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第30話 俺が恥を忍んだ意味!!

「女性用下着って、これでいいのかな? サイズは……、玲は身長高いからLサイズなのか?」


 アスレチックフィールドを出てすぐ隣の場所にあるコンビニにて、人生で最大級に難しいミッションを前に俺は、挙動不審になっていた。


「え~と何々……、下着はヒップサイズで選べ? 女友達のそんな超個人情報知ってる訳ないだろが!」


 スマホで恥を忍んで、『ショーツ サイズ 選び方』と検索してみたが、出てきた答えはまるで参考にならなかった。


「どうしよう……。どうしよう……」


 もう、MサイズとLサイズ両方買っていくか?

 でも、2人分を2サイズ買うのは、懐事情的に厳しい……。


 それとも、本人たちにサイズを聞くか?



『もしもし、玲、凛奈。お前らのヒップラインって何センチ?』



 って、聞けるか!

 ぬお~! ここは、2分の1のギャンブルに賭けなきゃならないのか!?


「あの……」

「ひょっ!? い、いいえ! 決して、怪しい者ではないんです! ここには、女友達の下着を買いに来ただけで……って、あ! いや、ちょっと女友達が下着を濡らしちゃって、その……」


 背後から声を掛けられた俺は、振り返りながら咄嗟に聞かれてもいない弁明をまくし立ててしまう。


 そりゃ、女性用下着が置いてあるコンビニの棚でウロウロしていたら不審者丸出しだもん。


「いえ。凛奈お嬢様の下着ならMサイズですよ」

「へ?」


 俺が弁解をまくし立てた相手のお姉さんは、俺のキモさ爆発な早口に動じず、予想外の返しをしてきた。


「申し遅れました。私、凛奈お嬢様のお付きのメイドを務めております、草鹿伊緒と申します」


「メ、メイドさん……、あ! 凛奈のお見舞いに行った時にいらした」


 この人、凛奈がお姫様抱っこされて早退した後にお見舞いに、家に行った時に案内してくれたメイドさんだ。


 今は、当然ながらメイド服ではなく、私服姿の清楚系女子大学生と言った格好なので、すぐには気付かなかった。


「今、メイド服じゃなくて残念だなって思いましたね」

「あ、いや、そんな事は……」


「ふむ。九条様はメイド萌えは無し、と。凛奈お嬢様に伝えませんと」

「はぁ……」


 なんか、変わった人だな。


 メイドさんって普通、主人の関係者に馴れ馴れしい態度を取ったり、あんまり個性を出してこない物だと思うんだけど。


「事情は先ほど凛奈お嬢様からスマホで連絡を受けて把握しております」


「あ、そうなんですね。じゃ、じゃあ」


 メイドの草鹿さんの言葉に、俺は安堵した。


 流石は凛奈だ。

 俺が下着の棚の前で途方に暮れているであろうことを予測して、こうして従者の人を寄こしてくれたんだ。


 後は、この人に下着の選択を任せれば。


「先ほど、女性用下着を両手に持ち、挙動不審になっている九条様の動画をバッチリ撮影いたしました」


「……撮影?」


 草鹿さんがサムズアップしながら、こちらに誇らしげに見せびらかしてくるスマホには、先ほど俺が女性用下着の前で挙動不審にしている醜態を克明に記録した動画が流れていた。


「この動画を、まぁまぁニキの新作動画として上げれば、またバズり散らかしそうですね」

「やめて! っていうか俺を助けに来てくれたんじゃないんですか?」


「私が凛奈お嬢様から指示されたのは、九条様の様子を見てこいというものでした」

「いや……。それって、何かあったらサポートしろって意味じゃ……」


「私の使命は、あくまで九条様のおつかいを主の代わりに見届け、記録する事です。その方が、絶対おもしろ……おほんっ、主の意志かと」


「ちくしょう……。凛奈の奴、やっぱ性格悪いな」


 さっき心の中で凛奈の優秀さに感謝したけど、前言撤回だ。


 そもそも、強制的に下着を俺に買いに行かせた時点で、アイツは俺の事をイジる気満々だったという事を忘れていた。


「とはいえサイズくらいは私が見立てておきますよ。ほら、凛奈お嬢様と玲様のサイズはこちらになります。どうぞレジへ」

「う……はい」


 一応のフォローはあったが……。


「思春期男子が、同級生の女の子の下着を買うのってどんな気持ちなんですか? これから同級生の女の子の秘部に触れる布を、他ならぬあなたが選んだという事実に対して一言感想を」


「おつかいムービーを撮るなら、せめて背後で大人しくしててくれませんかね……」


 おつかいムービーなのに、撮影者の草鹿さんがちょっとエッチなイメージビデオばりにこちらにインタビューしてきやて台無しである。


 いや、そもそも俺を撮っても、子供の初めてのおつかい的な微笑ましい映像にはならないけどさ……。


「ようやく買えましたね九条様」


「ええ……何とか、ミッションをこなしました」


 無事にレジを済ませてコンビニを出る。


 ただ下着をコンビニに買いに来ただけなのに疲れた……。

 これならまだ、タライを引っ張り続けていた方がマシだった。


「それでは、こちらに凛奈お嬢様の替えの下着の上下がありますので一緒に届けてあげてください。ついでに玲様の物も適当に見繕ってありますので」


「俺が恥を忍んだ意味!」


 コンビニから出た所で、草鹿さんが紙袋を渡してきて、俺は絶叫した。

 ちゃんと着替えがあるなら、俺が買う前に言ってくれよ!


 この人、全て知ってた上で、俺が辱めを受けるところを眺めてやがったな!


「中は覗いちゃだめですよ」

「覗きませんって! もう、行きますね!」


 俺は草鹿さんから渡された紙袋をひったくるようにして受け取り、アスレチックフィールドへ再入場すべくゲートへ向かった。

何気に隠れ人気キャラのメイドの草鹿伊緒さん。

失礼な有能メイドさんからしか得られない栄養素がある。


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― 新着の感想 ―
新品のそれはただの布に過ぎないのに、なぜ買うのにためらいが出てしまうのか。 スカートの中のそれを撮影すると罪になるのに、それ自体を撮影しても罪にはならない。 なぜなのか。不思議であるw
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