Ⅰ.「始まりの日」
兵庫県某所
雲は無く、透き通った青空に、ガラガラとディーゼルエンジンの音が響く。
私、今宮恵理は汽動車に揺られていた。
汽動車に乗っている人達は、私と同じ制服を着た女の子達や、黒いスーツに身を包んだ会社員らしき人。
ごくごく普通の朝の通勤、通学時間の光景。きっとあの会社員は途中の大きな駅で乗り換えて、都会の方まで行くんだろうなぁ、とか思う。
汽動車は車体をギシギシ言わせながら、車輪を空転させて山を抜けていく。
私の友達いわく、汽動車は都会の電車に比べると物凄く乗り心地が悪いらしい。電車に乗ったことがあまり無い私にとってはよく分からないけれど、私はこのくらいの振動は普通だと思う。
むしろこの揺れが揺りかごの様な感じで、程よく眠気を誘って心地がよい。でもここで寝てしまったら、降りないといけない駅を乗り過ごしてしまいそう。
私はお気に入りの小説を学生鞄から取り出し読み耽る事にした。小説を読みつつ、時々目の前の車窓から流れていく景色をぼんやり見ていると、あっという間に降りる駅に着いた。
汽動車を降り、海沿いにある小さな駅を出ると、ポカポカして暖かい春の日差しと海風が私を包む。清々しい朝の空気と春の陽気に包まれながら、私は目的地に向け足を進める。