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09_謎の少年との旅の始まり

 

 謎の少年エルゼに出会い、そのままベルナール王国を逃げることにしたノルティマ。ベルナール王国では連日、失踪した王太女のことで大騒ぎになっていた。


 荷馬車に揺られること数日、ふたりはベルナール王国の隣国についた。

 商業が発達した国で、市街地は様々な店が軒を連ねている。


 人がひっきりなしに行き交っているため、時々風が吹いてフードが外されそうになっては押さえる。


(隣国と言えども、もしかしたらベルナール王国の王太女の顔を知っている人がいるかもしれない。できるだけ見られないようにしなくては)


 さながら指名手配された罪人の気分である。

 そして、人目をやけに気にするノルティマの姿をエルゼは見逃さなかったが、あえて何かを指摘することはしなかった。


「ノルティマ、お腹空いてない? 体調はどう?」

「おかげさまですごく気分が良いわ。お腹は……」


 石畳みの街道をエルゼと話しながら歩く。王宮を出るとき、お金も食べ物も持たずに身ひとつで飛び出してきてしまったため、この旅の途中は、エルゼが持っていた保存食を分けてもらっていた。

 まさか自分が生き残るとは想定していなかったのである。


(これ以上迷惑をかけるのは、いささか忍びないし……)


 正直、お腹はとても空いている。この通りには露店がずらりと立ち並び、肉や野菜を焼く香辛料の匂いが鼻腔をくすぐっては、いたずらに食欲を掻き立ててくるのだ。


「私はまだ大丈夫」


 エルゼに気を遣わせないように嘘をついたそのとき、腹部からぐぅ……と切なげな音がして、ノルティマはかあっと顔を赤くする。


「お姉さん? 今の音……」

「い、今のは、違っ――」


 ぐぅ………きゅるる……ぐうう………。一度だけではなく、ひっきりなしに空腹を訴えるお腹。みっともない音を聞かせてしまって恥ずかしくなり、ごめんなさいと謝る。


(ああもう、恥ずかしい……)


 入る穴はないかすぐに探しに行きたいところだが、今はどうにかこの音を収める手段はないかと思案するのに手一杯だった。両手でフードを引っ張って、顔を隠そうとする。


 するとエルゼは優しく微笑みながら、こちらの顔を覗き込んだ。そして、自分の両耳を塞ぐ。


「俺は何も聞いてないよ」

「嘘よ」


 それは子ども騙しにしかならないと抗議すると、彼は困ったように眉尻を下げる。


「どうして謝るの? 生理現象なんだし、恥ずかしがらなくていいんだよ。それじゃ、何か食べようか」


 けれどノルティマは生理現象の他にも別の深刻な問題を抱えている。

 くるりと背を向け、露店の方へ歩いていくエルゼの袖を摘んで引き留める。


「――ま、待って」

「ん?」

「私……お金を何も持っていないの」

「なんだ、そんなこと気にしなくていいよ。俺が払うから」

「子どもに払わせる訳にはいかないわ。もう迷惑をかけたくないの」

「平気さ。俺は金持ちの子どもだから」


 それでも、いたまれない気持ちに苛まれるノルティマ。思案を巡らせ、はっと思いついた。ローブを前で止めているブローチを外して、近くの質屋に駆け込む。

 大ぶりな宝石が嵌め込まれていた高価なそれは、平民の一家が数ヶ月食べていけるほどの金額になった。


(思ったよりも高く売れてよかった。最初からこうしていればよかったわね)


 質屋から出てほくほくしたノルティマは、エルゼに決まりよく言う。


「今なら、お姉さんが何でも買ってあげるわよ」

「ははっ、あのブローチがいい値で売れたみたいだね。それは旅費の足しにして。俺のことはいいからさ」

「そう……? ならせめて、お昼だけでもご馳走させてちょうだい。早く何か食べましょう。私すごくお腹が空いているの」


 ようやく食べ物にありつけると安堵したノルティマは、エルゼをせかすように手を取る。ノルティマに手を握られたエルゼは、反射的にばっと勢いよく手を振り払う。


(あら……?)


 手を引いて露店を見に行こうとしたのだが、急に触れるのは嫌だったのだろうか。エルゼも大人びているように見えて、思春期真っ只中の難しい時期だ。


「ごめんなさい。嫌だった?」

「……」

「エルゼ……?」


 彼の顔を見ると、熟れたりんごのように真っ赤になっていた。エルゼは朱に染まった頬を片手で隠しながら目を逸らす。


「いや、ノルティマは気にしなくていい。ごめん、何でもないから。早く行こうか」

「え、ええ」


 ふとこちらに顔を背け、ひとりで先に歩き出すエルゼ。まだ彼の耳が赤くなっているのがはっきりと目視でき、ノルティマのいたたまれなさが加速していく。

 飄々としている彼の、意外ないとけない一面を垣間見た気がした。


(やっぱりエルゼも、難しい年頃なのかしら。男の子って……よく分からないわ)


 今後は安易に触れないようにしようと固く決意して、彼の後ろを付いて歩くのだった。

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