第21話 男女で友情って成立すると思う?
「西野殿が今日は休みでござるね」
「ああ。空青いな~」
「それで、正妻の居ぬ間に、私という他の女と昼休みに逢引きですか」
「言い方! あと、正妻ってなんだよ」
寝っ転がっていた芝生の上から起き上がって、俺は隣で同じように寝そべっている、中條さんに抗議する。
「少なくとも校内では、すでに西野殿が九条殿の正妻ですぞ」
「なんで、本人達の意志が無視されて婚姻させられてんの!?」
「そりゃ、これ見よがしに車に同乗して登校したり下校したり、お姫様抱っこして校内を練り歩いたら止む無しですぞ」
「うぐ……」
客観的に言われると、我が事ながら擁護ができん。
「そして、最近は王子様とも公然と二股してて、九条殿の評判は男女ともに下げ止まらないでござる」
「だよね……。そこも今日は相談したかったんだよ」
悲しいかな、俺には他に相談できる相手がいない。
凛奈も関わる相談内容だから、まさか本人にする訳にもいかない。
とは言え、他のクラスメイトとの距離は開くばかり。
そんな中、クラスで唯一俺に積極的に話しかけてくれる中條さんに頼るしかない。
まぁ、中條さんは中條さんで、己の欲求を充たすために俺に近づいてきているだけだろうけど。
「しかし、あの王子様がまさか女の子だとは……。ラブコメ的には定番ですが、我々腐の界隈的にはNTR並みの地雷なんですぞ!」
「それはゴメンって」
「男子向け叡智な本に例えれば、可愛いあの子に実は立派なものが生えていたみたいなもんなんですぞ! 最近は、九条×闇王子のカップリングが仲間内でもちきりだったのに、こんなの読者への裏切りでござる!」
「いや、読者ってなんだよ。こっちは執筆なんてしてるつもりはねぇよ」
勝手に人の人生を読み物にして、勝手に傷ついたとか苦情言われても知らんし。
「まぁ、乗りかかった船なんで相談には乗りますぞ。この間の相談の時の吾輩は、鼻血をぶち撒けただけでしたからな」
そういや、玲が男友達と勘違いしているときに、『男の子の玲にドキドキしちゃうのはマズいのだろうか?』 と相談したら、尋常ではない量の鼻血を中條さんが噴き出したので、相談どころではなかったんだよな。
「ありがと中條さん。それで相談なんだけど、男女で友情って成立すると思う?」
「……それは男と女の間にそびえ立つ永遠のテーマですな。正直、現実の恋愛経験値クソ雑魚の吾輩では手に負えないで候」
「いや、そこを何とかアドバイスを……」
「いくら溺れているからと言って、藁の吾輩を掴むのは止めてほしいでござるよ」
俺の懇願に、自称藁の中條さんも渋々といった様子で、芝生の上に再度寝転がる。
「しかし、男女間の友情ですか。まぁ、ずばり両者に相手への性欲がゼロなら成立するんじゃないですかねぇ」
「身もふたもねぇな」
芝生の緑と青い空、白い雲の爽やかさに似つかわしくない生々しい会話が続く
「それが真実でござるからな。現に今、女の吾輩と九条殿の間には男女としての性欲は絶無であります。吾輩は、同性へ惹かれる事に悩み苦しみ葛藤し、最期は堕ちる様を見たかっただけで、男としての九条殿にはこれっぽっちも興味はないでござる」
「何か引っかかる言い方だけど、要は邪な気持ちは無いって言いたいわけね」
俺も、別に中條さんとどうこうなろうとかは考えていない。
これは、さっき中條さんが上げた男女間の友人関係の条件が満たされていると言える。
「左様。しかし、外野はそうは見てくれないでござる。こうして、年頃の男女である九条殿と吾輩が芝生で隣り合って寝っ転がってアオハルをしていると、それだけで『あいつら付き合ってるんだ!』ってなるでござるよ」
「じゃあダメじゃん!」
なんてこったい!
どんどん、俺の学内での立ち位置が悪くなっていく。
あれ? 俺、電車で殴られてる玲を助けたナイスガイだよね?
なのに、なんで学内の評判が下がっていくんだよ!
こういう時って、もうちょっと周りからチヤホヤされたりするもんじゃないの?
「そういう外野からの声は、否応なく本人たちの気持ちも揺れ動かします」
「たしかに、そういうもんなのかな」
『お前、○○ちゃんの事好きなんだろ~』って言われて、変に意識しちゃうとかあるもんな。
って、高校生になっても、精神構造が小学生辺りと大差ないのが悲しい。
「所詮、他人の気持ちなんて本人次第なんですぞ。そこを何とかコントロールできると思うのが、そもそも思い上がりというもの」
「……俺が願っても、望んだ間柄にはならないと?」
「だから、己の信じた正しい道を進むが良いですぞ。電車で人助けをした九条殿には簡単でござろう?」
「自分の信じた……ね」
「左様でござる」
中條さんの言葉に、ふと己の人生を顧みる。
両親から離れることにした、人生における大きな選択を。
そして、電車内でニッカポッカの兄ちゃんに立ち向かったあの時を。
それと比べれば、自分の今の悩みなんて小さく感じて、霧が晴れたような気分だ。
「中條さん。俺、頑張ってみるよ。とりあえず放課後、凛奈の家にお見舞いに行ってくる」
何だか凛奈との関係性が変化してきている気がして、これ以上踏み込むのが怖かったのだが、そうだよな。自分が思う正しい道を進めばいいんだ。
「は~い、いってらっしゃ~い」
やはり、自分の頭の中でグルグル考えているより、他の人に相談すると何が大事な事なのか整理できるな。
面倒くさそうな中條さんを尻目に、俺は放課後の凛奈のお見舞いの品を何にしようか、頭を巡らせるのであった。
先日の名人受賞報告の際には、暖かいお祝いの御言葉ありがとうございました。
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