第18話 才斗……立ちなさい
「あ~、何だか懐かしいな~」
車窓から流れゆく景色を見送り、これから向かう地元の景色に想いを馳せながら、俺は呟いた。
「ガタゴトと揺れる電車の車窓から眺める景色ってなんかいいよな」
「…………」
「…………」
返事はない。
「このローカル線ってワンマン運転で運転手さんしか乗ってないんだぜ。駅も半分は無人駅で、見ての通りガラガラさ」
「…………」
「…………」
やっぱり返事はない。
だが、沈黙に耐えられない俺は、さらに口を回す。
「線路幅が狭いから、都会の電車より揺れるだろ? おかげで、この路線で通う学生は体幹が鍛えられて」
「才斗……立ちなさい」
「黙って、ボクたちの話を聞いてくれるかな? 才斗」
「はい……」
腕組みして険しい顔で電車の座席シートに座っている凛奈と玲に言われて、俺はガラガラの電車内なのに屹立した。
無論、つり革は掴まずに、手は大腿四頭筋の横だ。
「なんでヘタレ王子が私達の帰省についてきてるのかしら?」
「いや、凛奈ちゃん逆だよ。凛奈ちゃんがボクと才斗の帰省のお邪魔虫になってるんだよ」
バチバチと凛奈と玲の間に火花が散る。
バックの車窓の、のどかな風景とは対照的である。
「ボクが先に約束したんだよ!」
「私は才斗から誘われたし!」
さっきから何度も2人は同じ内容でいがみ合っている。
「それで、才斗。何か弁明はあるかしら? あなた、わざと2人きりの帰省だと私達が誤解するように仕向けたわね」
「酷いよ才斗……」
「いや、人手が欲しかったのホントだから……。その、スマン……」
そして、俺もさっきからコメツキバッタのごとく2人に謝り倒している。
でも、これは仕方がない。
これは故意であり、2人に誠実に向き合うのを避けるがための策だ。
有識者の中條さんには呆れ果てられたが、それでも俺にはまだその覚悟も、2人に返す言葉もない。
だから、逃げの選択をした俺が謝るのは当然だ。
「それにしても凛奈ちゃん。何しに行くか解ってる? 才斗のお祖母ちゃんの法事の手伝いに行くんだよ? 何なの、その格好?」
「その言葉、そっくりそのまま返すわよ。白のワンピに白の帽子って、ヘタレ王子のガラじゃないでしよ」
そう。
この点は想定外だったのだが、玲と凛奈は揃って、清楚系白ワンピ姿だったのだ。
待ち合わせ場所に同時に現れた2人は鏡写しのようなお互いの姿に固まっていた。
「凛奈ちゃんだって、実家への挨拶だって気合い入れて、その格好にしたんでしょ?」
「な!?」
紅潮した凛奈の顔は、白いワンピなのもあって良く映えていた。
「有名洋菓子店の手土産も用意してさ。いい嫁アピールのつもり?」
「ヘタレ王子だって、全く一緒じゃない!」
「そうだよ! お菓子のお店まで被っちゃって、これじゃあアピールにならないじゃない! 凛奈ちゃん、ちょっと途中下車して観光でもしてきなよ」
「この路線、本数少なすぎだから、1回でも途中下車しちゃったら、到着が夜になっちゃうでしょ!」
うん。そうなんだ。
学生は夏休みとは言え、今日は平日。
電車のダイヤは3時間刻みで、時刻表はスッカスカなのだ。
「こうなったら、力づくで次の駅で下ろしてやる。凛奈ちゃん覚悟」
「そういやアンタとはアスレチック広場での勝負が保留のままだったわね。いい機会だから、今ここで潰してやる!」
折角の白ワンピにツバの広い帽子にミュールという清楚系の出で立ちの令嬢が電車内で取っ組み合いを始める姿は、中々にシュールだった。
(田舎の赤字路線で、車両に他のお客さんが居なくて本当に良かった……)
そんな現実逃避をしながら、俺は電車内で立ち尽くし、都会の電車より揺れる地元の電車の揺れに耐えるのであった。
このローカル路線は作者の故郷の鉄道をイメージしています。
最近は、都会で走っていた電車の車両のお古で走ってます。
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