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白銀の騎士と妖精姫  作者: きょうかすいげつ
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プロローグ

 むかしむかし。妖精の国に大層美しい妖精の姫君が居られた。

 蜂蜜の色をしたなびく髪。極彩色でよく透き通る羽根。多くの者を魅了する翡翠の瞳を持つ麗しの妖精姫。

 そんな姫を一目見ようと訪れる好奇心の多い者も、そしてその一目で心を奪われる者も少なくなかった。


 白銀の騎士もその一人。幼い頃、遠くから目にしたあの美しき御方に一目で心を奪われて以来、かの姫君にあいまみえる為だけに近衛騎士を目指して鎧を纏った。

 だが、妖精の国に置いて人間が、妖精のそれも王族の近衛騎士に成ると言うのはとても難しいことだった。

 妖精は人間よりも優れた肉体を持ち、長寿で空も飛べる。一方で羽根の無い人間はそんな妖精の庇護下で生きるのが当然の国。人間に許されたのは精々が騎士の真似事をして雑事をこなすことぐらいのもの。

 そんな常識が蔓延ったこの国で、唯人が姫の近衛騎士に成るなど夢のまた夢のような話だった。騎士に成った後にそんな事実を知った白銀の騎士は、どうすれば近衛騎士に成れるだろうかと、無い頭を捻り考える。

 そして出した結論は、自分が妖精の騎士と同じだけの力を持つことを証明したうえで、王に認められる程の功績を上げることでした。そうすれば、幾ら妖精より劣ると思われている人間であっても、近衛騎士に相応の実力を持つものを棄て置くなんてこと、かの聡明な妖精の王がする筈がない。

 白銀の騎士はそう考えて、まずはそんな功績を上げられるだけの実力を付けようと鍛錬に励みます。


 しかし、幾ら鍛錬で強く成ろうと武勇を上げられる程の功績を見せる機会が訪れることは一向に無く。幾年かが経ち、同年代の騎士相手には負け知らずの力を身に付けた白銀の騎士は今も一介の国に仕える騎士どまりでしかありませんでした。

 このまま近衛騎士に成ることはもう一生無いモノだ。白銀の騎士の心中にそんな翳りを見せ始めた年の頃、そんな考えを吹き飛ばすある転機が訪れたのです。


 それはいつも行っている城下町の見回り時のことでした。

 毎度の如く訪れる度に町の子供達に「白銀の兄ちゃん。まだ近衛騎士に成れないのかぁ」「むりむり、人間が近衛騎士に成れるわけ無いじゃない」「兄ちゃんももう大人なんだからいい加減、夢を見るの辞めたら」なんて決まり文句で揶揄われていると、突然空が暗くなりました。

 まだ日中だと言うのにどうしたことだろうと町の人々は、不安そうに空を見ます。

 もちろん白銀の騎士もそれに続いて空を見ました。

 そこにあったのは大きな雲では無く。陽の光を遮る程にまで多きな筋張った蝙蝠の様な翼だったのです。

 周囲に居た人々は騒然としていました。そして、誰かが言いました。

「竜だ。邪竜がでたぞぉーーーーーーーー」

 それに続く様に皆、各々に叫びます。

「きゃぁーーーー」「逃げろ逃げろ。邪竜なんぞに食われて死にたくない」「いやだ。こわいよう。お兄ちゃん」

 怯える子供達や町の人々を何とか宥めながら、白銀の騎士は邪竜が再び飛び去るまでの間、胸に一つの不安を抱えて居ました。

 なぜなら、邪竜が先程まで居た場所は城の上層。しかも愛しき姫君が居る部屋の辺りなのですから。

 慌てた様子で邪竜が飛び去る背中を見た時は、姫に付く妖精の近衛騎士が追い返したのだと、そう思ったのですが、なぜだか未だに不安を感じ続けるのです。

 もし、もしも姫に何かあったのだとしたら、そう逸る気持ちを抑え、白銀の騎士は町の人達を落ち着かせると言う仕事を勤め。その後に城へと向かい事態の確認を行います。


 城の中は慌ただしく、使用人は青ざめた顔で自らの仕事に勤しんでいます。とても事情を聞ける状態ではありません。

 仕方が無いので城内にある騎士の詰所へ向かい同僚である青銅の騎士に事情を尋ねます。

「あぁ、白銀の。俺もまだ詳しくは知らないんだが、どうやら…………」

「姫が攫われただと!!」

 青銅の騎士から聞いた事実に耳を疑いながらも、白銀の騎士は取り乱し大声で口に出してしまう。

 突然の声に回りに居た者達が驚いた様子を見せるなか、青銅の騎士は白銀の騎士に落ち着く様に諭します。

 しかし、これが落ち着いていられるものかと白銀の騎士は青銅の騎士に詰め寄り尋ねる。

 そうして聞き出した情報に依ると、邪竜の目的は最初から妖精の姫君で、近衛の騎士が姫を守ろうとしても歯が立たず返り討ちにあったのだと言う。

 愛娘である姫を溺愛していた王は当然この国一番の実力を誇る妖精の騎士を近衛騎士に選んだのだ。それが意図も容易く敗れたとあれば、この国で邪竜に勝てるモノなど居ない。

 白銀の騎士を除いたこの場に居る全員がそんな考えを持っていた。

 だからこそ、王が急ぎ姫を救い出す為に軍の再編を行っていても、それに参加しようと自ら志願する者は殆ど居なかった。


 白銀の騎士は思う。このまま軍の再編が済むのを待っていたのでは、姫の身を危険にさらし続けるだけなのではないか。一刻も早く姫を助けに向かわなければと。

「あ、おいどこに行く気だよ。まさか一人で行く気か。無茶だやめとけって」

 そんな青銅の騎士の忠告も聞かず、白銀の騎士は装備を整えて直ぐに一人で城を後にするのだった。

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