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1
ある日、目の奥が急にむず痒くなり、ついでパリンと割れたような衝撃とともに映像が飛び込んできた。
十二~十四歳くらいの少女の映像だった。
びっくりした表情をしていた。
2
いや、違うか?
3
びっくりしているというよりは、恐怖に駆られて叫びはじめた瞬間の顔つきだ。頬は引き攣り、口を大きく開き、眼はどこか一点を凝視して……。
4
直後、その映像が退き、少女の全体像が浮かび上がった。
細い身体つき。腰までかかる長い髪の毛。清楚なセーラー服。
けれども、それはぼくの知る学校の制服ではないようだった。
5
圧倒的な恐怖の表情。見ているこちらまで巻き込まれてしまいそうな、そんな顔。元の造作がきれいで整っていただけに、そのおぞましさは、単に見ているだけでも息苦しくさせられてしまうほどだった。
6
……と、そのとき、ぼくはふいに気がついた。
7
それまでぼくは、その映像が止まっているものだとばかり思い込んでいた。けれども目を凝らしてよく見てみると、それは微かに動いていた。重たい鉛の時間の中に閉じ込められ、自由を奪われてはいたのだけれども、なんとかそこから逃げ出そうとするかのように、ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり、と身をもがいている。
8
けれども、その瞬間から、少女は逃れ出ることができない。瞬間ごとに、恐怖の対象に引き込まれてゆく。見開かれた目が、より一層大きく見開かれ、口がさらに大きく開かれてゆき……。
9
見ているぼくも全身に硬質の接着剤を塗られたかのように身が強張り、同じ時間の中に絡め取られそうになり、少女の方に近づいてゆき、眼の奥のむず痒さが、だんだん、だんだん。だんだん、と身体全体に広がり、頭が割れるように痛くなり……。
不意に、その映像は消えた。
10
忘れてしまうことはできないはずだったけれども、それでもぼくはしばらくその体験を忘れていた。