《am 3:45》
《am3:45》
*現在のサンタポイント:『???』
「お帰りなさい、アレンさん、ジンさん! 無事、時間内に戻って来られましたね! どうです? 子供達は皆、可愛かったでしょう?」
森に囲まれた広い園地。当初は降り続けていた雪もいつの間にか止んでおり、静まり返った銀世界に、ニコニコ顔の天使エリュエルの声が響く。
「その中に一人、物分かりのいい捻くれ者もいたけどな。登録されてた分は、全部届けに行って来たぞ、おらあ!」
「お前も大分、人のことは言えねえ捻くれ者だけどな」
「ああ?! 何か言ったか、ジン!?」
思わず本音を漏らしてしまった青年と、喧嘩っ早い性格の少女。取っ組み合いを開始する二人の異世界人を愛おしそうに見つめながら、エリュエルは更なる言葉を紡ぐ。
「お仕事、お疲れ様でした! ところで、プレゼントは全員に配り終えましたか?」
「おまえは邪魔すんじゃ……そうだ! それを言い忘れるところだったぞ、くそっ!」
ジンの二対の角から手を離し、ずんずんとアレンは『あるもの』を持ってエリュエルの元に歩み寄る。
「おまえ、これは一体、どういう意味だ?! 子供の数と合ってねえじゃねえか、こらぁっ!!」
と、彼女は担いでいた大袋を広げて、中身を見せつけるように眼前に突き出す。
「……やっと離してくれたか。どうかしたのか、アレン?」
「どうしたも何も、こいつ、あたしらに仕事を頼んでおきながら、プレゼントの数を間違えてやがったんだぞ! 残された時間はもうねえのに、今から届けに行って来いって命令しても、あたしはもうやらねえぞ!?」
苛立った様子のアレンの台詞に、後からやって来たジンも中を覗く。
膨らみを失った大袋。しかし、その奥底の隅に一つだけ、緑色の蓋のプレゼントボックスが余っていた。
「今度は発注ミスでもやらかしたんだろうが、これはおまえらのところで犯した過失だからな!? これで元の世界に帰せねえって抜かしやがったら、その羽毛、髪の毛ごと全部むしり取ってやる!!」
「いいえ、これはボクによる過失でも、登録情報に間違いがあったわけでもありませんよ? あなた方は無事に、サンタさんとトナカイさんの『役目』を十二分に果たしてくださいました。お陰様で、最後の一個も無事にお届け先に贈ることが出来ます」
そう言って、エリュエルは小さな体で袋の中に潜り込む。そして「よいしょ」と両手で先程のプレゼントボックスを拾い上げると、それをアレンの目の前に持って来て、立ち止まる。
「――このプレゼントはアレンさん、あなたのために用意されたものです」
幼児姿の天使の言葉に、一瞬だけ目を丸くするアレン。
再び静まり返る聖夜の只中、エリュエルが両手を離すと、ふわりと見えない力がそれを彼女の元へと送り届ける。
「おい、待てガキ天使。あたしは子供じゃねえんだぞ。こんなもの、受け取れるか!」
驚いたのも束の間。強引に手の内に納められた贈り物を投げ捨てようとしたアレンだが、まるで初めから彼女の体の一部のようにピッタリと張り付き、引き剥がすことは叶わなかった。
「そんなこと、言わないでくださいよぉ。ボクの手から離れたんですから、これはもう歴とした、アレンさんのものなんですよ?」
「ふざけんな! それは一体、何処の誰の台詞だ――って、何だっ?!」
突如として遮られる視界。まだ夜明けの時間帯でもないにも関わらず、遠くの空から眩いばかりの光が差し込んできた。続けて、神殿の鐘に似た尊厳な音が辺り一帯に鳴り始め、空間に現れた巨大な扉がアレンとジンの体を引き寄せる。
「さようならーっ! アレンさん、ジンさん! そちらの世界に行っても、ボク達のこと、忘れないでくださいねーっ!!」
次第に遠ざかりながら、アレンとジンの名前を大声で呼ぶエリュエル。
その姿を捕えようと必死に手を伸ばすが、もう届かない存在を前に、彼女は何も出来ぬまま大量の光に全身を包まれてしまった。
「待ちやがれっ! 話はまだ終わってねえぞ!! おい、待て、エリュエル! エリュエル――……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇