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逆転の夏  作者: 怒髪天
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労働災害事例(墜落死)

気温45度、最早人間の生きる事が出来るギリギリの気温であるが、皮膚が焼けるような灼熱の中俺は解体用の掛矢を握り締めて足場の上で振るう。

「なんで学生時代に勉強しなかったんだ」

そう呟きながら陽炎が揺らめく景色を見ながら働く。

「お前はアホやん、所詮どんなに頑張っても変わらんよ」

そう言うのは現在65歳バツイチの山本さんだ、かつて定年と言われていた世代はまだ我々40歳と共に働いている、ちなみに現在の定年は90歳である。


「資格取れば良かった」

息も絶え絶えに言った。

「取っても変わらんて、どうせワシらは機械以下だからな」

ふと歩道を見ると下校中だろうか小学生くらいの子が最新型アンドロイドと一緒に歩いている。印が無ければ兄妹と思うほど精巧だ。


「アイツらのせいで給料はダダ下がりだ!クソ!」

眉間にシワを寄せて吐き捨てるように言った。

(的外れなようで実際そうなんだよなぁ、事務仕事にあぶれた奴が現場仕事に転職して単価は下がるし機械の癖にオーバーヒートし易いから野外作業には不向きだし)

そんな事をどのようにして日給千円で明日を乗り切るか含めて考えていた。

筋肉に汗が流れて輝いている。


「作業終了!昼休憩入れ!」

本社の指揮AIがイヤホンから連絡が入る。

「降りるぞ、気をつけろよな」

「はーい、?」

視界が歪む、おかしい。

「危ねぇぞ!」

叫び声が聞こえるが手に力が入らない。手足が震えて目がボヤけて気が遠くなる。

我々、高卒非正規激安労働者に安全という概念はない。


高さ50メートルで安全帯無し、夕食時のテレビはそう報じた。


――――

浮遊感で目が覚める、汗が沸きびっしょりと濡れていた。

「よく眠れたか!?」

教壇には数十年前に卒業した高校の男性恩師が仁王立ちで立っている。

窓の外には卒業以来訪れていなかった故郷の山々と街並みが広がる。

「明日から夏休みだと言うのにお前は何をしているんだ!」

ピシャリと叱る先生、隣の席には初恋の子が!在学中に事件に巻き込まれて死んだと聞き泣きに泣いたあの子がいた。

「まぁ座りなよ」

クスクスと笑う顔を見て涙が漏れた。


「今年?2019年だよ?どうしたの大丈夫?」

1学期最後のHRを終えて話しかけた。

「まさか、そんな」

かつて自分は俗に言う陰キャに分類される人間だった彼女もだが、だがしかし考えが浮かぶ。

「とりあえずさLIME交換しよ!夏休み中遊ぼうよ!」

高校1年の夏休みをゴリゴリに満喫しようと思い立った、まだこの時期なら彼女は同じくぼっちの筈!

「え?急にどうしたの?なんか変もの食べた?」

彼女はとても驚いたような顔をしていた。

「いや、友達は多い方がいいしさ」

彼女はしばらく考えて。

「まぁ、いいよ?仲良くしよう」


家に帰って情報を整理した、自分が出て行った事がキッカケで離婚に至った両親は健在でどうやらここはあの世ではなく過去らしいとわかった。

「じゃあ今から株と馬券買ったら儲かるんじゃね?!」

そうと決まれば即行動だ、自室を飛び出し、リビングに向かう。

「階段はゆっくり降りろよ」

帰ってきた父親に注意されつつ。

「株買おう!」

「何言ってんだお前馬鹿じゃねぇの?」

どつかれて即却下された。


不貞腐れて部屋に戻ると連絡がきていた。

「さっきは大丈夫だった?汗すごかったよ?」

「大丈夫、さっき休んだから」

そう送ると早々に風呂に入った。


数十年ぶりの母親の夕飯を泣きながら噛み締めて心配されながら部屋に戻った。

「暇なら明日映画見に行かない?」

「うん!行こう」

人生はやり直せるんだ、そう心から思った。

両親と見るテレビのなんとも言えない喜びと切なさにこれまた泣いた。

「明日映画見てくる」

「そう、いってらっしゃい」


ベッドに入るが寝付けない

(明日自分は元の地獄みたいな職場のシラミまみれの三段ベッドで起きるんじゃないか?)

そう考えるていたがいつの間にやら朝を迎えた。


リビングのテレビは数日前の放火事件を報じていた。

(懐かしいな、そんな事もあったけ)

精一杯のお洒落をするが何しろこの時の自分はいい服がない、強いて言えばジーパンとちょっといい白のTシャツがあるだけだ。

「外出もしなかったもんなぁ」

気温45度の未来から来た人間からすればまだ過ごしやすい気温の中出掛けた。


連絡を取りながら駅で待っていると彼女がやってきた。

決して華美ではないが白のキャップにゆったりとしたズボンと魅力的ではあり目を奪われる。

「おはよー!どうしたの?」

「いやなんでもないよ、似合ってるね」

「そう?ありがと!」

ついついじっとりと見てしまう、目を見て話しているが実の所胸と尻が気になって仕方ない。

電車を乗り継いで1時間程の間話を切らさないようそれだけに注力していた。

未来ではとっくの昔に潰れたショッピングモール、その中に映画館があるのだがなんと4DX付きである。

「私これ観たい!」

指を差した先には今流行りの恋愛ものの広告が掲示してある。

「まぁいいんじゃない?」

若干の戸惑いもあったがそれなりに楽しんだ。


見終わりフードコートで昼食を取ることにした。

「映画良かったね、また観たいな」

「うん良かったよ、ありがとう誘ってくれて」

「良いの!滅多に人と連絡先交換しないし」

彼女の優しい温もりのある笑顔に終始癒されていた。

「でもなんで今まであんまり関わりなかったのに急に連絡先交換したいって思ったの?」

「えーとそれは…」

脳裏に浮かぶのは数々の数十年前の思い出、それを辻褄合わせながら彼女の趣味を思い出した。

「⚪︎⚪︎ってゲームあるじゃん!あれしてるの見た事あって話がもしかしたら合うんじゃないかなと思ったんだ!」

「君もしてるの?嬉しいな!」

クラスで穏やかなあの子は外では割と賑やかな子だった。


夕方、彼女を家まで送り届けた。

「君がボーイフレンドか?よろしく頼むよ」

彼女の父親に言われるがこの家は数十年後にはもうない、具体的には連続放火殺人強盗団によって襲撃されたのだ。

ネットニュースでかつて見た姿と脳裏で照らし合わせて帰路につく。

おかしい、何かがおかしい。

事件が起きたのはいつだったか。

心に何かが引っかかっている。

どうしようもないむず痒さを抱えて大量の課題に囲まれ寝落ちした。

―――――――――

大量の黒煙、舐めるように包み込む炎。

「ゔぅゔ」

家が、あの子の家が燃えている。


「おーい、お客さんよー!」

「へ?あっ」

母親の声で飛び起きた。

足音はドアのすぐそこまで来ている。

「やっほー!元気?」

「家の場所教えたっけ?」

そんな疑問を他所に手の紙袋を床に置く。

「それは?」

「課題だよ!一緒にしよ?」

キュートな笑顔に圧倒されながら。

「いいけど、どの教科する?」

「今日は数学と現代文、明日は物理と世界史ね」

「明日も!?」

流石に驚きを隠せず目を見開いた。

「うん、客間使って良いってさ」

「まさか泊まるの!?」

「嫌?」

心底残念という表情だ。

「嫌ではないけど…マジ?」

「マジ!」

流される形で急遽勉強をする事になってしまった。


「違うよそこ」

「公式全然覚えてないじゃん」

「もー!さっき言ったよ!」

ダメ出しの度に修正を加えて手を進める。

「なんでこんなに覚えてないの?授業聞いてた?」

「ごめんごめん」

(そりゃ学校行ってたの数十年前だからな)

ため息をついていると。

「もー!ため息出したいのは私の方だよ!」

割とブチギレられた。

あまりにも出来なさすぎてカンカンにキレている横でしょぼくれながら問題を解いている。

「ご飯よー!」

やたらと気合いの入った声で昼飯の催促をされた。

「お昼にしよっか」

「ええ、でもお昼からも数学なのは変わらないからね」

ガチギレといった表情だ。


「どう?進んでる?」

やたらニコニコした顔で母親が聞いてきた。

「ハイ!順調ですよ!」

そこには昨夜の時点で冷蔵庫にはなかった筈の鰻の蒲焼きと長芋のすり下ろしが食卓に並んでいた。

「今晩は他で泊まってくるからな、期待してるぞ」

「父さんは何を期待してるの?」

ささやかな疑問を胸に食事を終えた。


「忘れてんじゃん!」

「だーかーらー!違うって!」

「バカじゃねぇの?!」

後半はただの罵倒と化したがそれでもなんとか半分は終わらせた。

「なんで家に来たと思う?」

唐突に作り置きの夕食を食べながらそんな事を言った。

「さぁ?」

「早く終わらせて夏休みを楽しみたいしね」

「確かにね、早く終わらせよう」

「そうそう、あとね…」

「何?」

「もう少し泊まっていい?1ヶ月くらいでどう?」

「待て待て!延長?!」

「うん、嫌?」

「流石に長すぎるよ、それに君にも用事あるんじゃないの?」

「大丈夫!明日荷物取りに行くし!」

「僕の親から許可出るとは限らないよ」

「出たよ」

「まさか、もう連絡交換してるの?」

「うん!おいしいね君のお母さんの手料理」

(マジかよ、早過ぎないか?)

その日は二人してゲームで遊んで突っ伏して寝落ちした。


「じゃ行ってくるね」

親がまだ帰ってない朝6時、荷物を取りに彼女は玄関を出た。

(何かが何かおかしい、何なんだ…)

ゾワりと背筋に震えが走る。

「待ってくれ!」

半開きのドアに声を届けて。

「どうしたの?変だよ?朝だから大声はダメだって」

「待ってくれ」

震えた声帯から捻り出すように言った。

「俺も連れて行ってくれ、荷物運びくらいなら出来る」


――――

「これで最後よ」

下着も含めた服をキャリーケースに入れて玄関で受け取った。

「ありがとう、娘の為にわざわざ来てくれて」

「いえ、お世話になっていますから」

(震えが止まらない、恐怖?いや違うぞコレは)

言語化出来ない何か予感を感じながらもテキパキと用意をしていたその時だった。


パリン!


「なんだ?母さんや、皿でも落としたのかい?」

彼女の父は家の奥、ダイニングに行った。

「ちょっと私見てくるわね」

行こうとする彼女の腕を握って。

「俺が行く!待ってて!」

「え?ちょっと!」

すぐ近くに置いてあった工具箱から金槌を取り出す。

(もうどうにでもなれ!)

ダイニングに入ると三人の男達がいた、どうやら勝手口から無理矢理入ったらしく割れたガラスが散乱していた。

「警察呼んで!こっちには絶対来ないで!」

両親二人は床に倒れていた、どうやら相当硬い物で殴られたらしく血を流している。

「お前ら!何しに来た!」

ちらっと手に持った金槌を見て逃げ出す三人、背後から追いかけて一人を捕まえ馬乗りになり振り下ろした。

「痛い!痛い!やめてくれ!」

「うるせぇ!ボケ!ブチ殺してやる!」

辺りはどんどん赤く染まる。

やがて気がついた時にはサイレンの音が聴こえてきた。


「はい、じゃあ今回は事態がアレだし正当防衛ね、よくやった!」

おじさん警官に褒められたすぐ横をご両親が担架に運ばれて行く、どうやら軽傷で済んだらしく直ぐに良くなるとの話だ。

「ありがとう、本当にありがとう」

涙を流しながら彼女は抱きついてきた、振り解こうとは思わない。

彼女にとって恐怖でいっぱいらしいが、自分にとっては初めてではない。

「なんでこんな事出来たの?」

すすり泣きながら聞いてきた。

「あーいや無我夢中だったからね」

(工事現場では殴り合いはよくあったしなぁ)

「君、今日泊まる場所はある?しばらくは巡回警備するけど犯人が戻ってくるかも知れないからね」

「それなら大丈夫です、彼の家に泊まるので」

「彼氏さんの家で泊まれるならそれは良かった、貴重品を忘れずに持って行ってね」

「僕達はそんな仲じゃないですよ」

若干冷めた目で彼女が見ていたが知らぬ振りをした。


――――

「ご飯がない!」

正確には『作り置きの』である。

「戸棚の中のカップ麺は?」

「なかったわよ」

「そうか…」

(てか人の家の収納棚勝手に見たのかよ)

「どうしよう、これじゃ5徹でゲーム出来ないじゃない」

「身体壊すぞ」

そもそも何故こんな事になったのかといえば両親に急な仕事が入り1週間は帰って来れないからだ。

(間が悪いな、ついてない)

「私作ろうかな?」

テーブルに置かれた食費の入った封筒を弄ってると言い出した。

「結構上手いの?」

「自信はあるよ、家でよくするし!」

そう言うと買い出しに出て行った。

しばらく昼寝してると1時間ほどでガチャン!バタン!と騒々しく音がして。

「暑かったー!ダルいしやっぱ交代!」

そう言って買い物袋を押し付けてアイスを食いはじめる。

「チャーハンでいい?」

「うん?いいよ」

そんなテキトーな返事を返され支度を進める、今は動画を見ているようでケケケと独特の笑い声を出している。


「出来たよ」

「うん、ありがと」

そっけない返事であるがスプーンを進ませドンドン減る、ひたすら無言である。

「おかわりないの?」

「欲しい?」

「なかったらいいや、課題先にしとくね」

「うん」

夏休みはまだ始まったばかりだ。



























戦記物を書きたいのですがどうにも進まんので季節物の恋愛を書いてみました。

好評か書きたくなれば続きを書きます。

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