第27話 2人とも小学生か何か?
「という訳で、週末に私とヘタレ王子は勝負をすることになりました」
「どういう訳?」
都会観光を終えて、英司たち地元の友達を見送った翌朝。
例によって、朝から俺の家に迎えに来た玲と凛奈に挟まれながら登校となっている訳だが、挨拶もそこそこに冒頭の勝負宣言が玲の口から飛び出した。
「詳細は省くけど、ボクと凛奈ちゃん、どちらが魅力的な女性か決めなくちゃいけないんだよ才斗。これは女のプライドをかけた戦いなんだ。という訳で才斗。週末にアスレチックフィールドに行こうね」
「という訳でじゃねぇよ。一から十まで分かんねぇよ」
「大丈夫。必ず勝つからね。才斗、見てて」
いや、勝つからねじゃなくて。
女のプライドをかけた勝負?
で、なんでアスレチック?
一つも話が見えない。
「昨日、才斗に放っておかれた私とヘタレ王子がケンカになって、白黒つけようって事になってね。アスレチック勝負になったのよ」
「何それ、2人とも小学生か何か?」
アスレチックって、要は公園にある遊具みたいなもんだろ?
それで勝負って、どっちがジャングルジムのテッペンで手を付かずに何秒間立てたとか、ブランコでどっちが遠くまで飛べたかとか、そんな感じか?
あ、良い子は今言った行為のマネするなよ。
「甘いわね才斗。他の球技などの勝負じゃ、経験の有無で公平とは言えない。その点、アスレチック勝負なら、総合的な身体能力を測ることができるの。優秀な私と、腐っても叡桜女子の中学受験を突破したヘタレ王子で長考の末に至った結論よ」
「解説ありがとよ凛奈。っていうか何で凛奈までノリノリなんだよ」
「私は売られたケンカは買う主義だから。という訳で、見届け人として才斗も来てちょうだい」
「はいはい」
まぁ、2人きりでデートとか言われて修羅場になるよりはマシかと、俺は二つ返事で週末に遊ぶことを了承した。
◇◇◇◆◇◇◇
「都会でも、ちょっと郊外に出ればこんなアスレチック施設があるんだな」
快晴の土曜日。
長袖Tシャツにレギンスとハーフパンツという運動しやすい格好で新緑の木々の間から、青空を拝む。
ここはフィールドアスレチックの施設で、森の中に木やロープで作られたアスレチックがいくつもある。
「お待たせ才斗」
「ゴメンね。女子更衣室が混んでて」
そうこうしている間に、女性陣が着替え終わった。
「玲は、さすがにこの間のスポーツジムみたいな恰好じゃなくて、その……ガチの格好なんだな」
今日の玲は、前回ジムの時に着ていたヘソ出しタンクトップや、ピチピチヨガパンツではなく、俺と同じように上はTシャツで下はレギンスにランニングスカートでジョガースニーカーというスポーティーな出で立ちだ。
「当たり前でしょ。これは凛奈ちゃんとのガチの勝負なんだから。あんなエッチな格好じゃ話にならないよ」
そう言って、頭に被ったキャップから垣間見える玲の眼光は、完全に試合直前のアスリートのそれだった。
そういや玲は、フィギュアスケートをやってたって言ってたから、勝負ごとには熱くなる性分なのか?
っていうか、やっぱりあの格好はわざとかよ!
「才斗、今あの時の格好想像してたでしょ」
「んな!?」
突然、玲に心の内を読まれてうろたえる俺。
「神聖な筋トレ時には邪な気持ちなんて無いって言ってたけど、やっぱりボクを見て内心はドキドキしてたんだね」
「い、いや……それは……」
ニンマリする玲に、たしかに当時のヘソ出しルックの玲を頭の中で思い出していた俺はタジタジである。
「じゃあ、また才斗の前で今度あの格好してあげるね」
「一体どんな格好でヘタレ王子とトレーニングしてたんだか……」
嬉しそうな玲の横で、凛奈が横目でジトッとした目線を俺に送ってくる。
そんな目で見るな凛奈。
「あ、そう言えばアスレチックでは、縄を掴んだ際に手をケガしやすいから軍手があった方が良いってスタッフの人が言ってたから、軍手買っといたぞ。ほい」
とんだ流れ弾を回避するために、俺は露骨に話題を変えるため、着替えを待っている間に買っておいた軍手を2人に渡す。
「ありがとう才斗! プレゼントなんて嬉しいな~♪」
「お、おう……」
玲の奴、喜びすぎじゃない?
渡したのは何の変哲もない、1組200円の軍手だぞ。
「はい、才斗お金」
「いいよ凛奈。軍手代くらい」
「お弁当で節約してるんだから、こういう所で見栄張らないの。ほら」
「お、おう……」
固辞する前に、凛奈に軍手代を手渡されてしまった。
何だか、凛奈と玲で対照的だな。
「う……。ボ、ボクも軍手代払った方が……。でも……」
胸の中に大事に抱え込んだ軍手と、俺の顔をアセアセと交互に見やり、何やら葛藤しだす玲。
「どうしたの玲?」
「凛奈ちゃんがお金払ってるのに、ボクだけ払わないのは……。でも、才斗が初めてくれたプレゼントが……」
「じゃあ、アスレチックで遊んだ後のジュースは玲におごってもらおうかな」
「ホント!? じゃ、じゃあ軍手はこのまま貰うね」
「うん」
軍手もらって満面の笑顔なんて、王子様っていうか女子高生としてどうなんだ?
とも思ったが、まぁ本人が嬉しそうにしてるからいいか。
「フフッ。才斗にプレゼントしてもらった軍手があれば百人力だ。悪いけど、これでボクの勝利は確定したよ凛奈ちゃん」
軍手を手にはめながらキメ顔で、勝利宣言する玲。
王子様って、軍手つける時もカッコいいんだな~。
「軍手がプレゼントでいいのあんた? まぁ、何だろうが私は負けないけどね」
呆れたような凛奈の突っ込みには、俺も正直同意である。
「じゃあ、準備運動も済んだしそろそろ始めるよ。よ~い……スタート!」
こうして、玲と凛奈の勝負の火ぶたは切って落とされた。
4月から異動でバタバタだ~。
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