第26話 ヘタレ独占欲つよつよ王子様
【玲_視点】
「お邪魔しま~す。へぇ~、眺めはいいわね。流石タワマン。平屋でだだっ広い我が家の邸宅とは大違い」
「さりげなくマウント取ってくるんだね凛奈ちゃんは」
ボクは、ため息をついて学生カバンをソファに置く。
「お母さんが星名カノンさんなんだっけ? 大女優さんだから、こんな高級マンションに住めるのね」
「お世辞はいいよ」
ボク以上にお嬢様な凛奈ちゃんが言うと嫌味でしかない。
「あ、そう? じゃあ、お客様なんだから何か出しなさいよ。お茶とかお菓子とか」
ボクは再度、この厚かましい押しかけ強盗に辟易して、深くため息をつきながらお茶の用意をする。
今は放課後。
お母さんのいない自宅マンションの中に、半ば強引についてきた凛奈ちゃんが上がり込んで、勝手な事を言っているという状況だ。
なんて神経が図太い女なんだろう。
よく才斗はこんな子と友達やってるな。
「我がまま御嬢様め」
「どっちがよ。ヘタレ独占欲つよつよ王子様」
「悪口が増えてる! っていうか、なんで凛奈ちゃんがボクの家に来るのさ」
強引について来やがって。
ファーストコンタクトで泣かされたトラウマがあるので、ボクは凛奈ちゃんが超苦手なんだよ。
トラウマ度で言ったら、凛奈ちゃんの方が電車で殴ってきた男を軽く凌駕する。
「仕方ないでしょ。本当は才斗の家に行くつもりだったけど、放課後は中学の友達と遊ぶって事になっちゃったから」
「それ、ボクの家に来てる理由になってないでしょ。くそ……、才斗も才斗だよ。ボクの事を放っておいて、地元の友達と遊びに行っちゃうなんて」
爪を噛みながら、今朝のことを思い出す。
結局、学校が終わったら才斗が都会観光に付き合うという事になり、放課後に一緒に遊ぶというボクとの約束は反故にされた。
「ねぇ。ヘタレ王子」
「だから、その呼び名やめてってば」
「アンタ、それ本気で言ってる? そんなんだと本当に才斗の心は離れるわよ」
「え?」
才斗がいないからなのか、ソファの上でおじさんみたいに寝そべりながら放った凛奈ちゃんからのショッキングな言葉に、ボクはつい反応してしまう。
「久しぶりに自分を訪ねてきた友人との語らいを優先するのは当然でしょ」
「随分、物分かりが良いんだね凛奈ちゃんは」
「ヘタレ王子が幼稚なだけでしょ。すぐ嫉妬するし」
「だって……。自分の知らない人と、才斗が仲良くしている様子を見ると胸の奥がザワザワするんだもん」
「それは……。まぁ、解らない訳じゃないけど」
「ほら、そうでしょ? 才斗の友達の凛奈ちゃんだって当然、才斗の地元の友達や、友人の妹っていう立場を悪用する泥棒ネコの事が気になるでしょ?」
「いや、英司君の妹からしたら、私たちの方が後に才斗と知り合ってるんだから、私たちこそ泥棒ネコでしょ」
「随分と冷静だね凛奈ちゃんは。才斗の事を真剣に愛してないの?」
「よ……よく、そんな恥ずかしいセリフを真顔で言えたもんね」
何故か赤面する凛奈ちゃん。
「何がおかしいの? ボクは才斗が好きだよ。電車で助けてくれたあの時から、ボクにとっての王子様なんだから」
「あははっ! 王子様ね~。才斗のガラじゃないわね」
「笑わないでよ! 電車でボクをかばってくれた才斗は、最高に格好良かったんだから!」
あの時のことは今でも鮮明に憶えている。
お母さんや佐々木さん達は、あの時のことはあまり思い出さない方がいいと言っているけど、正直、殴ってきた奴の顔や殴られた痛みも恐怖もほとんど覚えてない。
私の脳に強く焼き付いたのは、たった1人、私の前に立ちはだかってくれた王子様の横顔と広い背中だ。
「ヘタレ王子様ちょろ~。やっぱ女子高なんて行かなくて正解だったかも。男に免疫ないから才斗なんかに引っかかっちゃって」
「うるさいよ。凛奈ちゃんこそ、そんな風に才斗を悪く言うんだ。好きなくせに」
「な!? わ、私はアンタみたいに別に才斗に対して発情したりしてないわよ!」
「発情なんて言ってないでしょ! もう、女の子なんだからもっと言葉を慎んでよ」
お嬢様っぽい見た目のくせに、粗雑なんだから。
「私の方は、そう……友情よ。好きとかじゃない。才斗は私が初めて出来た対等な関係が築けてる友達だから」
「……それ本当?」
私は疑いの目を凛奈ちゃんに向ける。
今朝だって、愛梨ちゃんの存在についてボクと同じように嫉妬してたくせに。
「ええ。だから、アンタの事がちょっと羨ましいわ。そうやって、何のしがらみもなく、自分の気持ちを素直に伝えられるんだから」
「しがらみ?」
遠い目をして寂しそうに凛奈ちゃんが、ふと儚げに笑った。
「って、ヘタレ王子のあんたに言ってもしょうがないか」
「口が悪いのが無ければ、ちゃんとお嬢様に見えるのにな~」
「それ、才斗にも言われた」
「なにそれ、マウント?」
「いや、アンタと私じゃ残念だけど勝負になってないでしょ」
「言ったな~!」
やっぱり、凛奈ちゃんとは友達になれそうもない。
ボクは、目の前にいて悠々とティーカップに口をつける恋敵に、才斗の素晴らしさを説きながらボクは思った。
絶対に、凛奈ちゃんに才斗を渡さないって。
実は波長が合っている2人。
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