梨が視界に入る。

 しゃあない。愛梨の事は、厳しい兄に代わって俺がフォローしとくか。


 これも、いつもの風景だ。


「そういや愛梨は中三で受験生だもんな。夏休みなんて受験勉強で忙しいのに、今日はわざわざ迎えに来てくれてありがとうな」


「ぴゃっ!? なんじゃ、藪から棒に才斗兄ぃ」


 さっきまで、ぶすくれて背中を丸めていたのに、突然俺に話しかけられて飛び上がったように背筋を伸ばす愛梨。


「この間、こっちに遊びに来た奴らから話は聞いてるよ。俺が居なくなっても勉強頑張ってるんだな」


 県民の日の休日に地元の奴らが遊びに来た時に、愛梨は一緒には来ないで勉強を頑張っていたと聞いた。


「だって、それが才斗兄ぃとの約束だし……」

「アハハッ! 懐かしいな。勉強では俺が先生で、ケンカについての師匠は愛梨だったな」


 当時、祖母ちゃんの家に来て二人暮らしをしはじめた当時、英司たち地元の奴らはやりたい放題だった。


 そして、何も知らない転校生の俺に貧乏くじを引かせる形で学級委員にされ、余所者の俺を認めない英司らとぶつかってボロボロだった。


 そんな中、見かねて手を差し伸べてくれて、稽古をつけてくれたのが愛梨だったのだ。

 代わりに、俺は一学年下の愛梨の勉強をよく見ていたのだ。


「この間の3年生の1学期中間試験でも、ぶっちぎりで学年トップの総合得点だったのじゃ」

「おぉ! 凄いじゃないか愛梨。中三で受験学年になったら、周りも勉強に本腰を入れだすのに、それでもトップなんて偉いぞ」


「エヘヘッ」


 結果、出来上がったのが学年首席の女番長の愛梨である。

 頭を撫でてやると、愛梨はくすぐったそうに、でも嬉しそうに声を漏らす。


「ちょっと才斗……。年頃の女の子に頭ナデナデは今の時代、セクハラになるわよ」

「羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい」


 ふと視線に気づくと、凛奈からは吹雪のような冷たい目線が、玲からは何事か呪詛の言葉を投げつけられていた。


「おっと、つい昔のノリで。悪い愛梨」

「もっとぉ~、才斗兄ぃ」


 名残惜しそうにおねだりする愛梨に、番長としての威厳は無かった。


「才斗……。お前はやはり、こと女子(おなご)周りに関しては不得手だな」


「時代錯誤な番長スタイルの奴に残念呼ばわりされると、ヤバさが際立つから止めてくんない?」


 溜息をつき、呆れ果てたという顔の英司にそんな事はないと俺は反論したかったが、最近の俺の周りの状況からあまり強く反論は出来なかった。


ようやく登場の愛梨ちゃんでした。


実はこのエピソードを書く直前まで愛梨に関しては、英司の妹で女番長であることしか決めていなかったのですが、いざ本文を書きはじめたら自然と、チンマイのじゃ語尾ツンデレ女番長というキャラになりました。


あくまで自然に。



ブックマーク、★評価もいつもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
第三のヒロインは、喧嘩は強いんだろうけど、なんかキャンキャン吠える子犬臭がするような。まあ他の二人といい勝負になるところですか。 有能メイドと比べると圧倒的な格下感。
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