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第14話 あ、あくまで友達としてね!

「はぁ……疲れた」


 あの後、何とか激オコぷんぷん丸な玲をなだめつつ、泣きじゃくる佐々木さんを他のファンクラブ会員の女生徒に託したりしつつ、叡桜女子高校の正門前まで送り届けるという、針のむしろレベル100みたいな高度なミッションを朝からこなしたせいで、朝なのに既に疲れ切っていた。


 ちなみに、叡桜女子高の駅からの通学路でも玲は腕を離してはくれなかったので、これまた叡桜女子高生徒の注目を独り占めすることになった。


 視線が痛かったよ……。


 だが、ようやく自分の学校の教室というホームに辿り着いた。

しかし、一息つくことすら許されないことを俺は教室に入った一歩目から悟る。



「おはよう才斗。今朝、何をしていたのか説明してくれる?」



 いつも以上にプレッシャーを発する凛奈が、隣の席で待ち構えていたからだ。


「あの……ごめんなさい凛奈」


 今度は佐々木さんではなく、俺が謝罪する番である。


「それは、何に対する謝罪? 私のお迎えをドタキャンしたこと? その後、スマホの電源を切っていた事? それともこの世に生まれてきたこと?」


「全部へのごめんなさいです……」


 ヤバい。

 凛奈の奴、過去最高値のボルテージがたまってる。


 たしかに、俺は今回、凛奈の厚意をかなり雑に断ってしまっているので、お怒りはごもっともだ。


 しかし、玲もそうだったけど、凛奈も美人だから、怒ってるとマジ怖い。


 周りのクラスメイトも、そのピリついた空気に恐れおののき、こちらを固唾を呑んで見守っている。


「へぇ。それで、玲君の家で何をしてたの?」


「玲が今日からまた電車で登校するっていうから、付き添っただけだよ……」

「それならそうと、正直に言えばいいじゃない」


 いや、昨日、あまり玲と深く関わるべきじゃないと言っていた凛奈は、絶対反対しただろ……、とは言えなかった。


反対されて凛奈を説得できる自信が無かったから、不義理をしてしまったのは俺だし。


「で、その疲弊っぷりを見るに、ようやく玲君が女の子だって気づいた感じね」

「え!? 凛奈は気づいてたの!?」


 まだ凛奈には、今朝知った玲君が女の子だという衝撃の事実の事を言ってないのに。


「初めて会った時にあの子、解りやすく私に敵意を向けてきてたからね。よくあるのよ。私にデレデレしてる男の横で、さっきを飛ばしてくる彼女と一緒の類だったわ」

「いや、解ってたなら言ってくれよ!」


「ああいう男みたいな格好してるなら、色々と複雑な事情があるのかもと思ったのよ」

「あ、そういう配慮はしたんだ」


「そんな弱点を突かなくても、あんな打たれ弱いヘタレ王子様なら、正論で叩き潰せると思ったし」

「いや、そこは容赦してやれよ。あの後、泣いてる玲を慰めるの大変だったんだからな」


 泣かせるくらいぶっ叩くなら、ちゃんとアフターケアもしろよ。


「それで才斗。提案があるんだけど」

「な……なんでございましょう?」


 急にニッコリと笑ってこちらに向き直る凛奈に、俺は嫌な予感がしてたじろぐ。


「今日、才斗の家に遊びに行くからよろしくね」

「なんで!?」


 提案って言っておきながら、決定事項みたいに言ってるじゃん。


「あら。友達の家に遊びに行くのに大層な理由なんて必要ないでしょう?」

「いやいや。だって、今まで俺の家に遊びに来た事なんて無かったじゃん。放課後は習い事が忙しいって」


「習い事なんてブッチすればいいのよ」


「じゃ、じゃあ、外で遊ぶか。カラオケとか」


 実は、過去にも凛奈を放課後の遊びに誘ったことは何度かあったのだが、いずれも習い事を理由に断られていた。


 ここは、そこで手打ちを。


「ダメ。才斗の家じゃなきゃ絶対にダメ」

「なんで、そんな頑ななんだよ。ほら、凛奈も知っての通り、俺って一人暮らしだから、その……教育上、良くないだろ!」


「でも、才斗ってば、玲君の家で2人きりで遊んでたんでしょ?」

「う……いや、でもあれは女の子と気づいていなかったからだし」


「そっか……。玲君は良くて、私はダメなんだ。才斗は友達にはっきり優劣をつけるタイプの人なんだね」

「いや、そういう訳では」


 チクチク人の痛いところを突いてくる。

 凛奈の奴、本当に性格が悪い。


「そうよね……。私なんて、所詮は才斗にアゴで使われて車を出すしか能のない女だし。こんな私が、才斗様の友人だなんて自称するのはおこがまし」


「あ~、もう分かったよ!」


 凛奈に弱みを見せている時点で、最初から勝負は決していた。




◇◇◇◆◇◇◇




「へぇ~、ここが才斗の部屋か~」


 放課後。


 凛奈のチクチク攻撃に根負けした俺は、凛奈の家の車に有無を言わさず乗せられて、わが家へ直行する事となった。


 最近は凛奈の家の車で学校へ送り迎えをしてもらっていたが、玄関先でのやり取りしかなかった。


「別に珍しい物もないだろ」


「そうね。思ったよりシンプルね。で、エロ本はどこにあるの? あ、それとも才斗はパソコンで電子管理してる派?」


「そうやって弄ってくるから、凛奈を家に上げるの嫌だったんだよ」


 早速、不躾にベッド下とか覗いてるんじゃねぇよ。


「パッと見は片付いてるけど、掃除は所々甘いわね。これだと病気になりそう。コホンコホンッ」

「指先でツーッとしてホコリを見せつけるイジワル姑かお前は」


 男の一人暮らしなんて、こんなもんだろ。

 足の踏み場もないゴミ屋敷じゃないだけ褒めてほしい。


 っていうか、埃っぽいって文句つけるなら、とっとと帰れ。


「さて。これは掃除し甲斐があるわね」

「え、掃除? って、その荷物、何かと思ったら掃除道具かよ」



 さっき降車際に、運転手さんから何やら大き目な段ボールを受け取っていると思ったら。


「これでも行儀見習いのために他家でメイドをしていた事もあるから、掃除は任せなさい」


 そう言って、制服の上着を脱ぎ、ブラウスを腕まくりした凛奈が、いそいそと持ってきた掃除用具を並べだす。


「いいって、そんな」


「いいからヤラせてよ。私、掃除は結構好きなの。なのに、家では使用人がやっちゃうから欲求不満だったのよね」

「男の家でヤラせてとか、欲求不満とか言うな!」


 なんていうか、無防備すぎる。


 って!


「ちょ! 凛奈! スカート! スカート!」


 早速、フローリングを磨くべく這いつくばる体勢になった凛奈。

 学校帰りの制服なので当然スカートなので、中がモロ見えであった。


「大きな声出さないでよ。近所迷惑でしょ」

「じゃあ、ちゃんとこれ履け!」


 凛奈の方は見ないようにしながら、ジャージのズボンを投げてよこす。


「ありがと。これって、彼シャツみたいね」

「掃除するなら無駄口叩いてないでよせい!」


「はいはい。あ、私の下着どうだった? 勝負下着の派手派手パープルの。あれ、隠さなきゃいけない女の子の大事な所が見えるようになってて」


「そんなドギツイのじゃなかったろ!」

「清純派の白いのだったでしょ?」


 しまった、ハメられた!


「ぐ……汚ねぇぞ凛奈」

「派手な下着はまた今度ね。今日は急だったから」


「相変わらず、お嬢様なのに下ネタが生々しいな……。っていうか、さっきスカートの中を見せてたのはわざとって事かよ」


「そうよ。ちなみに今になって死ぬほど恥ずかしくなってる……」

「俺をからかうために捨て身過ぎだろ!」


 凛奈は首まで真っ赤になっている。

 やっぱ、無理してたのかよ。


「だって……。たまには、こういう風に女の子だって意識させるのも、異性友達には必要だって聞くし」

「なんだそりゃ」


 いそいそとジャージの下を履きながらもじもじする凛奈。


「才斗は私にとって、人生で初めて出来た男友達なんだから。大事にしたいの。だから……、ポッと出のヘタレ王子様なんかに、絶対に貴方を渡さないんだから」


「へ……」

「あ、あくまで友達としてね! あくまで!」


「お、おう」


 珍しく真剣な眼差しの凛奈の目力に気圧されて、思わず頷いてしまう。


「さっ! 掃除しないと。久しぶりのお掃除、テンション上がるな~」



 そう言って、一心不乱にフローリングを磨きだして床を見つめたままだったので、凛奈の表情は窺い知ることはできなかった。


税務申告終わった~。


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― 新着の感想 ―
ナイスパンツ! ぽっと出のヒロインに負けないよう、この調子で頑張っていただきたい
やっぱり、気づいたうえでのマウント合戦だったですね。 こちらも、一生懸命アプローチを開始しましたが… 両方から迫られると、彼の精神が持つのかなあ……
勇気がいるのはわかるけど、 その躊躇いが命取り、出遅れてそのまま逃げ切られる、なんて事にならなきゃいいけど。
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