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第13話 地元の女の子と久しぶりの再会とか危ないし

「才斗おはよう~」

「お、おう、おはよう玲。すまん、まだ準備できてなくて……」


 朝。


 インターホンの音で目を覚まし、寝ぼけまなこで玄関扉を開けると、にこやかに笑う玲が立っていた。


 昨日の凛奈が去り際に残した言葉にモンモンとしていたら、昨晩はなかなか寝付けなくて寝不足だ。



「珍しいね才斗。てっきりもう起きてると思ったのに」


「ああ、ちょっと昨日はな……。そういう玲は随分と早起きだな。バイトの時間には、まだだいぶ早い時間だろ」


 アクビを誤魔化しながら玲を家の中に迎え入れる。


「だって夏休みだよ。そしてバイト初日だよ。才斗とずっと一緒にいられるんだって思ったら、いつもより早く起きちゃった」


 まるで小学生みたいに目を輝かせている玲は、これから、ラジオ体操にでも行きかねない勢いだ。


「まったく……。朝ご飯はちゃんと食べてきたのか?」

「ううん。起きて身支度したら、直ぐに家を出て来ちゃったから食べてない」


「これから身体を動かすのにそれはアカンだろ」


 後で、お母さんの涼音さんにも連絡しとかないとな。


「じゃあ、時間もあるしボクがコンビニで何か買ってこようか?」

「いや、今から朝ごはん作るから、よかったら玲も食べていきな」


「え!? そんな貴重な物を食べれるの!? やっぱり早起きをすると三億の得だね」


「1切れ100円の塩サバの切り身に過分な評価だな」


 冷凍庫から出した塩サバの切り身を電子レンジで解凍にかけながら、俺は味噌汁用の鍋に2人分の水を入れて火にかけた。




◇◇◇◆◇◇◇




「うん、才斗の料理美味しい」

「あんがとよ」


 食卓を挟んで、玲がピシッとした正座で箸を進める。


「豆腐とえのきの味噌汁に塩サバ、卵焼き、オクラのおひたしなんて、久しぶりに食べたな」


 そういや、凛奈に同じようなメニューを食べさせた時も同じような感想を言ってたな。


 と思いつつも、その事を喋ると、先に凛奈に手料理を振る舞ったことに玲がむくれてしまうなと思い口には出さないでおいた。


 って、いかんな。

 変に昨日の凛奈との事を意識しすぎか。


「俺は逆にこういうのしか作れないんだよ。俺の料理の師はお祖母ちゃんだからな」


「お祖母ちゃんって、英司君たちと一緒だった地元の?」

「ああ。中学時代、俺はお祖母ちゃんと2人暮らしでさ。その時に、ご飯の作り方とかを習ったんだ」


 自炊してるのは節約も兼ねてという事で習慣づいてるんだけど、こういう和食って副菜の種類を揃えると、結局はお高めになっちゃうんだけどな。


 でも、筋トレをしている身としては、食事で良質なタンパク質とバランスの取れた栄養素を摂取する事はマストなのだ。


「フフッ。お祖母ちゃんの事、好きだったんだね才斗」

「ん、そうか?」


「うん。優しい顔してたから」


 そう言って、微笑んでくる玲を見て、俺も鏡のように微笑みを返す。


「夏休みにはお祖母ちゃんの所に帰るの?」

「ああ、そうだな。墓参りと一周忌の法要もあるし」


「え……。亡くなってたんだね、お祖母ちゃん……。ゴメン……」


「ああ、気にすんな。もう1年も前の話だから」


 自分がお祖母ちゃんの話題を広げたという自覚があるせいか、玲が申し訳なさそうにするが、俺は気にするなとその誠意を受け止める。


「うちの地元は田舎だから、今でも一周忌の法要を自宅や地元の集会所でやるんだよ。だから、ちょっと早めに帰って、家の掃除やお茶の道具やらを準備しないとなんだ」


 最近の冠婚葬祭は家族葬とか、小ぢんまりと執り行う時勢だが、うちの地元はまだまだ昔ながらの空気が残っていた。


「じゃ、じゃあさ才斗。ボクも手伝いに行くよ」

「え!?」


「うん。才斗の地元も見てみたいし。ちょうど夏休みだし」

「いや、うちの地元は本当に何もないぞ」


 叡桜女子高に通うお嬢様なら、夏休みはバカンスで南国や欧州旅行とかだろ。


 何が楽しくて何もない田舎なんぞに行きたがるんだ?

 しかも、遊びにじゃなくて法事の手伝いなんて。

 そんなの忍びない。


「手伝いの手なら大丈夫だぞ。英司や愛梨が……」


「ラブリちゃんね……」


 え?

 何で愛梨の名前が出たとたんに剣呑な空気が溢れてるの玲?


 とても、これから子供たちにスケートを教える人の顔には見えないんですが……。


 あ、そうか。


「た、確かに愛梨は今年受験生だから法事の手伝いを頼むのは悪いか。英司経由で地元の婦人会の人たちに声をかけてもらうか」


「そういう意味じゃなくて……。ボクも才斗に頼って欲しいの!」


 玲がむくれながら、ご飯をかきこむ。


「でも、そんな悪いよ」

「いいの! 才斗が大事に想っていたお祖母さんの墓前で手を合わせたいし」


「玲……ありがとう」


 会った事もない俺のお祖母ちゃんに、そこまで……。


「あと、地元の女の子と久しぶりの再会とか危ないし」

「危ないってなんだよ。気心知れた奴らと会うだけだよ」


「それが危ないって言ってるの! 才斗はもっと自分の魅力に自覚持って気を付けないと!」

「そういうのって、普通は男が玲みたいな可愛い女の子に言うものだと思うんだけど」


「可愛……。うれし……、って、もう! だから、そういう所だよ才斗!」

「いや、玲が可愛いのは事実だし。今日も電車大丈夫だったか? 今でも心配してるんだからな」


「な……、なに才斗!? 今日の才斗、なんでそんなに愛情表現豊かなの? ボクを朝からどうしたいの!?」


 困惑しているけど、でも嬉しそうな玲がこちらに期待の眼差しを向けてくる。


 確かに、さっきから自分の意志とは別の力で背中を押されるように言葉が出てきてしまう。


 玲に指摘されて、俺もようやくその異変について自覚し、そして心当たりがあった。


「あ! これ、あれだ。昨晩、凛奈が持ち込んだアロマキャンドルのせいだ」


 素直になる効能が今更ながら、俺の言動に少なからず影響を与えていたのだ。


 キャンドルに火をつけなければ害はないと思っていたが、どうやらアロマキャンドル本体から発せられる香りを一晩吸収してしまい、さしもの俺でも影響を受けたと見える。




「昨晩……。凛奈ちゃん……。アロマキャンドル……」


 そして、その事を素直というか、迂闊にも玲に喋ってしまっていることからも、まだ俺が当該アロマの影響を受けている証左であると言えよう。


「あ、やべ」


「昨日ボクが、終業式終わりの補習だったのをいいことに、凛奈ちゃんとこの部屋で何してたの! アロマを焚いてムードを高めるとか、絶対エッチなことする気満々だったんじゃん!」


「いや、ちがっ! 何もなかったんだって! 本当だって!」


 その後結局、バイトへの出勤時間ギリギリまで玲をなだめすかす羽目になった。


 なお、アロマキャンドルは袋に2重で入れて封印した。

『メイドが手作りした素直になれるキャンドル』というキャッチコピーなら結構売れそう。


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