第23話 この格好にはちゃんと深い理由が!
「タイムスケジュールによると、そろそろクラス発表が終わる時間です会長」
「うむ、ありがとう滝瀬君。となると、そろそろ第二陣のお客さんの波が来るな。先ほどは済まなかったな九条君、西野君」
叡桜女子高の文化祭パンフを見ながら、今後の繁忙期を告げる滝瀬副会長。
その言を受けて、中條会長がまずは俺と凛奈に、先ほど材料補充のために屋台を離れていたことを謝ってくる。
「いえいえ、そんな。大丈夫でしたよ」
「親切な叡桜女子の関係者が助けてくれましたから。もうすぐ、また手伝いに来てくれるんじゃないかな~」
「助っ人がいたのかい?」
「アハハ……」
含みのある言い方をする凛奈に苦笑しか出ない俺。
涼音さんとの一悶着はとりあえず中條会長たちには黙っていよう……。
「すまんな。家庭科室で材料カットをしていた生徒会男子メンバーが血涙を流しながら『自分たちも屋台の方に行ぎだい!』と懇願してまとわりついてくるのを引きはがすのに時間を要してな……」
「あいつらは、まだ、反省が足りない」
どうやら、家庭科室でも一悶着があった様子なのは、珍しく毒舌で生徒会男子メンバーを斬って捨てる滝瀬副会長の様子からも明らかだ。
女の人が怒ってるのってほんと怖い。
「お、第二陣のお客さん達が見えてきたぞ。って、ん? あの先頭は」
さて、またあの鉄火場が始まると、ねじり鉢巻きで気合いを入れた俺だったが、向かってくる集団は偉く落ち着いていた。
そして、その先頭には。
「やっほ~才斗」
「おう玲か。いらっしゃい」
「やっと1年生のクラス発表が終わったよ~。いや~肩が凝っちゃった」
そう笑いながら、玲が肩をぶん回している。
「これが屋台の焼きそばか。ここにあるの全部、ボクが買うよ」
「これからまた大行列だから、それは勘弁してくれ」
そういう所で金持ちアピールすんなや。
「え~。じゃあ、親衛隊の子たちの分は、まとめ買いさせて。日頃、お世話になってるから」
「まぁ、それくらいなら仕方ないか」
「「「「きゃああぁぁぁぁあああ‼」」」」
周りを固めている親衛隊の子たちが黄色い歓声を上げる。
1個400円の焼きそばを奢るだけでキャーキャー言われて、いいな……。
「こういうの見ると、ヘタレ王子って本当に王子様なのね」
「そうボクの事を呼ぶのは凛奈ちゃんだけだよ」
苦笑しながら玲が割り箸で焼きそばを食べだす。
「ま、ごゆっくり。どうせ、しばらく才斗と喋りたいんでしょ? 焼きそばの容器詰めは私の方でやっとくから」
「お、おう。ありがと凛奈」
玲を目の前にして、今日はやけに物わかりがいいな凛奈の奴。
槍でも降るのかしら?
「うん、流石は才斗が作ってくれた焼きそばだな~。世界一美味しい」
そんな違和感には気づきもしない玲が無邪気に1個400円の焼きそばに過分な身内びいきの評価の言を述べた。
と、同じく焼きそばを口にしていた親衛隊の人たちの箸が止まる。
「この憧れの屋台の焼きそばは、憎きあの方が作った物……」
「本来なら我々にとっては毒劇物…」
「でも、でも……。玲様がごちそうしてくださった物を残すわけには……」
「毒杯をあおるロミオのように生き残れるかしら……」
「節子……。それ、ジュリエットが飲むなんちゃって毒薬じゃなくてガチのだから、死んでしまいますわ」
「ああ……男性の物を自ら口に入れるしかないだなんて……」
「ゴメンなさい、お父様……お母様……」
親衛隊の方々が何やら葛藤しつつ、焼きそばを口に運んでいる。
ゴメンね、俺が作り手でややこしくしちゃって……。
ちゃんと食品衛生のルールは厳密に守ってるのでバッチィ物ではないと思うけど、えずきながら食べてる子は無理しない方がいいと思う。
「才斗の作ってくれたご飯っておいしいんだよね。才斗の家で食べる朝ごはんはいつも美味しいし」
「ああ。夏休みの時のな」
夏休みのバイト初日の朝に、玲が朝早くに来すぎて、うちで朝ご飯を食べていったんだったな。
その後も味をしめた玲は、ちょくちょく我が家でご飯を食べていたのだ。
だが、これも親衛隊の面々には新たな爆弾だったようである。
「ぐはっ⁉」
「殿方の家で手作り朝食⁉」
「朝チュンですわ……」
「いつも⁉ 複数回⁉」
「これ、少女マンガで読んだやつですわ……モーニングコーヒーをベランダで2人で飲む2人は昨晩……」
「殿方の大き目のワイシャツを肩で羽織る玲様は……グフッ」
「あ、あ、あ……」
そして、またしてもダメージを受ける親衛隊の皆さん。
すいません……。
そんな少女マンガに出てくるようなお洒落な朝食出してないです。
鯖の塩焼きにホウレン草のおひたしです。
「あれ? そういえば佐々木さんの姿が見えないな」
自分の分の焼きそばをあっという間に食べ終えた玲が、焼きそばのプラ容器を片手にキョロキョロと神聖隊の面々を見回す。
「ああ。佐々木さんなら……」
と、ここで、俺は大変な事に気づいた。
屋台の前で、玲と呑気に長話をしている場合じゃないんだった!
「さぁさ、玲。焼きそばを食べ終わったなら、別の出し物を見に行こうな」
「え~、まだ才斗と喋りたい」
玲にこの場を立ち去るように言い聞かせるが、玲はその場を動こうとしない。
「ほら、他のお客さんもたくさんいるしさ。そろそろ玲と親衛隊の皆さんには、場を空けてもらってだな」
「そういう事なら、ボク達も焼きそばの屋台を手伝うよ。一度、大きな鉄板で焼きそばを焼いてみたかったし」
だから、それだとダメなんだって!
ここに玲が居るのがマズいんだって!
こうなったら。
「玲。じゃあ、2人で抜け出して一緒に文化祭を回らないか?」
抵抗する玲の耳元で、俺は囁くように提案した。
「……え? でも、さっき焼きそば屋台が忙しいって……」
「俺は玲と一緒に文化祭を回りたい。ダメか?」
本来は、今まさに繁忙期の焼きそば屋台を離れるわけにはいかない。
だが、これは玲のためなんだ。
きっと、中條会長たちも後で説明すれば分かってくれる。
「才斗ってば強引……。でも、才斗がこんな風に可愛くお願いしてくるなんて珍しいからね。じゃあ、2人で逃げようか。ロミオとジュリエットのように」
モジモジしながらも、玲はこちらの手を取る。
よし、これで。
「ど、どうよ凛奈ちゃん! 叡桜女子高の制服なんて着るのは十数年ぶりだけど、まだまだイケるでしょ?」
(…………終わった)
俺は顔を両手で覆った。
見なくても声で分かる……。
年甲斐もなく叡桜女子高の制服を着ている涼音さんが到着してしまったんだ。
実の娘がこの場にいるとも知らずに。
「…………何してるのお母さん」
「れ、玲ちゃん⁉ ち、違うのよ玲ちゃん。この格好にはちゃんと深い理由が! 凛奈ちゃんが!」
「ぶふっ! よ……、よくお似合いですよ涼音さん。流石は女優さん」
冷え切った視線を母親に向ける玲と、実の娘と同じ制服姿でアタフタする保護者会代表、それを見て笑いをこらえて肩を震わせる凛奈という感じだろうか?
でも、顔を両手で覆って何も見えていない俺には、そのシーンを想像する事しか出来なかった。
結局、俺は玲を救う事は出来なかったのだなと、己の無力さに打ちひしがれるのであった。
『ど~~~~~~~しても、涼音さんに女子高生の制服を着せたかったんや』
と作者は供述しております。
年内ラストの更新をした所でストックが切れたので、ここからはのんびり更新に移行します。
本作は2025年の2月から投稿を始めて、書籍1巻も発売できた実りのある1年でした。
2026年もよろしくお願いいたします。
それでは、よいお年を。




