ひきこもり転生
こんにちは!!物語のテーマは、ずばり挨拶。書きながらマジで大事だなと思いました。
みんなもやりましょう挨拶。マジでいいですよ。挨拶。
――挨拶をするのとしないのとでは、人生の難易度は大きく違ってくる。
沢田タカシ(転生者)
沢田タカシは、僕の昔の名前である。
昔の名前というのは元の世界での名前という意味で、
今はアイク=アージェントという名前で異世界を生きている。
元の世界の僕は、中学1年生のとき、部活の先輩に挨拶をしないで、部員全員にいじめられてから、ずっと不登校になり、ひきこもった。丸10年だ。
そしてある日、家族が長期旅行で家を空けたタイミングで、数年ぶりに外へ出た際、運悪く、居眠り運転をする長距離トラックにはねられて死んだんだ。
やり直せるなら自分の人生をやり直したいとずっと思って生きてきた。
でも、それは異世界でじゃない。10年前の、先輩に挨拶をしなかったときだ。
あの日の挨拶こそが、僕の人生の分かれ道だった。
――だからこの異世界では、しっかり挨拶をしようと心に誓ったんだ。
異世界転生をして1歳の誕生日、初めて産みの親に話しかけたとき、僕はあえて「マんマ」ではなく、「こんにちは」と言った。
僕の母親は、うちの子は天才と褒めたたえたが、周りのメイドは、「キモ!」っとドン引きしていたっけ。
挨拶は思ってた以上にいいものだった。すればみんな返してくれるし、シンプルに他人との仲を深めていくことができる。
僕が暮らすジュリアス領は、僕の父親である、アーサー=アージェントのものである。
3~4歳くらいのときからその父といっしょに領内を散歩するようにしていたおかげで、18歳になった今現在、領内の民はみんな顔見知りだし、僕に対して親切だ。
なんで元の世界でちゃんと挨拶しなかったんだろう。
そのことだけが悔やまれる。
進んで挨拶するだけで、世界は凄い過ごしやすいのに。
「知ってるかアイク?」
領内で出来た悪友、ニコラスが話しかけてきた。小さいころは感じの悪い嫌なガキだったニコラスも、毎日毎日挨拶をすることで友好的な態度をとるようになり、今では町の情報を逐一教えてくれる。
「知ってることならね」
「ハハハ、そりゃそうだ。なぁアイク、あの≪青のダンジョン≫の最下層にいるモンスターが、ついこないだ判明したんだってよ」
「マジで?」
≪青のダンジョン≫といえば、ジュリアス領近くの、「カエサルの森」の中にあるダンジョンである。
第1層から第10層まであり、中は迷路のように入り組んでいるらしい。
「なんと、永遠花龍なんだって!」
「マジで!?」
異世界で一番高価な贈りものの一つが、永遠花。花自身が強い魔力で守られているため、燃えない、枯れない、腐らないで有名である。市場でも中々出回らず、冒険者ギルドでは、永遠花採取はA級任務扱いだ。
その永遠花を守り、その身が永遠花に覆われているのが、エバーグリーンドラゴンなのである。
「お前、永遠花欲しいって言ってたよな。とってくればいいんじゃね?」
ニコラスが笑って言った。たしかに。
たしかに僕は永遠花を探していた。来週は、敬愛する母、パトラ=アージェントの誕生日。この僕を産み、育ててくれたお礼を、少しでも伝えたかったのだ。
元の世界では、母の日も、母さんの誕生日も、どっちも祝わなかった。
後悔してるんだ。
人として当たり前のことができなかった元の世界の自分の生き方を。
だから、パトラには永遠花を渡して、いつもありがとうと言いたい。
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「アイクぼっちゃんの頼みとあればいつだって力貸しますよ」
ジュリアス領で顔馴染みのラガッツがやわらいだ笑顔で言ってくれた。Aランクの勇者パーティー「ストーン・エイジ」のリーダーだ。他に4人。みんなストーン・エイジの人たちである。
「申し訳ないです。報酬は弾みますので」
「へへへ、助かります。でも、領主様には本当に内緒で良かったんですか?」
「言ったら絶対反対されるので」
父は少し過保護気味だった。そのため、まだ一度もダンジョンに入ったことはなかったし、モンスターを倒したことすらなかった。
一応剣術はずっと教えてもらってきてるし、魔術も習ってる。足手まといにはならないと思うのだけど。
「それじゃあ行きましょう」
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第1層~第3層は、雑魚モンスターばかりでドンドン降りていくことができた。
第4層~第6層は、一見強そうなモンスターが出始めたが、ストーン・エイジのみんなは余裕でぶっ倒していく。
第7~第9層は、ミノタウロスやケルベロスなど、手ごわいのがぞろぞろ現れたが、ストーン・エイジの連携がとれたコンビネーション技で何とか通過し、たった今第10層も9割攻略できた。
「これでよし」
ヒーラーのナポルさん(ストーン・エイジの魔法使いで、20代半ばのお姉さん)のおかげで皆の傷が癒えていく。
「いよいよ最下層最深部、この扉の奥に、永遠花龍がいる」
リーダーのラガッツが言うと、全員真剣な表情になる。
「行くぞ!!!!!!」
「おう!!!!!!」
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「嘘だろ?」
最深部のエリアボス、全長5mほどの永遠花龍の死体が、そこには転がっていた。
身体のどこにも、永遠花はない。むしり取られたようだ。
そして強力な永遠花の魔力で全身を防御するはずの、このドラゴンの全身には、壮絶な爪の跡が残っている。
「別の個体がいるのか」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」
地鳴りのような叫び声と共に上から全身瑠璃色に輝く、青い巨大な龍が舞い降りてきた。
「おいおい嘘だろ、奴は、≪青龍≫だ」
「え!?」
ありがとうございました!読んでもらえてうれしかったです!
ぜひまた読んでくださいね!