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第5話 褒めてんだから突っかかってくんな

「お~! まぁまぁニキだ!」

「待ってました! 一緒に写真撮って~!」



「まぁまぁまぁってやって~」

「ま……まぁまぁまぁ」


「キャハハッ! ウケる!」


 登校して教室に入ると、ワッ! とクラスメイトに取り囲まれた。

 一夜にして、一発芸でブレイクした芸人にでもなった気分である。


「昨日、遅刻して来たり午後の授業に欠席してたのは、ああやって人助けしてたからなんだね~」

「そういえば九条君って、部活してないけど結構ガタイいいよね」

「かっこいい~。勇気あるよね~」


 意外なことに、褒めてくれるのは女子ばかりだ。


 男子たちは、なんだか苦虫を嚙みつぶしたような顔をしていたり、机でうつむいている。


 まぁ、普段から校内トップの美人である凛奈とつるんでるせいで、男子からは目の敵にされてるから、敵意の視線を向けられないだけマシだけど。


「それでさ、それでさ。殴られてた男の子って知り合いなの?」

「いや。昨日初めて会った人だよ」


 話しかけてきているのは普段はあまり接点のない他クラスのギャル系の女子たちで、ちょっとドキドキする。


「え~、そうなんだ。彼とはその後話したの?」

「いや、特には」


 そういえば、被害者側からお礼の電話がしたいって事で、警察にこちらの連絡先を伝えるのを了承したよな。


 ひょっとしたら、昨晩電話がかかってきてたかもな。


「動画でチラッと映ってたけどカッコよかったよね彼。ちょっと影のある危ない王子様みたいで」

「連絡先とか分かったら教えて~」


 って、俺に群がってたのは、あのイケメン君狙いかよ!

 いや、たしかに玲君は男の俺から見てもすげぇイケメンだったけどさ。


「じゃあね、よろぴく~」


 いや、紹介するなんて一言も言ってないんだが……。


 自分たちの用件だけ伝えてギャル軍団は行ってしまった。


「あ、あ、あの九条氏」

「ん、なに? 中條(なかじょう)さん」


 ギャル系軍団が離れたと思ったら、これまた普段は話したことのない大人しい系女子の中條(なかじょう)亜子(あこ)さんが話しかけてきた。


 普段はクラスの隅っこで、2,3人で固まって内緒話をしている印象だ。


「九条氏と被害者の男子は、その後どうなんでありますか?」

「中條さんも玲君狙いなの?」


 俺は少しゲンナリしながら答える。


 ギャル系から、中條さんみたいな大人しい女子まで虜にするとは、玲君のイケメンパワーは罪だな。


 ネットに投稿された動画だと、俺とニッカポッカの兄ちゃんがメインで、玲君は大して映ってる時間なんてないのに。


「いえいえ、そんな滅相もない! 尊いカプの間に、私めみたいなゴミムシが挟まり込むわけには参りませぬゆえ~」


「カプ?」


「おっと、こちらの話でござる~。では、何か彼との間に進展がありましたら是非続報を所望しますぞ~。我々、天から頂けるネタが一片でもあれば、1週間は味わい尽くせますゆえ~。それでは!」


 一方的に自分の用件をまくしたてると、中條さんはお仲間たちのいる教室の隅っこへタタタ―ッと走って戻っていった。


久しぶりに凛奈以外の女子と喋ったけど、みんな結構コミュニケーションが一方的だな……。


「ねぇ、九条君って子はここのクラス~?」


 なんて事を思っていると、今度は女の先輩が教室に来て名指し指名である。


 う~ん……人気者は辛いぜと心の中でうそぶいてみるが、面倒くさくて俺の気は重かった。




「良かったわね才斗。女の子たちからたくさん話しかけられて」


 女子の先輩方に取り囲まれた撮影会や、お決まりの玲君を紹介してくれという懇願が終わり、ようやく自分の席に戻ってきた俺に対し、凛奈がジトッとした目線付きで嫌味を飛ばしてくる。


 さっきから気の休まる瞬間がない!


「あれは俺がモテてたわけじゃなくて玲君狙いだよ」

「玲君って、被害者の男子高校生の事よね? たしかに、ネットでも凄いイケメンって騒がれてたわね」


「紹介してくれって人が後をたたん」

「あらあら、折角男気を見せたのに、全然モテなかったのね。可哀想な才斗」


 俺が女子生徒たちからモテてた訳ではないと知り、なぜか上機嫌になる凛奈。

 こいつ、やっぱり性格悪いな。


「そういう事だよ。ったく、普段は接点ない女子と話してて疲れた。なんやかんや、ここで凛奈と駄弁ってるのが俺には丁度いいな」


「あら、私相手にはドキドキしないってこと? それは心外なんですけど」

「一緒にいたら落ち着くって意味だよ。褒めてんだから突っかかってくんな」


「そ……そう……」

「そういうこと」


 何故かうつむいてしまった凛奈。

 ようやく静かになったので、これで俺の日常が戻ってきて。



「お~い九条。ちょっと校長室へ来~い」

「またかよ……」


 担任の寝屋先生がニヤニヤしながら廊下から呼びかけてくるのを見て、俺は溜息をついて、座ったばかりの席から立ちあがった。




◇◇◇◆◇◇◇




「九条くん~~~! おはよう! 動画観たよ! 君は我が校の誇りだ」


「校長痛いっす……」


 校長室に入ると、開口一番に晴れやかな顔をした校長に肩をバンバン叩かれた。


 晴れやかな顔なのは、自分が責任を負う必要のない事案であることが確定し、責任をとらされる心配がなくなったからだろう。


「私は君のことを信じていたよ九条君!」

「はいはい」


 教頭も清々しい顔してんな~。


 信じてたとか、絶対ウソだろ。

だったら、昨日の午後の授業が丸つぶれになった面談はなんだったんですかね……。


「特に、暴力を使わずに事態を解決したのが偉い!」

「手を出していたら、流石にケンカを仲裁するためとはいえ、こちらも批判を受けたりしますからね。これで、胸を張って取材に答えられますね校長」


「取材?」

「ああ。九条君の動画が話題になっているからか、大手マスコミ数社から取材依頼が来てるんだ」


 教頭がウキウキして口走った取材という言葉に引っ掛かりを覚えて尋ねると、校長がニンマリ笑顔で答える。


「なんで俺がこの高校に通ってるってバレて……」

「動画には制服姿で映っていたからね。身だしなみは大丈夫かな? これからマスコミの方が来るんだから」


「え!? いや、あの。俺、マスコミ取材とかは、その……」


 ただでさえ動画が世に出てしまって目立っているのだ。

 これ以上、目立ちたくなんてない。


「ここは学校の広報担当である教頭の私が取材に同席を」

「いやいや、ここは学校の責任者である校長の私が出てこそでしょう」


 俺が断ろうとするが、校長と教頭ははしゃいでしまっていて、俺の言葉を聞いちゃいない。


 すわ不祥事かと緊張しながら一夜を明かした後に、その緊張から解放された反動からか、校長と教頭は明らかに調子に乗ってしまっている。


 っていうか、ほんと人の話を聞かない2人である。教育者として大丈夫なのか?


「盛り上がってる所すいません校長、教頭。この件に関しては、教育委員会の本庁主管課から指示が来てますよ」



「「え、教育委員会!?」」



 浮かれていた2人は、寝屋先生から『教育委員会』という冷や水が浴びせかけられる。。


 悲しい性である。


「本庁主管課からの指示内容を要約すると、『今回は被害者、加害者、仲裁者全員が未成年者であるため、具体的な回答は差し控えますと取材があったら回答しろ。校名も生徒のプライバシー保護のために一切出すな』とのことです」


 寝屋先生が、朝一届きたてホヤホヤで届いた通知文を読み上げる。


「なんだい、そのお役所みたいな回答は!」

「教育委員会は役所ですからね」


「そんなの嫌だ! せっかく、我が校の名前を広めるチャンスなのに!」


 教育委員会からの指示に、校長と教頭が立腹する。


「普段の臨時予算要望の時には、全然回答を寄こさないくせに、なんでこういう時の動きだけは早いんだ!」


「動画の投稿を認知した私が、昨夜のうちに教育委員会勤めの同期に伝えて、対応を依頼したからですね」


 日頃、ダウナーでやる気なさそうな寝屋先生なのに、メチャメチャ仕事が早いな。


 あ。


 っていうかこれは、俺の家庭事情を知っている寝屋先生だから、こんなに迅速に動いてくれたのか……。


「君のせいか!」


「校長、教頭。九条は望まずに全世界に、その姿を曝されてしまっているんですよ。教育者として、生徒の事を第一に考えるべきかと思いますけど?」


「「うぐ……」」


 俺という生徒がいる手前、正論を盾にされると弱い。

 勝負は寝屋先生の勝利で決した。



 ありがと剛史兄ぃ。


 俺は心の内で感謝した。


実際に私が男子高校生を助けた時は、たくさん褒められました。

オッサンたちにね……。


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― 新着の感想 ―
腐、ふふふふふふふふ
そこは、チッ、腐ってやがる、と返してほしかったw 被害者の中身はいつバレるのかな。バレたらまた大変なことになるなあ。
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