《???》
「――エリュエルっ!!」
ガバッと上体を起こし、息を切らすアレン。
真っ先に彼女の目に飛び込んできたのは、見覚えのある白い漆喰の壁。そこに設けられた木枠の窓からは、希薄で澄んだ冬の日差しが、冷えた室内を仄かに照らしている。
伸ばしていた右腕を下ろし、呼吸を整えたアレンは改めて周囲を見渡す。水差しが置かれた素朴なテーブルに、天井から吊り下げられた明かりの消えたランプ。柱には、一定のリズムで時を刻み続ける壁時計が掛けられており、この時、ようやく彼女は自身が宿屋のベッドの上にいることに気づいた。
「……夢、だったのか?」
額に手をやり、現在の時刻を確認する。
――午前七時ジャスト、完全に時間感覚が狂ってやがる。そう心の中で思いつつ、ふとアレンは隣のベッドに視線を移してみる。
そこには、今もなお眠りの世界で、寝言で何かを言っているジンの姿があった。
「おいっ!? ジン――」
「……アレン〜。そんなのばっかり食っていると、腹壊すぞ〜……」
寝返りを打ち、再び寝息を立てるジン。
僅かな時の間、無言で体を震わせる彼女であったが、程なくして、彼の背中に渾身の一撃が叩き込まれた。尋常ではない叫び声が部屋中の空気を振動させる。
「誰だ?! いきなり……って、お前か、アレン!?」
「うるせえ! いつまで寝てるんだ、とっとと起きろっ!!」
毛布を剥ぎ取られ、強引にジンはベッドから引きずり下ろされる。対する彼女は、収まりきれない怒りに何度も枕を殴りつけている。
「ったく、どいつもこいつもあたしを苛立たせやがって。特にあのガキ天使!」
「『ガキ天使』? 誰のことを言っているんだ?」
頭に疑問符を浮かべて、ジンは首を傾げる。
これまでの出来事が全てが夢であったことを完全に思い知らされたアレンは、「ちっ、何でもねえよ」と彼がいる場所とは真逆の方向に顔を背けた。
そんな酷く不機嫌そうな調子の彼女に、ジンは暫く黙り込んでいたが、やがて頃合いを見計らっておもむろに口を開いた。
「……なあ、アレン」
「んだよ、何か用か?」
一貫して機嫌の悪さを主張しているアレンに、思わず尻込みしてしまうジン。しかし、彼は意を決して再度彼女の名前を呼ぶ。
「アレン! 実は――」
「だから何だよ! 用があるならさっさと――」
思い切り枕を壁に叩きつけ、アレンは素早く体ごと振り向く。しかし、ここで不自然に言葉が途切れた。
振り向き様に彼女が見たもの――それは、緑色の蓋のプレゼントボックスを大事そうに両手で抱えたジンの姿であった。
夢の最後でエリュエルから渡されたものと全く同じ『それ』を持っていた彼に、アレンは一瞬だけ唖然とする。
「ほら、今日はクリスマスだろ? 俺、よくよく考えたら、お前と旅を始めてから一度もプレゼントを贈ったことなかったなーって思ってよ。……お前のことだから、こんな子供じみたイベント、好きじゃねえだろうけど」
「貸せ!」
咄嗟に手元から奪い取り、その場で蓋を開けて中身を確認するアレン。そこにあったのは――。
「……実は町の市場でこっそり、隙を狙って買って来たんだ。お前、旅の道中ずっと『寒い』って連呼していただろ? 少しでも寒さを防げればなと選んできたんだが」
若干、視線を逸らしながら、気恥ずかしそうにジンは言う。
アレンは箱の中にあった『もの』――綺麗に畳まれた黒色のネックウォーマーを見つめたまま、微動だにしない。
チラリと反応を伺ってみた彼は、一つも表情を変えない彼女に寂しげな微笑を浮かべて肩を落とす。
「やっぱり、好きじゃねえよな、こんなこと。なるべく女っぽくないものを選んだつもりだったけれども……って、えっ?!」
「何だよ。何、驚いてるんだよ」
半ば諦めた様子でジンが正面を向いたその時、彼は意外な光景に我が目を疑った。
着飾ることを好まない性格だったはずの彼女が、今、自分の面前で首元に通している最中であった。
「そんなにあたしが物を身につけてるのが意外だったのか? 似合わねえって言うのなら、今すぐにでも外してやるよ」
「いや、そんなこと一言も言っていねえって! 似合ってるから、そのままでいてくれ!」
必死の形相で慌てふためきながら、ジンは頭を下げて頼み込む。
しかし、どこか嬉しそうな顔をしている相方に、アレンはふっと微笑むと、気を取り直して大声を上げる。
「さぁて、そろそろ町に出て、食料の調達でもするか! おい、いつまでも頭下げてるんじゃねえよ、置いてくぞ、ジン」
「わかったわかった、行くから少し待ってくれって」
一連のやり取りを終えて、普段通りの接し合いを始める両者。次に向かう国への旅支度をするべく、借りていた宿屋を後にする。
――朝日に照らされたゼルトの小さな町の広場。待ち侘びたクリスマスの日を祝うかのように、鳴らされた鐘の音が遠い空へと響き渡った。
* * * * *
アレン達の最終サンタポイント:『1+』
【END】
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