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白銀の騎士と妖精姫  作者: きょうかすいげつ
2/6

第一幕

  白銀の騎士は城下町で邪竜が飛び去った方角を調べ、邪竜が巣に出来そうなおおよその位置を割り出すとすぐさま、そこへ向かって歩み始めた。


 そして、その道中である森へと脚を踏み入れたのです。


 数年前に一度脚を運んだ切りだったのですが、白銀の騎士はどこかその森が以前と様子が違う様に思いました。


 以前までこの森は、木々の葉が風に揺れて音楽を奏で動物達が唄を謳うそんな陽気な森だったと記憶していたのですが、今いるこの場所はそんな以前の様子がまるで嘘だったかのように薄暗く静かでした。そして何よりも鉄錆の様な匂いが充満して鼻に付きます。


 白銀の騎士は森の様子の変化に違和感を覚えながらも、今は姫の事が気がかりでならず早く森を抜けてしまう事だけを考えて先へ進む事にしました。


「うぎゃぁああああああああああああ」


 うっそうとする森の草木を掻き分けて進んでいると、背後から大きな叫び声が聞こえて来ました。


 生命の鼓動も聞こえて来ないようなこんな森で突如そんな声が聞こえたものなので、白銀の騎士も思わず立ち止まります。そして流石に声を無視してまで先に行くのは気が咎め、叫び声の正体を確かめに向かう事にし、進んで来た道を引き返すことにしました。


 幾つかの草木を再び掻き分けて声が聞こえた方向へと歩みを進めていると、そこにはなぜか同僚の騎士である、青銅の騎士が腰を抜かしたかの様な態勢で倒れていました。


 なぜここに? そんな疑問を抱えながらも、その同僚の元へと白銀の騎士は歩みを進めます。


「何をしているんだ」と言いながら、白銀の騎士が尻もちを付いた態勢のままでいる青銅の騎士へと手を伸ばすと、青銅の騎士は手を取る事もせず「う、うしろ。うしろ」そう声を振るわせながら、白銀の騎士の背後へと視線を送ります。


 刹那、白銀の騎士の背筋に刺す様な鋭い殺気が襲い掛かります。一瞬の判断ミスが生死に関わる。そんな状況なのだと脳が理解するよりも早く白銀の騎士は腰に掛けて居た剣の柄へと手を伸ばし、剣を鞘から引き抜きくそのままの勢いで背後に振りむきます。


 白銀の騎士が視界に捉えたのは瘦せ細った狼でした。狼は引き抜いた剣に向かって牙を突き立て「グルルルル」っと唸りながら餓えた目でこちらを見ていました。


 瘦せ狼の牙は鋭く、もしも少しでも剣を引き抜くのが遅れていたら、もし殺気に怖じ気て行動が遅かったら、そう考えるだけで背筋に冷や汗が流れていく。そんな中でも、狼は当然噛みつく力を緩めることは無く、それどころかこちらの剣を噛み砕かんとせんが為、余計に力を入れて行きます。


 このままでは剣の方が先に折れてしまう。そう肌で感じ取った白銀の騎士は腕に力を入れて剣に噛み付く痩せ狼を振り払って木に叩きつける。


 木の幹に胴をぶつけて、「きゃうん」っと小さな声を漏らした瘦せ狼だったが、それで怯む様子もなく、寧ろ獲物が抵抗する程燃えるとでも言わん様子で直ぐに態勢を立て直しこちらを睨み付けるのだった。


 白銀の騎士は諦める様子の無い瘦せ狼の姿、後ろで未だ立ち上がれない様子の青銅の騎士の姿を目にして、こちらも覚悟を決める。


 誰よりも姫を救いたいと考える白銀の騎士にとってここで、瘦せ狼を振り払って森を抜けるのは簡単なことではある。だが、そんな事をすれば青銅の騎士の身が危うい。


 青銅の騎士も鎧を身に纏っているとはいえ、数秒と断たずに鉄の剣を折りかねない力を見せたあの痩せ狼の牙をくらえば、簡単に餌食となることだろう。それを理解していて見捨てる程、白銀の騎士は下衆に成り下がる気は無い。


 なにせ、この白銀の騎士は愛しき妖精姫の近衛騎士を目指しているのだ。あの姫君の傍に立とうする者が、か弱き者を簡単に見捨てる。そんな者であって良い筈が無いのだ。


 ふぅぅぅっと息を吐く。白銀の騎士は剣の柄を両の手で握り締め、痩せ狼へ視線を寄せる。タイミングを間違えれば死と思え。そう自身に言い聞かせ呼吸を整える。


 カタリと木の枝が落ちる音が聞こえた。それとほぼ同時に瘦せ狼はこちらへと飛び掛かる。まるで常勝を期してきたかの様な必殺のその牙は、白銀の騎士の首元へと的確に狙いを定めて軌道を描く。だがその間に白銀の騎士は剣の刃を滑り込ませ、態勢を低く構える。


 ほんの一瞬の出来事。だが、その一瞬での行動で勝敗は決した。


 宙を舞い飛び掛かる瘦せ狼に、その軌道上へと出現した白銀の騎士の刃を躱す術は無く。


 一呼吸の間に瘦せ狼の胴は切り裂かれ、その牙が喉元に届くよりも前に地に伏せる。なんとか危機を回避した白銀の騎士は剣に付いた血を振り払い。周囲の安全を確認してから鞘へと収める。


 そして、「すーーーー。はーーーー」っと一度深呼吸した後に再び倒れ込んだままの青銅の騎士へと手を伸ばすのだった。


「ああ、すまない。白銀の」


 青銅の騎士は、そう言って手を取り立ち上がった後に、やれやれと自嘲気味にかぶりを払い「本当なら、無鉄砲なお前をかっこよく手助けする予定だったのだがな。人生上手く行かないものだ」なんて言い出した。


「手助け?」白銀の騎士が疑問を投げかけると、青銅の騎士はうんと頷いた後に言葉を続ける。


「白銀の。お前が姫様をお慕いしているのは、俺を含めた同僚の騎士でも周知のことだ。だからお前が、姫様を一刻も早く助け出したい気持ちも理解はしている。しかし。そうしかしだ。妖精の騎士達の中でも精鋭であった近衛騎士が敗れた相手だ。幾らお前が俺らの中で抜きん出た腕前を持っていたとしても、一人で挑むなど無茶以外のなんと言えようか」


 青銅の騎士のその言葉に白銀の騎士は返す言葉を見つけられずに黙ってしまう。


 愛しき姫が攫われたと聞かされてからの己の行動は、青銅の騎士が言うように冷静さを欠いていた。その事実をようやく認識できたからだ。


「安心しろ、なにせ俺が手伝いに来たのだからな」青銅の騎士はなぜだか自信満々にそう言い放つ。


「な、なんだよ。確かにさっきは情けないところを見せたが、俺の真の実力はお前が知っているだろう。だから次は問題ないとも」


 先程の状況を思い起こして白銀の騎士が、本当に戦力に成るのかと疑いの目で見ていると青銅の騎士はそう言って反論を返す。そしてその後にぼそっと「確かにお前と違って実戦経験は殆どないから、さっきのは驚いてしまったのだが」と口にこぼした。


 白銀の騎士は、青銅の騎士がもらした言葉を聞かなかったことにして、同行を受け入れることにした。


 事実、己の身一つで邪竜を相手に戦うよりも戦力は多いに越したことは無い。それに他の騎士ならともかく同僚で気心も知れた青銅の騎士であれば背中を預けれるだけの信頼もあるからだ。


「それでは姫様を助け出す為、早速向かうとしよう。…………ところで、何処へ向かえばいいのだ?」


 青銅の騎士の言葉に、白銀の騎士は頭を抱えて同行を許可したのは早計だっただろうかとも想いながら、あらぬ方向へ向かい出そうとする青銅の騎士の襟首を引っ張り先へと向かうのであった。

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