第36話 少しは謝らせてくれよ……
「……ちょっと着地するのをミスってね。全然平気よ」
凛奈が足首を押さえて笑顔を見せる。
が、それが明らかにやせ我慢なのは、額に浮かべる脂汗から察せられた。
「まさか、最初の居合の時に……」
抜刀した瞬間に何かが当たった感覚があったが、あれは一早く俺の所に駆け付けた凛奈を弾き飛ばした物だったのか……。
そして、凛奈はそのままステージ下に……。
罪悪感というマグマが、心の中を支配していく。
「不用意に近づいた私が悪いから。緊急時だったんだし才斗は悪くないから」
俺が謝る前に、自分が悪かったと言い切る凛奈。
こういう、気風がいい物言いは凛奈のいい所だけど、少しは謝らせてくれよ……。
「これは捻挫だね。結構ひどいかも」
「医者でもないのにヘタレ王子に何が分かんのよ……」
足首を触診した玲に対して凛奈が悪態をつくが、いつもの元気の10分の1くらいしか無く、弱弱しいものだ。
「ボクはフィギュアスケートをやってたんだよ。捻挫なんてしょっちゅうだったから詳しいの。今、立てないでしょ? 凛奈ちゃん」
「これくらい平気よ……。一晩寝れば」
「捻挫は翌日が一番腫れるの」
「でも、そうしたら明日の公演は……」
凛奈が言いかけて、俯く。
ジュリエットには、戦闘シーンのような派手な立ち回りがある訳ではないが、それでもステージの上をいっぱいに身体全体を使って表現しないと、観客には届かない。
ただ、ステージ上に突っ立っているジュリエットなんて……。
「よりによって主役の一人のジュリエットが……」
「今から代役を叡桜女子高側に依頼するか」
「こんな前日の晩にでござるか?」
「……ここは、私が」
「だが、滝瀬君は人前で演劇をするのは苦手だと……」
「でも、このままでは」
──あんなに、玲が凛奈が、生徒会の皆が一丸となって取り組んでたのに、俺がぶち壊しにした……。俺が……。
中條会長たちが対応策について協議しているが、俺の方は頭の中が真っ白になり、ただただ『自分のせいで……』という罪悪感だけが頭の中をループし続けた。
自分の足て立っているはずなのに、まるで目の前の世界がゆっくりとかき回されているような感じで、足がガクつく。
「才斗」
不意に玲から名前を呼ばれて、ビクッ! と身体が震える。
「才斗は、今の状況を申し訳ないと思ってる?」
「あ……当たり前だ。こんな事になって本当に申し訳ないと思ってる。俺が出来る事なら何でもするつもりだ」
後悔先に立たず。
謝って済む問題でもないが、それでも謝らずにはいられない。
そして、謝るだけでは現実の問題は何も解決しない。
「オッケー。じゃあ、愛梨ちゃんに中條さん。2人で凛奈ちゃんを保健室に連れて行って応急処置してもらって病院送りにして来て」
「分かったのじゃ」
「保健室への道先案内人は吾輩に任せるでござるよ」
玲に言われて、愛梨と中條さんが凛奈の両サイドから支える。
「ちょ、ちょっと待ちなさいヘタレ王子。アンタ、その顔は何か企んで」
「まぁまぁまぁ。じゃあよろしくね」
悪い顔をした王子様は、何やら抵抗する凛奈が保健室送りにされるのを笑って見送った。
その横顔は、たしかに悪い王子様の顔だった。
何か、イヤな予感がした……。
2巻発売中で~す。
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