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正義による悪の塊  作者: 旭川 宇美
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2

「ここは...」


周りを見渡すがこの景色に一切覚えがない。


「夢じゃ...ないな。」


一瞬夢だと疑うが自身の五感がそれを否定する。


「拉致の可能性も低いな」


嫌悪感があったのもあり気を失いその隙にここに運び込まれた可能性も疑ったが意識がしっかりした瞬間、立っていたことでその線も消える。


「つまり、今この一瞬でここに移動した?」


それこそありえない。


そうなると瞬間移動など説明がつかない現象。明らかに常識の範疇外だ。


ガサッ


思考を巡らせていると何か大きな物が落ち葉を踏んだような音が聴こえる。


いや実際に大きな動物が落ち葉を踏んだ音だ。


「イノシシか?」


そこには、こちらの挙動を伺っているように見える長い牙を持ったイノシシが約20メートル程先で蹂躙していた。


「ここまで長い牙となるとバビルサが思い浮かぶがそれにしてはデカすぎるな...」


長い牙を持つイノシシ、バビルサ。だがその大きさは大きくても体高100センチ程。


しかし今目の前にいるこいつは、顔のデカさだけで俺の3、4倍近くある。


「世界最大種の発見...いや最早新種として扱ってもいいかもな。」


イノシシに関してはあまり詳しくないが生態はなんとなく知っている。


「突進されて1発でもクリーンヒットしたらその瞬間あの世行きだな。」


そんなことを呟いていると睨み合いに業を煮やしたのか今まさに突進するぞと訴えかけるようにイノシシが声を上げる


「プギィ!プギィ!」


さて、どうしたものか。


生憎と正面では勝ち目がない。


逃げるのもあまり有効な手段ではないな。


背を向けた瞬間にやられる。


木に登る手段も考えたが近くには登れるような木は無い


ならやることは1つ。


ゆっくりとデカい木が俺の真後ろに来るように動く。


もう既に常識の範疇を大きく超えている中常識にかける。


「生きるか死ぬか、運か...まぁ悪くないかもな。」


そう呟いた瞬間、イノシシは俺目掛けて突っ込んでくる。


20メートルもの距離が一瞬で詰まる。


「っ!」


俺は、ギリギリのところで真横に飛び何とかその突進をよけた。


ドン!と大きな音が聴こえる。


狙い通り木にぶつかったようだ。


ただこれで終わりでは無い。


俺は、足元に落ちている石を拾う。


パルクールで最も有名な技と言ってもいい壁登り。


単に高くジャンプしていると勘違いされがちだがしっかりとした技術を用いればある程度の高さまでなら誰でも可能だ。


「1度興味本位で調べておいて良かったな」


木を利用し壁登りの要領でイノシシの顔半分程の高さまで登る。


その瞬間イノシシの牙を掴み木を蹴り体重をイノシシ側に移動させる。


「よし」


一か八かだったが成功した。


俺は今イノシシにまたがっている。


落ちそうになるが牙をしっかりと片手で掴み何とか耐える。


基盤は整った。俺は空いている手に持っている石を思い切り振り下ろしイノシシの額にぶつける。


何度も何度も。


イノシシは暴れ回るがまたがっている以上攻撃はされない。


何度も落ちそうになるが耐える。耐えて耐えて五分ほどその状態が続いただろうか。


石を額にぶつけた回数は100回は軽く超えている。


そしてようやくその時が来た。


ゆっくりとイノシシが倒れる。


脳震盪での気絶だ。


俺はすぐにイノシシから降り気絶していることを確認する。


「さすがにしんどいな」


5分もの間落ちないように必死に耐えていたのだ。牙を掴んでいた手は腕合わせて感覚がない。


「まだ終わりじゃない」


もう一度気合いを入れ直し俺は持っていた石でイノシシの牙をへし折る。


なかなか苦戦したが1分ほどで折ることが出来た。


折った牙で何度も首元、頸動脈の部分を滅多刺しにする。


尖っていると言ってもナイフほどでは無い。


何度も突き刺し確実性を高める。


10分ほど刺し続けイノシシの首元はかなりグロテスクな状況になっている。


「息は...してないな」


しっかり死んだことを確認する。


「やっと終わった」


俺はその場で座り込み一息つく。


とりあえず状況を整理する。


恐らくあのイノシシは元々弱っていた。


本来イノシシは人間には近づかない。近づいたとしてもすぐに逃げ出す。


それでもなお俺に攻撃してきたということは、興奮状態にあったということだ。


近くにイノシシの子供がいる様子はない。


なら1番可能性が高いのは俺に遭遇する前に何かに思い切りぶつかっていたということだ。


それにより興奮状態になり俺に襲いかかって来たってことだ。


元々それなりにダメージを受けていてくれたおかげで石をぶつけるのが100回ほどで済んだ。


それに振り落とそうとする力も弱かった。


運が味方した。それに尽きる。


「さて、過ぎたことをこれ以上考えていても仕方がない。今この状況について整理をしよう。」


ガサッ


そう呟いた瞬間また何かしら生き物が落ち葉を踏んだ音が聴こえる。


ただ今回はイノシシでは無い。


そうその音はまさに足音。


人間が落ち葉を踏んだ音だ。

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