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第28話 男の人の手って大きい……

「ハァハァ……。中々やるじゃないか凛奈ちゃん」

「ゼェ……。あんたもね、ヘタレ王子……」


 アスレチックフィールド内にある全50の遊具をぶっ通しで走り切った2人が、芝生の休憩エリアに汗だくで寝そべる。


 どうやら、真剣勝負を通して、お互い認め合える部分も出来た模様。

 やっぱり小学生みたいだ。


「ほい、2人とも。疲労回復にはEAAドリンクな」


「ありがと才斗……」

「EAAってなに? あ、でも美味しい」


 運動して喉がカラカラだから、何飲んでも美味しいよな。

 自宅から持ってきた甲斐があった。


「結局、1周目はボクと凛奈ちゃんの25勝25敗で勝負がつかなかったね……」

「なんで、遊具の数が偶数なのよ。運営は空気読めてないわね」


 いや、アスレチックで勝負なんて、アスレチックの運営さんも想定してないから、その苦情はお門違いだ。


「しかし、凛奈も結構動けるんだな」


「うん、正直びっくり。ボクはフィギュアスケートやってたから、体幹や身体のバネを使うフィールドアスレチックは有利だと思ってたけど」


「こういうのは、コツさえつかめば行けるのよ」


 そう言えば、凛奈はスポーツも万能みたいで、よく部活連中から助っ人をお願いできないかって頼まれたりしてたな。


「なるほど、ただのお嬢様じゃないって訳だね。じゃあ、一休みしたら2周目で決着をつけようか」

「臨むところよ」


 まだ汗も引ききっていないのに、2人は完全に勝負にのめり込んでいた。


しかし、勝負に夢中で周りが見えていないようだ。


「2人ともストップ。周りを見てみな。もう、他の来場客でアスレチックは混んでるよ」


「「あ……」」



 ちょうど目の前にある、スタート地点のアスレチックには小学生くらいの子供たちがキャーキャー言いながら遊具で遊んでいた。


 1周目は開園直後の時間だったから、場内はまだ空いていたし、2人が爆速で次々とアスレチックを攻略していき、常に先頭にいたので他のお客さんの邪魔にはならなかったのだが、これでは全力のタイムアタックなんて出来ない。


「たしかに、こんな小っちゃい子たちがいる中で全力で走り回ったら事故るわね……」

「え~。じゃあ、勝負はどうするの?」


「そこは普通にアスレチックを楽しもうぜ」


 口を尖らせる玲に、俺は一時休戦を提案する。


「っていうか、才斗。自分がアスレチックで遊びたいだけでしょ?」


 凛奈が見透かしたように笑う。


「そりゃそうだろ。俺、一周目は審判としてずっと付き添ってただけなんだから、身体動かしたくてウズウズしてるんだよ」


 どっちが先にゴールするかジャッジする関係上、俺はずっとスタートの号令とゴールのジャッジやタイム測定をしていたのだ。


 後半は正直、かなり飽きていた。

 俺だってアスレチックフィールドの入場料を払ってるんだから楽しみたい。


「でも、ボクと凛奈ちゃんの勝負が……」

「頼むよ玲。俺、こういう風にアスレチックデートみたいなの憧れてたんだよ」


「デデ、デー!? ほにゅらばっ!?」


 頭を下げたら、玲が奇声を上げて真っ赤になってしまう。


「才斗……。流石に男1、女2で来てデートっていうのはどうかと思うわよ」

「え、そうなの? 集団デートみたいなもんかと思ったんだけど」


「デート……。デート……。今日はプレゼントも貰ったし、今日は初デート……。この軍手は土がついたまま真空パックしなきゃ……」


「アホ王子には、『集団』って聞こえてないみたいだけど」


 凛奈があごでしゃくってみせた先にいる玲は、ポ~~ッと顔を赤らめてしまって、ブツブツと独り言をつぶやいている。


 凛奈がアホ王子と呼んでも気にも止めていない。


 そして、軍手をプレゼントにカウントするなよ。


「そう言えば、勝負には向いてないから飛ばしたアスレチックのエリアもあったわね」


「オーケー、じゃあまずは凛奈たちも遊んでないエリアに行こう」

「ほら、呆けてないで行くわよアホ王子」


「ふへへ……デート……才斗とデート……」


 まだ頭が夢の国に行っている玲の腕を引っ張りながら、俺たちはまだ遊んでいないアスレチックエリアへ向かった。




◇◇◇◆◇◇◇




「わぁ! こっちは池を使ったフィールドなんだ」


 玲と凛奈のアスレチック勝負には使わなかったエリアは、池を利用した水面フィールドだった。


 タライに乗ってロープをひっぱり水面を進む、椀に乗った一寸法師みたいなアスレチックや、飛び石で池を横断するエリアなど、アクションゲームのステージみたいで楽しそうだ。


「あの、タライに乗って進むアスレチック楽しそう。才斗、向こう側でボクのタライを引っ張って」


「よしきた」


 ようやく現実世界に戻ってきた玲がお願いしてきたので、俺は向こう岸へ向かう。


 ここは、日ごろの筋トレの成果を発揮するチャンスである。


「わ~! 早い早い!」


 ロープをぐいぐい引っ張ると、玲を乗せたタライがグイグイとこちらに引き寄せられていく。


「楽しかった~」


 こちらの岸に辿り着いた玲が、子供のような笑顔でタライから立ち上がろうとする。


「キャッ!」

「おっと。大丈夫か玲?」


 タライから起き上がる時にバランスを崩してよろけた玲の手を慌ててつかんで、岸に引き上げる。


「あ、ありがと才斗」

「どういたしまして。危うく池に落ちて濡れネズミになるとこだったな」


「うん……。って、手ぇ!? ボクたち手つないで!?」


「ん? お、おう。咄嗟の事だから握っちゃった。悪い」


 岸に引き上げ終わった所で、玲の手を慌てて離す。


「ああ……、男の人の手って大きい……。これがボクの初めて……」


「いや、手を握ったって言っても軍手ごしじゃん」


 池に落ちそうな玲を助けるためとは言え、断りもなく女の子の手を握ったことは俺に落ち度があるが、それにしたって玲のリアクションは過大である。


「ボク、この軍手もう一生洗わないでコレクションにする」

「いや、泥だらけだからちゃんと洗え」


 っていうか軍手は消耗品なんだから、汚れたら捨てろよ。


「じゃ、じゃあ……。次は、直接ボクの手を握ってくれる?」

「え?」


 軍手が宝物な玲の事を微笑ましく笑っていたら、急に真っすぐな目で俺の方を見つめてくる。


「いや、既に登校の時とかに腕を組んできたりしてるじゃん」

「そ、それは、腕を組んだ方が肌と肌の接触はないから! 手を握るのは女の子にとっては特別なんだから!」


 そういうもんなのか?


 けど、玲に特別な事だと言われたら、こちらとしても余計に意識を……。



「ん……」



 逡巡している俺をよそに、玲が宝物の軍手を外して手をこちらに差し出してくる。


「ねぇねぇ兄ちゃん。次、俺やって~」

「私も私も~」

「なになに~、どうしてみんな集まってるの~?」

「この兄ちゃん、タライをすげぇ早く引っ張ってくれるんだよ」

「へぇ~」


 玲とのやり取りで気づかなかったが、いつの間にかキラキラした目をしたちびっ子達に取り囲まれていた。



「は~い! お兄ちゃんに引っ張ってもらいたい子はこっちの岸に並ぶ~! 順番よ~」


「「「「は~~~い!!」」」」


 まるで先生のようなよく通る号令が響くと、ちびっ子達は我先にと向こう岸へ向かって駆け出して行った。


「って、おい凛奈!?」


 俺は勝手に号令を出した、向こう岸に居る凛奈へ抗議の声を上げる。


 え、これ。

 否応なく、俺がロープの引っ張り役をやらなきゃいけない感じ?


 行列が人を呼び、どんどんチビッ子たちの列が長くなっていく。


「日頃の筋トレの成果を見せる時でしょ才斗」


「たはは……こりゃ仕方ないな」

「凛奈ちゃんめ……ボクの邪魔しやがって」


 頬を膨らませ恨めしそうに向こう岸にいる凛奈を睨む玲。


 ただ、俺は正直助かったなと、心の中で凛奈に感謝した。


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― 新着の感想 ―
臨むところよ、は望む、ですね。 邪魔はしてるけど、凛奈さん、自分はたらいに乗って引き寄せてもらったわけでなし、やっぱり負けている感ガガガ
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