エピローグ
妖精の国を統べる妖精の王その御前、白銀の騎士は新たに見繕った鎧を身に纏い、王の言葉を受けていた。
白銀の騎士と青銅の騎士。そして、妖精の姫は、あの後遅れて到着した姫を邪竜の魔の手から救いに来た軍の一団に運ばれて国へと帰還したのだった。
国民達は、恐るべき邪竜が討たれたこと、そしてお戻りになられた妖精の姫の無事を知り喜びの声を上げるなか、気力を使い果たした白銀の騎士は長き眠りに付いたままだった。
そんな白銀の騎士が目覚めたのは幾月もが過ぎた後のこと。目が覚めたと同時に英雄と称され困惑していた時、王からの呼び出しが下る。
急ぎ王城へと向かった白銀の騎士に渡されたのが、今身に纏っている新たなる白銀の鎧だ。
だが、目覚めて直ぐの呼び出し。新たなる鎧を身に纏うと同時に通された王の間で跪くなかでも、白銀は事態が把握出来て折らず困惑していた。
邪竜の体内へと入り、その心臓を引き裂いたことで邪竜を完全に打ち取ったところまでは記憶にある。だが、その後はどうなった? 今この場にいると言うことは後を託した青銅の騎士が自身を連れ帰って来てくれたとして、姫は。そうだ姫。姫は無事なのか。
視線をあちこちと動かし姫の姿を探す。
それに気付いたのか王は姫の名を読んで、傍へと連れてきた。
「白銀の騎士よ。そなたの働きにより、我が愛娘はこの通り無事に戻ってくることが叶った。故に、騎士としての勤めを果たしたそなたに褒美を与えようと思う」
王はそこまでいうと愛娘に目くばせをする。同時に姫はそれに頷いたのち白銀の騎士の目の前へとやってきた。
「騎士よ。あなたの功績を讃えて父である王は褒美として領地を与えると約束してくれました。ですが、私がそれを断りました。真に勝手な話だと思われるでしょう。けれど、此度あなたの働きを私は間近で目にし、そして、兼ねてより聞き及んでいたあなたの噂を考慮した上で、私にはあなたにはもっと相応しい褒美があるのではと王に提案しました」
もしかして、姫の言葉に驚き思わず顔を上げる白銀の騎士。本来なら許しを得ずに顔を上げるなどあってはならない行為。だが、誰もそれを咎めることはない。
「騎士よ。あなたを守護騎士に任じます」
「守護。騎士」
初めて聞く役職だった。思わず白銀の騎士が言葉を漏らすなか、姫は言葉を続ける。
「私のモノとなり。私の手足として動き。私の為に働き。私と私の愛するこの国を守護することが役目の新たなる騎士の職です。あなたが目指していた近衛騎士よりも、もっと私の傍にいられる。あなた専用の役職です。勿論受けて頂けますよね」
「はい。その役目。謹んでお受けいたします」
あまりに魅力的なそれを白銀の騎士が断る理由など無かった。
「へぇ、そんな事になっていたんだな。でも、よかったじゃんか。お前、姫様の騎士になりたかったんだもんな。その為に今まで努力してきていたわけだしな。ようはそれが叶ったわけだ」
「あぁ。正直、夢物語だと諦めかけていたからな。こんな奇跡がおこるなんて想像もしていなかった」
その日の夜、白銀の騎士は青銅の騎士がいるという酒場を訪れていた。だが、そこで会った青銅の騎士はなぜか鎧を身に纏ってはいなかった。
「想像もしていなかったと言えば、青銅の。お前が騎士を辞めて店を構えていたと聞いた時は驚いたぞ」
「そんな驚くことかねぇ。あんな体験をした後だ。もう騎士なんて懲り懲りと思う方が普通だと思うがな。それに元々店を出す金の為に騎士になった訳だしな。褒美としてたんまり店を出す援助を用意して貰った訳だからな。わざわざ危険が伴うような仕事なんて続けないさ」
「そうか。少し寂しくなるな」
「その寂しくなるは、同じ人間の稽古相手をしてくれるのが減るからって理由だろ」
「それ以外になにがあるんだ?」
「ったく。お前はそういうヤツだったよな。まぁいいや。新しいお勤めは明日からなんだろ。だったら盛大に祝ってやるよ。今夜は俺の驕りだじゃんじゃん飲めよな」
互いに酒を酌み交わしたその時、一匹の犬が騒ぎに釣られてか店に入って来る。それと同時に店内に悲鳴が響く。
「うぎゃぁああああああああああああ」
青銅のマスターは、騎士であった頃の勇ましさを捨て去り怯えて腰を抜かす。
「青銅の。狼に襲われてから犬嫌いが余計に悪化していないか」
「し、仕方ないだろ。子供の時に発情期の犬に組み伏せられるなんて体験すれば誰だって。って、こっち来るなぁ」
青銅のマスターが犬の飼い主が連れ戻しに来るまでの間店中を走り回る姿を見て、白銀の騎士や酒場の客達は、良い余興だと笑って夜を過ごした。
それから数百年が過ぎた頃。妖精の国である文献が見つかる。
数千年に一度生まれる全てのモノを魅了する瞳を持つとされる妖精の姫。その魅力は余りにも多くのモノを引き付け魅了する。かの姫の傍にいたいが為に騎士を志すモノは多く、しかして王族を守る役目としての近衛騎士を除き、姫の傍に付いた騎士は唯の一人だけだったと言う。
それも妖精では無く、妖精に匹敵するだけの力を備えた人間の騎士だったと記されている。
その騎士は守護騎士、或いは白銀の騎士と呼ばれ、妖精の姫に害を及ぼす全てを跳ねのけた。そしてそれに伴う様々な功績が記されている。
白銀の騎士の名の通り、白銀の鎧に白銀の剣を手にしたその人物は後の世でこう語られている。妖精の守護者。白銀の英雄と。