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第4話 まぁまぁニキ爆誕

「うわ……。通知数エグ……」


 鳴りやまぬスマホの通知音がうるさくて通知音をOFFにし、現実逃避で寝た。

 が、現実逃避しても朝はやってくる。


 通知の差し出し人を見ると、中学時代の友人などからだった。


 そうだよな……。

 動画が割と鮮明だったから、顔見たら知人からしたら一発で俺だって分かるよな。



『この、まぁまぁニキって、中学の時に同級生だった九条だよな?』

『声もそうだし間違いないと思う』

『本人にダイレクトメッセ送ってるけど反応ないのよ』

『もう、まぁまぁニキの切り取り素材動画が出来てて、ネットミーム化してて草』

『いや~、同級生でこんな有名人が出てくるとは』

『九条君って、ずっと学級委員長やってた人だっけ?』

『そうそう。さすが委員長だよな~』

『当時も、ケンカの仲裁とかしてたよね』

『そういえば県外の高校に進学したんだよね。成績も良かったもんね』

『まだ高1だけど、もう中学時代が懐かしいな~』

『久しぶりに、中学同窓会のグループチャットが盛り上がったし、この勢いで同窓会の企画でもしてみるか?』

『行きたい行きたい~!』


 試しに覗いてみた出身中学の全体グループチャットは、こんな有様だった。


 こいつら、他人事だと思って好き勝手言いやがって……。

 何で、人の不幸を出汁にして盛り上がって、同窓会を開こうとしてんだ!


 もう、中学のグループチャット退会しようかしら。


「この様子だと、学校にも当然バレてるよな……」


 もはや、痴漢や盗撮で疑われる心配は無くなったが、全然別次元の話に発展してしまって、頭を抱えるしかないが、俺にはどうしようもなかった。




◇◇◇◆◇◇◇




「おはよ才斗」

「凛奈!? なんだよ家まで来て」


 動画のせいですっかりダウナー気分で、それでも登校するためにマンションのドアを開けて1階に降り立つと、制服姿の凛奈から挨拶されて驚く。


 凛奈とは自宅最寄り駅が違うし、登校時にお迎えなんて普段はしない。


「スマホに連絡しても返信ないから迎えに来たの」


「あ、すまん! 通知がうるさくてスマホ見てなかったんだ」

「そんな事だろうと思ったけどね。大丈夫?」


「大丈夫……っていうか、こういう時に炎上の渦中にいる時って、本人は何もできないのな」


 これが、芸能事務所に所属するタレントとかなら、事務所が火消しに動いてくれるとかあるのかもしれないが、一般ピーポーな俺にはマジで、自身が炎上の渦中にいても、茫然と眺めている事しかできなかったので、とっととふて寝したのだ。


「そうでしょうね。それにしても、知り合いがネットでバズるなんて愉快だわ」

「いや、全然愉快じゃないんだが」


 くそ。


 心配して様子を見に来てくれて、友達思いのいい奴だと思ったのに、やっぱり凛奈はゲス野郎だな。


「それで、才斗は今日どうやって学校に行くの?」

「どうって、普通にいつもの電車で」

「それじゃ駄目よ」


「い~や、乗る! あの動画を上げた犯人は、昨日電車に乗ってた奴だからな。犯人は犯行現場に必ず帰ってくる!」


 面白がって俺の動画をネットに上げた奴は許さん。


 人が、必死にケンカの仲裁をしてた時に、加勢しないばかりか動画撮影だけして、ネットに流しやがるなんて。


 動画の広告収益よこせ!


「そんな意地張ってないで、電車通学はしばらく止めておきなさい。今、電車に乗ったらまた、盗撮されてネットでさらされるのがオチよ。一時のバズりのために人生を棒に振る浅慮な輩に近づいたっていいこと無いのよ」


「そうだけどさ……、悔しいじゃないか」


 ちくしょう……。

 なんで俺がこんな目に……。


 俺は玲君を助けただけなのに。


「ほら。向こうに車を待たせてるから行くわよ」

「車って?」


 訳も分からずマンションの外に出る凛奈について行くと、そこには黒塗りの高級セダン車が止まっていた。


 ワックスでピカピカに磨き上げられた車体は、顔が鏡のように映りそうだ。


「うちの家の運転手さん付の車よ。しばらくは一緒に登校してあげる」

「ええ!?」


「大きな声出さない。近所迷惑になるでしょ」

「いや、だって流石にそれは悪いよ。そんな、一緒に車通学なんて周りから噂されちゃうし」


「別に友人を乗せるだけよ。駄々こねてると私まで遅刻よ。2人仲良く遅刻して教室に入ったら、それこそクラスメイトはどう思うかしら?」


「はい……。乗ります」


 固辞したが、敢え無く理詰めで言いくるめられてしまった。


 俺も凛奈くらい弁が立ってれば、ニッカポッカの兄ちゃんを言い負かしたり出来たんだけどな……。


 動画で拡散されるなら、もっと格好つけたのに……。


 そう現実逃避しながら、俺は運転手さんにドアを開けてもらって、フカフカの後部座席シートに乗り込んだ。




◇◇◇◆◇◇◇




「これ、学校に着く前に目を通しておきなさい」

「何、この紙?」


 恐縮しつつも乗り込んだ高級車の乗り心地、座り心地を楽しんでいると、隣に座った凛奈から書類を手渡される。


「ええと、なになに。まぁまぁニキに関する書き込みの代表例。『まぁまぁだけでヤンキーを制するニキ、まじカッコいいっす』……って、何だこりゃ!?」


「ヘタレな才斗は、どうせネットでエゴサなんてしてないだろうから、私の方でネット掲示板やSNSのコメントを抽出してリスト化しておいたのよ」


「なに、お前、俺の事嫌いなの? 俺を精神的になぶるために、そこまでする?」


 怖い、この女友達。


 書式レイアウトも整えてしっかり仕事用の資料っぽくあつらえられているし。どういう気持ちで、このリストを作成したんだ?


 震える。


「ちゃんとリストの内容を読みなさい。茶化す内容もあるけど、才斗を悪く言っているコメントは皆無だったのよ」


「……本当か?」


 恐る恐る、リストを薄目で見る。


 確かに、俺が『まぁまぁまぁ』としか言ってないのが草とか、それをネタに大喜利してたり、各国の首脳が争う国際会議に俺が仲裁するMAD動画などもあるが、俺自身を批判しているコメントは全くなかった。


「俺に気を使って、凛奈が恣意的なデータ抽出をしたんじゃないのか?」


「そんな無意味なことしないわよ。データ統計は、願望や主観を排除して収集・分析せよが基本よ」


 仕事に疑念を抱かれて立腹のご様子の凛奈。


「ああ、悪かった。しかし、世間の感想はこんな感じなのか」


 何だか、一方的に称賛を受けているのは、それはそれで居心地が悪い。


「今回の動画で、ヘイトは当然ながら、暴行を働いていた男性に向けられてるからね。既に個人情報も特定されて、そちらは負のお祭り状態だし。一応、こっちも纏めておいたわ」


「未成年相手なのに容赦ねぇな……。ネットは怖いわ」


 もう一枚と凛奈から差し出された紙を見ると、その内容に思わず俺は顔を顰めてしまう。


あのニッカポッカの兄ちゃん、未成年なのに名前や年齢まで出ちゃってるのかよ。


 真偽は定かじゃないが、中学時代の同級生と名乗る人が複数人掲示板に降臨して、色々と暴露していったらしい。


 なお、擁護する自称同級生は皆無。


 ニッカポッカの兄ちゃん、あんまり友達居なかったのかな……。


 昨日は警察で絞られて、更にネットに晒上げられて一生傷として残るとは。

ちょっと可哀想になってきた。


「だから、ほら。才斗の事を悪く言う人は居ないから、安心して学校に行きましょ」


「ああ、そうだな。ありがとう凛奈。俺のために色々とまとめてくれて」

「べ、別に大した事じゃないし……。家の使用人にも手伝ってもらったし」


「使用人がいるって、凛奈の家ってお金持ちの家なんだな。今まで知らなかったよ」


「学校では内緒だからね」

「ん、了解」


 何故かソッポを向いて、流れる車窓からの景色を眺めだした凛奈の顔は窺い知れなかったが、かろうじて耳が赤い事だけは分かった。



ジャンル日間1位獲れました!

ありがとうございました!!


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― 新着の感想 ―
そこまでしてくれるんだから、気がついてあげないとねえ。鈍感は罪w 銀塩の頃はカメラを持って歩いてると半ば不審者だったけれど、そういう認識を変えたスマホは功も罪も大きいなあ。 いつ撮られるかわからない…
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