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《am2:50》(3)

「そうよ。満足するに決まってるでしょ?」


 やや不機嫌そうになりながらも、自信を持って言い返す少女。その返答を聞き、アレンは呆れきった様子で深いため息をつき、思い思いの言葉を口に出す。


「確かにコトミ、こいつはおまえそのものだよ。その捻くれた性格なんかは特にな。『色をくれる』? そんな都合のいい魔法使いなんて、本当にこの世に存在するとでも思ってるのか? 思ってねえから空想上で描いてるんだろ? 誰かから与えられたものなんざ、食い物と一緒ですぐになくなっちまう。そんなまやかしで満足するわけがねえことは、誰よりも一番、自分が理解してるんだろ?」

「……」


 「やっちまった」とでも言いたげに、両手で頭を抱え込んでその場に伏せるジン。そうこうしている間も腕輪からは、『子供ニ対スル暴言ハヤメマショウ』、『子供ノ夢ヲ壊ス発言ハヤメマショウ』、『コノサンタハ危険デス。今スグ子供カラ引キ離シテクダサイ』と凄まじい勢いでポイントが減少していく音が鳴り響いている。


「――でもな、それで終わらせたくもねえんだろ? 色が欲しいなら、自分で作ればいいじゃねえか。馬鹿にするやつ? そんなやつらなんざ端から相手にするんじゃねえよ。堂々とでかい花咲かせて、後で見返してやればいいんだからよ。何をどうするか決めるのは『誰か』じゃねえ、『おまえ自身』だ。コトミの人生は、コトミにしか作れねえ。結局は、おまえの力でしか、変えていくことは出来ねえんだよ」


 その時だ。荒い口調で説教を続ける彼女の発言に、ピタリと腕輪の反応が止んだ。


「今はくすんだ色だろうがな、その内おまえはおまえらしい自分だけの色を手に入れる。その『誰か』さんから貰うんじゃなくてもな。それと、周りと違ったって別にいいじゃねえか。他人と同じ人生を歩んでく必要なんて、これっぽっちもねえんだしよ。それでも馬鹿にしてくるやつがいるなら教えろ、あたしが直々にぶっ飛ばしに行ってきてやる」


 パシッと乾いた音を立てて、片手で拳を包むアレン。その瞳は、真摯に目の前の少女を見据えている。


「……ふふっ、あはははっ!」


 言いたいことを全て言い終えたアレンの前で、腹部を抱えながら盛大に少女は笑い出した。


「何笑ってんだよ、こら」

「あははっ、サンタさんって、意外と物騒な性格をしているんだね! 私のことを本気で心配してくれる人は、初めてだったんだよ? サンタさんの言う通り、ほんっと、周りなんてどうでもよくなってきちゃった! あはははっ!!」


 先程までとは打って変わり、ようやく純粋な笑顔を少女は見せ始める。まるで明るい光が灯ったかのように、重苦しい空気が一転する。


「そうだ。人様のことなんざ、一々気にするんじゃねえぞ、分かったか? 分かったなら、さっさとプレゼントを受け取りやがれ」

「そうだったね、プレゼントのことをすっかり忘れてたよ! 中身は何だろう?」


 大袋の中から長方形のプレゼントボックスを取り出して、少女に手渡すアレン。少女はそれを勉強机の上に置くと、蓋を開けて中身を確認する。そこにあったのは――。


「あ、色鉛筆……」


 箱の中にあったもの。それは立派な木箱の表面に、イラストと共に『240色』と刻印された、様々な種類の色が入った色鉛筆セットであった。


「それでも使って、沢山絵を描くんだな。本気で描き続けてれば、親も認めてくれるだろ」

「本当に、貰っていいの……?」

「あたしの手から離れたんだから、これはもうおまえのものだ。それとも何だ? 恐れ多くて、急に貰うのが怖くなったのか?」

「いるっ!!」


 意地悪く笑いながらプレゼントに手を伸ばそうとするアレンに、少女は奪わせまいと必死にしがみつく。

 そんな二人を微笑ましそうに見つめるジンであったが、ここで突然、彼らの腕輪が鳴り出した。


「何だよ、またポイントが下がっちまったとでもいうのか――って、やべえ! もうこんな時間じゃねえか!? 帰るぞ、アレン! このままだと、エリュエルの元に間に合わなくなっちまうぞ!!」

「はあっ?! マジかよ、おいっ!? 煙突出すぞ、出て来い、おらあっ!!」


 間抜けな音と共に、屋根へと続く煙突が出現する。

 急いで先頭を行く彼女に、ジンは肩を叩いて背後を見るよう促す。


「ほら、アレン。何か一言、忘れているぞ」

「……ちっ。あたしが言うのは、こいつが最初で最後だからな! コトミ!」


 と、アレンとジンは少女の方を向いて、


「「メリークリスマス! 来年も良い子でいるんだな!」いるんだぞ!」


 そう言って、特徴的な笑顔を向けながら、少女に手を振った。


「メリークリスマス! ありがとう、サンタさん、トナカイさん! また来年も待っているからーっ!!」


 吸い込まれるように暖炉の中に消えていくアレンとジンを見送りながら、少女は大きな声でお礼を言う。やがて、天井の方でドタバタと慌ただしい音が子供部屋にまで届くと、彼女は一人、クスリと小さく笑った。


「ほんっと、変わったサンタさんとトナカイさんだったなぁ。……そうだ!」


 既に室内から消えた暖炉があった場所に背を向けて、少女は再びスケッチブックの表紙を開く。

 そして、そこに書いてあったあらすじに斜線を引っ張ると、『くすんだ色の妖精が自分の色を探しに冒険の旅に出掛ける』といった、新たな内容の文章を書き加えた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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