Ⅲ.「玲瓏女学園」
私達は田園地帯をしばらく歩き、市街地へ入る。そして朝の通勤ラッシュで少し混んでいる大通りを渡って、山へと向かう道を歩いていく。すると木々の間から大きな門と塀が見えてくる。そこを通り抜けると、私達がこれから4年間通う事になる玲瓏女学園の敷地の中。
「わぁ…やっぱり大きい…」晴子さんがそうつぶやく。
元々ごく平凡な普通の公立高校に通ってただけあって、敷地の広さやスケール感に圧倒されてしまう。きちんと手入れされた庭には草木が生え、大きな噴水もある。綺麗に並んだ石畳や、遠くに見える校舎の豪華な装飾は何処か異国の宮殿を思わせる。
この敷地内は外界とはかけ離れた世界になっている。そしてここに通っている人達も、私達とは全く違う世界の人達ばかりだ。
それもそのはず、この学校は数ある宝石少女を養成する学校の中でも、トップクラスの選ばれた人しか入る事の出来ないお嬢様学校らしい。
「綺麗な人ばっかり、きっと私達浮いちゃってるよ」
晴子さんの言う通り、きっと周囲から浮いている。
周りにいる人達は、皆綺麗な顔立ちをしている。美しく風になびく髪。その姿はとても同じ人間とは思えない程、とても美麗で、美しい人ばかり。
平凡極まりない一般人みたいな私達が、こんな所を歩いて良いのだろうかと、そう思ってしまう。
「皆、髪の毛サラッサラのクルックルね、しかもスタイルの良い娘ばっかり、凄いねぇ」未知の世界に目を輝かせている晴子さんの姿はまるで無垢な少女の様で…
一方の私は初めての登校と言う事もあって、何処か緊張しているし、これからここで上手くやっていけるのかと、大きな不安を抱いている。
入学してくる人達は、大体10代から20代くらいの色々な人達が入ってくる様で、そして大体は皆お嬢様。
県内成績トップの娘から、芸能人や大物政治家の娘、さらに大企業や財閥のの御令嬢様まで。上流階級のザ・お嬢様みたいな人ばっかりだ。
「はぁ…もうなんか恐ろしいね、何で私達入れたんだろう…」晴子さんがそんな事を呟く、正直なところ私も同じ事を思っている。
何でも特別枠らしいけど…私に関しては、別に成績はまぁ悪くはないと思うし、別に貧乏でもないと思うけど…特別何かした訳でも無いのに。
まぁ…でも、本来なら信じられない程高額になる学費を殆ど免除してくれるらしいから、行かない手は無い。
晴子さんと色々話しながら、広い庭の真ん中を通る石畳の道を歩いていく。目に入る庭園の風景は、まるで絵画の中に描かれた風景の様に見える。
敷地内に入ってからもしばらく歩き続け、やっと第一校舎の玄関前まで来た。あまりにも広すぎる、それに校舎のサイズも桁違い。私が通っていた学校の校舎の何倍もある校舎が何個も連なっている。
「はぁ…これ、私教室まで辿り着けるのかな…」晴子さんが不安そうにしている。私も正直この広い校舎で、一度も迷わずに教室へ辿り着ける自信は無い。入学時に配布された書類に書かれている地図を見ながら、なんとか辿り着くしかない。
「それじゃあ、私はこれで。クラス別だからね」
「そうね、晴子さんまたあとでね」私はそう、晴子さんに一時の別れを告げ、自分のクラスを探す事にした。
私は大きな校舎の中を歩いていく、校舎の中も綺麗な装飾が沢山。テレビや本の中でしか見た事ない様な装飾がたくさんあって、なんだか現実味が無い。
教員らしき人に挨拶をしたり、迷って同じ場所をぐるぐる回ってしまったり。そんな事をしながら、私はなんとか無事に教室に辿り着く事ができた。
教室に入った私は、黒板に掲示されている座席表で席を確認し、私は後ろの方にある窓際の席に座った。座ってほっと一息つくと、晴子さんは無事教室に辿り着けたのかと、少し心配になる。でも今はどうにも出来ない、もしもまだ辿り着けていないのなら、無事に辿り着けるようにと祈っておこう。
私は話しかけるのが苦手で、初めて会うクラスメートに話し掛ける事が出来ない。そこで私は朝汽車の中で読んでいた小説を再び開き、時間を潰す事にした。
しばらく小説を読み耽っていると、高そうなスーツに身を包んだ教員らしき人が教室に入ってくる。
教室の中は直ぐに静まり返った。私が通っていた高校だと、先生が入ってきても皆無視してギャーギャー話していたのに…やっぱり皆育ちが良いのかしら。
教員らしき人が教壇に立ち、話し始める。
話を聞くに、どうやらこれから新入生歓迎会があるらしい。私は先生の指示に従い、まだ何も知らないクラスメート達と共に、学園の多目的ホールへと向かった。