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101-110

 101


 さらに雨だった。


 102


 季節外れとはいかないまでも、この時期には珍しい台風が近づいていた。

 太陽がなければ、空の『影』を見ることができない。地面に筋が落ちようがない。だから、無闇に捜すことさえ封じられた感覚だった。

 だからそれから二日あまり、ぼくは家でじっとして過ごした。

 何か他の方法はないかと考えながら……。

 あの少女を救う何らか他の方法はないのだろうかと考えながら……。


 103


 三日目の朝は晴れていて、特に考えもなく、ぼくは電車に乗った。

 動かなくてはいられない気分だったのだけれども、自転車に乗る気がしなかったからだ。

 そこで私鉄を乗り継ぎ、最初に空の『影』とプレートを発見した公園の最寄駅まで行ってみようと思い立ったのだ。駅を出てからは、歩いて公園に行くつもりでいた。

 ところが――


 104


 あっさりと、ぼくは見つけてしまったのだ。

 空の『影』(筋)の別の手掛かりを……。

 電車の窓の外の切り取られた空の中にオレンジ色をしたプレートがぽっかりと浮かんでいた。

 あわてて、ぼくは次の駅で電車を降りた。

 そこはST区だった。少女のいた光の『影』の背景の街並みの印象に近い。

 もしかしたら、今度こそ……。

 ぼくは逸る気持ちを抑えながら、早足に、そのオレンジのプレートを確認しに向かった。


 105


 ORと名付けたそのプレート番号は12番だった。

 すぐ近くにまたしても色の違うプレートが浮かんでいたが、ぼくの勘は、それではないと告げていた。

 だから迷うことなく、ぼくはORプレートを追った。

 

 106


 ORプレートを伴うその空の『影』(筋)は、ST区をほぼ東に向かって走っていた。

 ぼくが生まれ、育った界隈とかなり似た匂いの街並み……。

 そのときは自転車がなかったから、スピードはもちろん遅かったのだけれども、一歩一歩踏みしめるように、ぼくは歩いた。


 OR13番

 OR14番

 OR15番


 違う……。


 OR16番

 OR17番

 OR18番


 これも違う……。


 OR19番

 OR20番

 OR21番


 違う、でも……。


 OR22番

 OR23番

 OR24番

 OR25番 OR26番

 

 そして――

 

 OR27番


  あった! 見つけた……。


 107


 それは、朝の眩しい太陽の下で燦然と光輝いていた。

 その背後には建物があり、公園があり、小さく切り取られた空間があり、明るく光る夏の地面には『影』があった。

 『影』は、黒く、細く、筋のようになって、それがまるで網の目のように絡まり、ふうわりと地面に落ちていた。

 ついに見つけた! とぼくは思った。

 でも、そこには肝心なもの、少女の姿が欠けていた。


 108


 そのときぼくは落胆したと同時に、妙な希望のようなものを感じていた。

 それはたぶん、まだ起こっていない、という希望だった。

 目の前にあるこの光景、それは紛れもなく明るい夏の断片としか表現のしようがなかったのだけれども、少女がいたあの映像の夏には、もっと強烈な何かがあった。


 109


 光の質に違和感があったのだ!


 110


 それから数日間、ぼくはその場所に通い詰めた。

 自転車で行ったこともあれば、最寄駅まで電車を使ったこともあれば、単に歩いて行きさえもした。

 その場所が、ぼくの家から歩いても一時間とかからないところにあったからできたのだ。

 知っているようで知らない街並み……。

 いろいろな時間帯にも行ってみた。

 朝はもちろん、昼間、夕方、黄昏時、あるいは夜にも、その光景を眺めた。周りに連なる景色も、道も、周辺を散歩する人たちも、犬も、猫も、まるっきり顔見知りみたいに思えてきた。

 相手の方がどう思ったかは、何故か計り知れない気がしたのだけれども……。

 ぼくは待った。

 確信があったのだ。

 いずれ来るに違いないその瞬間を待ち続けた。

 いつ行っても優しくしか感じられないこの光景が、少女を捕らえたあの恐怖の映像に変わる瞬間を……・


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