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第25話 地元の友達を見られるのって何か恥ずい

「で、結局こうなる訳か」


 高校の最寄り駅で下車した所で、俺はそうボヤキながら両脇の2人を見やる。


 それぞれの腕に玲と凛奈がぶら下がっての登校となったわけだが、当の2人は意外なことに大人しい。


先ほど、我が家の玄関先で近所迷惑な口喧嘩をしていた勢いはどこへやらで、電車内でも大人しかった。


 2人ともボーッとして、心ここにあらずといった感じだ。

 玄関先で2人をしかってから、ずっとこんな状態である。


「おーい。起きてんのか? 2人とも」


 最初の内は、俺を間に挟んでケンカされるよりは静かでいいかと思っていたが、こうまで静かだと不気味だ。


「大丈夫……。ちょっと、さっき見た才斗の筋肉が頭の中を駆け回ってるだけだから。でも追い払うのも悪いから、そのまま私の脳内のお庭で力いっぱい走り回らせてるの」


「肌色……大胸筋と三角筋の盛り上がり……。ボクとはちがう男の子の身体……」


 うん、大丈夫じゃなさそうだ。

 さっきから、2人とも筋肉の話しかしていない。


 そんなに、俺の上裸を見たのが衝撃だったのか?


「あ! っていうか、ナチュラルに玲も俺の高校の最寄り駅で降りてるじゃないか!」


 両手に花なので、電車内で当然のように視線を独り占めしていたので、居たたまれなくて逃げるように下車したら、そのまま学校の違う玲までくっついて来てしまっている。


「え? ああ、大丈夫だよ。最初からそのつもりで、才斗の高校の前にハイヤーを配車してもらってるから。これからもそうするね」


「え、それって結構なお金の無駄なんじゃ……」


 ハイヤー代と電車代がダブルでかかってるし。


「無駄じゃないよ。だって、才斗と一緒にいれる大切な時間が少しでも伸びるなら。大丈夫、ハイヤーの配車はボクのお小遣いで賄ってるし」


「高校生のお小遣いの用途としては大分、特殊だな~」


 そういや玲は、こうと決めたら曲げない頑固な王子様だった。


「まぁ、お邪魔虫はいるけどね」

「あら、鏡に向かって話しかけてるのかしらヘタレ王子様」


 ようやく俺の上裸ショックから立ち直ってきたのか、玲と凛奈、俺を挟んでバチバチやりだした。


 学校への通学路の途上で目立つから、ケンカは止めてほしいんだけど……。


「凛奈ちゃんは学校で才斗の隣の席なんでしょ? いくらでも才斗と触れ合えるのに、学校が違うボクとの通学時間すら邪魔するの? 凛奈ちゃんは強欲の化身だね」


「あら、友達と一緒に登校する事の何がいけないの?」


「いや、友達なら腕を組むのはおかしいと思うんだけど……」


「そ……それは、このヘタレ王子様が才斗にまとわりついているから合わせてるだけよ! 2人は腕を組んでるのに、私だけ隣を歩いていたら、まるで私がヘタレ王子の従者と勘違いされるでしょ!」


 俺の真っ当な指摘に対して、凛奈はやや抽象的な答えを返す。

 玲を泣かした時の切れ味の理詰めはどうした?


 ここは、俺が論理的に凛奈に反論して腕を解かせるかと思ったら、



「だからこのガッコに、まぁまぁニキがおるじゃろが! 出せや!」


「出―せ! 出―せ!!」


 校門付近でいざこざの声が響いていて、俺たちは顔を見合わせて、こっそり街路樹の陰から様子を窺う。


 校門前には7、8人の私服姿の男女が集まってきていた。


 校門の周りには、学校内に入るに入れず不安そうな顔で見つめる、登校中の生徒たちが滞留している。


「校内には部外者は入れないよ」


「俺たち、まぁまぁニキとは友達だからぁ!」

「そうそう!」

「ギャハハハッ!」


 うわ、スジの悪そうな輩がいっぱいいる。


「ね、寝屋君。け、警察を呼んで」

「いえ、教頭。校内に不法侵入したわけではないですし、大声を上げてるだけでは……」


 背中の後ろに隠れた教頭から指示があるが、冷静に却下する剛史兄ぃ。

 校門前には、剛史兄ぃが教師としての責務を果たすために立ちはだかっている。


「頼んます先生。俺たちはただ、彼に会いたいだけなんで」


剛史兄ぃが対峙しているのは、集団の中でもひと際デカい男だ。

 格好は、他の奴らが私服の中、何故か一人だけ学ランの長ランで……。


って……、ん?


「ど、どうしよう。電車で殴ってきた奴らの仲間かな……」


「それとも、動画から特定された情報から押しかけて来たミーハー野次馬か……。ここは離れた方が良さそうね。特に才斗とヘタレ王子は」


「こんな時にもヘタレ王子って言わないでよ凛奈ちゃん。でも、そうだね……。才斗、ここはボクと一緒に学校をサボって……って、え?」


「さ、才斗!? 今はダメだって!」


 心配する2人の静止を意に介さず、俺はズンズンと真っすぐに、校門の前で剛史兄ぃと対峙している男の元へ向かい。



「何を、人の高校の前で騒いでんだアホ」



 パシンッ! と俺にはたかれた長ラン男の頭から、いい音が鳴る。


 校門前には、騒ぐ集団と入るには入れない、うちの高校の生徒と結構な人数が居るはずだが、一瞬の静寂が場を支配する。


「むっ!? 何をす……って、おお! 才斗! 久しぶりだな!」

「バンバン背中叩くな、いてぇよ英司(えいじ)


 俺が顔をしかめるのとは裏腹に、長ランを着た荒城(あらき)英司(えいじ)は上機嫌だ。


 相変わらず色んな意味で暑苦しい奴だ。


「才斗。この人らはお前の知り合いか?」

「剛史兄ぃ……じゃない、寝屋先生。はい、誠に遺憾ながら、こいつらは、俺の中学時代の同級生です」


 後ろ姿だし、高校に入ってから髪を染めてる奴もいたから最初は分らなかったが、英司の特徴的な風体で直ぐに中学時代の同級生達だと気づいたのだ。


 令和のこの時代に、長ラン学ランの昭和番長スタイルの奴なんて、世界でこいつくらいだし。


「九条君、久しぶり~」

「写真撮らせて~。まぁまぁニキの事、高校の友達に自慢するから~」


 俺に気づいた他の奴らがワラワラと集まってくる。


「いや、俺はこれから学校だから……。っていうか、お前ら、学校はどうした!? 今日は平日だぞ」


「今日は、県民の日だからガッコは休みだもん~」

「そ~そ~。何しようかってなった時に、じゃあ皆で九条君の所に行こうってなって始発で遊びに来たんだ」


 口々に反論して来る同級生たち。


 ああ、そういや今日は地元の県民の日で県立の学校は休みの日だった。

 その日だけは、ネズミの夢の国はうちの地元県の奴らでごった返すんだよな。


「才斗……」

「大丈夫なの?」


 後から追いついてきた玲と凛奈が、心配そうに声を掛けてくる。


「ああ、玲、凛奈すまんな。こいつらは」

「隙ありだぞ才斗!」


「ぐっ!」


 俺が玲と凛奈に心配ないと話しかけている、まさにその時に英司がタックルをぶち込んできた。


「きゃっ!」

「さ、才斗!?」


ドガッ! と身体がぶつかり合う音が響き、背中の後ろに庇っている形になっている玲と凛奈が悲鳴を上げる。


 そりゃ、いきなり長ランの大男がこちらに向かって体当たりして来たら驚くよな。


「ふん……反応が前より遅い。都会に出てなまってるんじゃないのか?」


「そりゃ、こっちにはいきなりタックルしてくる長ランの番長なんて珍妙な生き物はいないから、な!」


 そう言って、俺は大地をつかむ下半身からのパワーを上半身へ伝え、英司の身体を押し出す。


 全力で押したが、英司の方は数歩分後ろへ下がっただけだった。

 こいつ、中学卒業時よりまた身体デカくなったな。


「いきなり御挨拶すぎんだろ」

「これが俺たちの日常だったろ。常に肉体同士ぶつかり合うことこそが、親友としてのコミュニケーションだ」


 乱れた制服を直しながら文句を言うが、英司はどこ吹く風と言った様子だ。


「誰が親友だ。学級委員としてお前に手を焼いてただけだ」

「ふっ……、懐かしいな。お前とぶつかり合い、お互いの絆を確かめ合った」


「色々と誤解されるから止めてくれって言ってんの!」


 う~む……。

英司の奴とは、相変わらず会話が成立しない。


「しかし、先ほどの押し出しはパワーが上がっていた。鍛錬は怠っていないのだな才斗よ。俺は嬉しいぞ」

「ああ、そもそも英司を物理的に止めるために身体を鍛えだしたのが、俺が筋トレにハマったきっかけだったからな。筋トレという素晴らしい趣味と出会えたきっかけになった事だけは、お前に感謝しといてやるよ」


 祖母ちゃんの家に住むことになり、転校した先の中学校は昭和ヤンキーはびこる魔窟だった。


 荒れた校内で目立たずやり過ごそうと思ったのだが、なぜか転校早々に学級委員に推薦されて断れず、おかげで毎日のようにこいつらヤンキー組の面倒を見る事になった。


 最初の頃はマジで怖かったので、身体を鍛えて何とか発言力を持たせたのだ。


 筋肉は俺に自信を与え、声なき声で励ましてくれる俺の戦友なのだ。


「ふー-っ! ふしゅーーっ!! 学級委員×番長ものとか、才斗殿はやはりこっちの才覚が……。うお、鼻血が」


「はい、中條さんティッシュ」


 いつのまにか近くにいて、一人で興奮して鼻血を噴いている中條さんには目線を合わせずに、横からポケットティッシュを渡してあげる。


「わぁ~! この子が噂の動画の子か!」

「王子様じゃなくて実は女の子だった話って本当だったんだ」

「隣の子もめっちゃ可愛い。レベル高ぇ~」

「可愛いぃぃ! やっぱ、都会の女の子は可愛いんだな~」

「写真撮っていい?」


「ええと……」

「その……」


 いつのまにか、普段見ない田舎ヤンキー共に囲まれて困惑している玲と凛奈。


 そうだよな。

 2人ともお嬢様なんだから、こんな田舎の時代遅れなヤンキーと接したことなんてないよな。


「お前ら見た目ガラ悪いんだから、あんまり近づくな」


2人をかばい、シッシッ! とまとわりついている奴らを追い払う。


 2人とも不安だったせいか、慌てて俺の背中に半身を隠す。


「すまんな、俺の地元の奴らが。見た目はこんなだけど、いきなり殴ってくるヤベェ奴らじゃないから」


「ホント?」


 まだ心細いからなのか、玲は俺の制服の上着の裾を、迷子が不安な子供のようにつまんでいる。


 特に玲は、この手の輩に絡まれて殴られた訳だから、とりわけ不安なのだろう。


「ね~、写真撮ってよ」

「まぁまぁまぁって言ってる動画撮らせて~」

「私らと一緒に撮ろう。王子様達も一緒に」


「だから、俺はこれから学校だって言ってんだろ!」


 どいつもこいつも、人の話を聞かないな……。


 流石に俺だって、目の前に教師の剛史兄ぃや教頭がいる目の前で、きびすを返して堂々と学校をサボる勇気なんてねぇよ。


「撮ってくれないなら、愛梨(ラブリ)ちゃんに言いつけるぞ!」

「そうだ、そうだ! 新世代の番長に言いつけるぞ!」


「なんで、そこで愛梨の名前が出てくるんだよ。って、アイツいないな」

「妹の愛梨も誘ったんだがな。今年は受験生だから勉強すると断ってきた」


 愛梨は英司の1歳違いの妹で、よく一緒にくっついて来ていたのに今日はこの場に居ない。


「ああ、そうなのか。番長だけど、そういう所は真面目だよな愛梨は」


 ラブリなんていうキラキラネームで女番長やってたり、かと思ったら勉強はちゃんとしたり、よくわからん奴だ。


「ねぇ……才斗。愛梨って誰? 名前からして女の子だよね……」


「へ?」


 さっきまで小動物のように震え隠れていた玲から、またしても闇王子の暗黒オーラが出ている。


 その迫力に、思わず周りの地元のヤンキーたちも一歩引く。


「愛梨は、この英司の妹だよ。兄の英司が大好きなブラコンでな。兄の英司の後を継いで地元中学の番長になったみたいで……」


「ふ~ん……。地元に残してきた年下の女の子ね」

「何だよ凛奈まで」


 まるで、地元に女を捨ててきたみたいな言い方やめろや。


 ただでさえ、地元のパッと見は輩にしか見えない奴らと仲良さそうにしているのを高校の人らに見られて、俺の好感度が更に下がってるのに。


 ここは抗議しないと。


「だから違うっての。英司の妹の愛梨は、一番反抗的で手を焼かされた子でな。兄貴の英司が、優等生で学級委員の俺と仲良くしてるのが気に食わなくて、ひたすら俺に反抗してたんだ」


「……反抗って?」


「俺と英司が一緒に居ると間に割り込んできたり、中学の弁当の時間に学年違うのに教室に押しかけてきたり、英司に勉強教えてると絶対に一緒のテーブルに来たりとか。とにかく、俺と兄貴の英司が一緒に居るとくっついて来るんだよ」


「…………」

「…………」


「な? だから愛梨は玲と凛奈が想像するような関係じゃないよ」


 俺の説明に納得したのか、玲と凛奈が黙り込む。

 おお、沈黙という事は俺の説明に納得が行ったのか。


「ここに愛梨が居なくて良かった。我が妹ながら不憫で仕方ない……」


 これで一安心と思ったら、今度は英司が苦虫を嚙みつぶしたような微妙な表情を俺に向ける。


「ラブリ番長、マジ可哀想」

「九条君は一度、馬に蹴られた方がいいと思うの」


 周りの中学時代の同級生達も、何故か口々に俺を糾弾する。



「だから、なんで、皆俺の好感度を下げに来るんだよ!」


 こうしてまた、地元に後輩女子をやり捨ててきたという、根も葉もない俺の噂が校内を駆け巡ることになるのであった。


投稿直前に「玲和」の誤字を見つけて戦慄した。

校正でも見逃しちゃうパターンの誤字だから気を付けよう。


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― 新着の感想 ―
あれ?県民の日って他の県にもあるのかな?
やっぱ、筋肉は裏切らないのよねー、とか筋肉ないけど言ってみたりする。 まだ女増えるかあ。誰に対しても鈍感の大罪を犯しているやつw 折角こちらに出てこようと頑張って勉強しているのに不憫なことよね。
雄と雄の熱い友情 明かされる筋肉事情 才斗くんある意味涅槃寂静
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