第23話 精神への超重力負荷訓練のお時間ですわ……
【星名玲_視点】
「玲様! 好きです! 私と付き合ってください!」
昼休み。
学校が誇る庭園にて、私は不安と期待の入り混じった女の子たちと対峙し、想いを受け止める。
「ゴメンね~。君とは付き合えないんだ」
「うわ~~ん!」
「はい、次! 告白にボヤボヤウジウジしている子は列の最後尾に回る! 後がつかえてるんですから!」
隣で、『親衛隊』の腕章をつけた佐々木さんが列を整理する。
「好きです玲様! 私の妹になってくださいまし!」
「ゴメンね~、ボク一人っ子だし、お母さんがお姉ちゃんみたいなものだから間に合ってます」
告白というのは軽いものではない。
一世一代の物なのだから、こちらとて断るにしてもきちんとしたい。
だからこそ、ボクは自分に嘘はつかない。
「うわ~ん!! 私より長身でボクっ子の妹が欲しかったのに~!」
「頑張ったよ、告白出来てえらいえらい」
「玉砕した友人慰め対応は、屋上のスペースが手狭なので他所でやってください。はい、次!」
今日はあと何人いるんだっけ……。
っと、誠実誠実。
ちゃんと1人1人の告白に真っすぐ向き合わなきゃ失礼だ。
「きっと、才斗ならそうするはずだよね」
想い人のことを思い呟きながら、私はその後も真剣勝負をしに来た女の子と対峙し続けた。
「お疲れさまでした玲様」
「佐々木さん達もお疲れ様。ありがとね、告白の列をさばいてくれて」
告白の列がすべて捌けた後に、親衛隊の子たちが用意してくれたお弁当を食べる。
「いつもの事ですから」
「けど、最近になって何で告白の数が増えたんだろ? ボク今は、前みたいに男装せずにスカート制服姿なのに」
「男装麗人はちょっと……と躊躇していた層が、逆にスカート姿の玲様の以前とのギャップに脳を焼かれてしまったせいかと愚考いたします」
「なるほど」
いや、なるほどって言ってるけど、全然解らないんだけどね。
脳を焼かれるって何?
「つまり、玲様は乙女の純情をより弄ぶ存在になったという訳です」
「てっきり、この格好になったら王子様は引退かと思ってたんだけどな~」
そう言って、ボクは制服のスカートの裾を摘まんで見せ、自虐的に笑った。
「玲様……。流石に、スカート姿で胡坐はよろしくないかと進言いたしますわ」
「ああ、ゴメンね。ついズボン制服だった時の名残で。でも、スカートの下に黒タイツ履いてるから、別に見えちゃっても大丈夫じゃ」
「大丈夫じゃありませんわ! 玲様の黒タイツ姿ですら、まだ人類には早いんですのよ! もっと自覚を持ってください!」
「う、うん……」
佐々木さんが凄い、ボクの事を全面肯定してくる。
「けど、親衛隊でも何人か見なくなっちゃった子もいるね。やっぱり、ボクの姿に幻滅しちゃった子もいるんだな……」
「玲様……。申し訳ありません、親衛隊隊長として不甲斐なくて……」
「いや、佐々木さんのせいじゃなくて全部ボクのせいだよ。不甲斐ないのはボクの方さ。電車の中では結局やられちゃって、格好悪い所も見せちゃったし」
「そんな! 叡桜生徒に下卑た目線を送ってきていた、同じ人間であることですら不快である、あの腐れ外道を目で制して頂いたせいで、玲様がケガを負うことになったというのに! それを事情も知らない外野が!」
「佐々木さん、言葉が荒くなってるよ。可愛いんだから、そんな怖い声出さないの」
ボクの事で我がことのように怒ってくれるのはありがたいんだけど、鬼の形相になるのはいただけない。
佐々木さんは本物のお嬢様令嬢なんだから、こんな事で評判を下げて欲しくない。
「し、失礼しました玲様」
「でも、結局はボクだけじゃ事態を解決できなかった。才斗が割り込んでくれなかったら、本当にどうなっていた事か」
「まぁ、それはそうなんですが……」
苦虫を噛み潰したような顔で押し黙る佐々木さんと親衛隊の子たち。
この子たちは私と才斗が一緒に遊んでいるのを心の内では面白く思っていないのは明らかだが、ボクが以前に本気で怒った事から表立っては才斗の事には触れてこない
「それよりも玲様。マフィンが焼けたので、食後のデザートにいかがですか?」
批判めいた事も言えない以上、彼女たちにとっては面白くない話題なわけなので、こうして才斗の話になると、こんな感じであからさまに話題を転換しにかかってくる。
でも、ボクはわがままな王子様だから、そんな事関係ないね。
「それでね。才斗とこの間、一緒に遊んだら、いっぱい苛められてさ」
「ふぁ!? いじめ!?」
「才斗ったら、ああ見えて容赦なくボクの事をしごくんだ。ボクが『もう止めて! もう無理!』って言っても、『あと1回、もう1回』って際限がなくてさ。最終的には、足腰がガクガクで立たなくなっちゃって」
スクワットであんなに追い込まれるとは思わなかった。
才斗は、筋トレに関してはガチだというのが、この間嫌というほど思い知らされた。
いや、やり遂げた後の充実感は凄かったんだけど。
「苛め!? しご! 足ガク!?」
「玲様、もうそんな遠くまで……」
「あ……あ……」
「ぐぎぎ……」
「目の前がチカチカする……大きな星がついたり消えたり……あれ? でもおかしいですわ……星はもっとパァーッと輝いて……」
「皆、気を確かに! はい、酸素ボンベ! そちらには気付け薬を!」
最近、才斗の事を話すと何故か、親衛隊の子たちが大盛り上がりする。
まるで野戦病院みたいな様相の中、佐々木さんが歴戦の軍医さながらに立ち回る。
「でね。才斗ったら、ボクのジムウェアでのヘソ出しルックや、ヨガパンツで露わになったボディラインに釘付けでさ~」
こういう女同士で恋バナをする時に、つい話を盛っちゃうのはご愛嬌だ。
「ああ……。今日も玲様の惚気話を聞かないとならないのですね……」
「精神への超重力負荷訓練のお時間ですわ……」
「けど、あの男の話をしている玲様は、本当に嬉しそうですわね……」
「尊いですわ……。でも、あの男の話を聞いている時は、何らかの状態異常の継続ダメージが入りますわ」
「この笑顔を見るために苦行に耐えねば……」
「私は最近、太陽の光を浴びて灰になりながら、美女の首筋から血を吸うヴァンパイアになった夢を頻繁に見ますの……」
「奇遇ですわね。私も、そうですわ」
「きっと、確実に生命の何かが削られていると、脳から警告が出ているのですわ……。でも、この眩しい玲様の笑顔は悪魔に魂を売っても見ていたい……」
何か親衛隊の子たちがブツブツと言っている気がするけど、気にしない気にしない。
その後、昼休みが終わる直前まで、ボクは才斗の事を盛大にのろけた。
佐々木さん達は、昼休みの後なのにげっそりして、何故かボクだけ元気いっぱいだった。
ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。
励みになっております。