ギャルゲー好きで親友な幼馴染が実は純情で激重だった件:「重い女と思われたくなかったから」
秋も深まってきた11月の半ば頃のことだった。
スポーツの秋、芸術の秋、食欲の秋。
秋には色々な代名詞がある。
しかし、だ。彼女のようなことを言う奴は滅多に居ないだろう。
「秋といえばやっぱりギャルゲーだねっ」
1Kの我が家でツッコミどころ満載の台詞を吐いている隣の女性。
100人中99人は美女と言うだろう彼女の名前は日暮千秋。
ハイテンションで明るくてノリが良い昔からの親友でもある。
「んなわけあるかっ。せめてスイーツの秋とかだな……」
「スイーツの秋って……秋人はホント甘いものが好きなんだから」
千秋はと言えば膝を叩いて大爆笑。甘いものが好きで何が悪い。
「ギャルゲーの秋に比べたら遥かにマシだっつーの」
こんなわけのわからない掛け合い漫才をしている俺たちは幼馴染の間柄だ。
高校は別だったけど同じ大学に行くことになって再会して今に至る。
「でもさー。秋はちょうど積みゲー消化するのにいい時期だと思わない?」
頭が痛い。
「思わねーよ。ま、一応理由を聞いておこうか」
どうせロクな理由じゃないだろうが。
「暑くもなく寒くもなく。これ以上にいい時期が他にあるとでも?」
「わけわからんっつーの。家でやるんだったら春でも夏でも冬でもいいだろ」
「秋人はわかってないなー。窓の外が赤く色づく中でのギャルゲー。最高だと思わない?」
千秋の謎テンションには未だについていけない。
「思わねーよ。頭に何か沸いてるのかお前は」
「私はいつも頭に何か沸いてる女ですから」
えっへんと胸を張って開き直る千秋。
もうほんと黙ってれば可愛いのに。言っても仕方がないか。
とにかく、と。
「秋人、早く選択肢選ぼうよー」
肩をゆさゆさとしてくる。
「元々、千秋が買ったんだろーが。お前が選べよ」
彼女が初めてギャルゲーを俺に押し付けて来たのは高校一年生の時に遡る。
通販で入手したパッケージを押し付けてきた挙げ句「面白いから一度プレイしてみなよ」と来たもんだ。
悔しいけど千秋の見る目は確かでそのギャルゲーは面白かった。
それ以来同性には明かせない趣味を共有できる仲間として定期的に新しいゲーム
を布教されてしまっている。
「えー。私はもう全クリしたし。秋人の選択肢を見たいんだけどー」
ニヤニヤ笑いで俺の方を見てくる千秋。
「と言ってもヒロインのキャラがまだわからんしな……」
俺たちがプレイしているタイトルは下校ラブストーリー。
下校シーンが売りでバリエーションが凄いらしい。
なお千秋談。
ヒロインは3人。
・ヒロイン1:同性の親友のようで趣味が合う幼馴染
・ヒロイン2:主人公のことが好きだけど素直になれないツンデレ
・ヒロイン3:後輩で主人公を健気に慕っていてる。すぐ赤くなる純情系女子。
「もう、むっつりなんだからー。秋人の性癖は把握済みだよ?」
この生暖かい目線、実に癪に障る。
「んだよコラ。ならどの子が好みか当ててみろよ」
安い挑発だけど、当てられるものなら当ててみろってんだ。
「この中だと幼馴染ちゃんかな。秋人ってこういう異性を意識しないで居られる間柄の子が好きでしょ?私はよくわかってるからねー
ドヤ顔の親友である。だが残念。
「やっぱり千秋の目は節穴だな。確かにそういう子の方が気が楽だとは思うけどさ」
「けど?あ。ちょっとツンデレな感じのも好きだよね。微ツンデレっていうか、嫌ってはいないけどここぞというときに素直になれないタイプ。うんうん、わかるよ。そういう微ツンデレ系って美味しいよねー」
いや待て待て。それは俺の好みというより……。
「途中からお前の性癖入ってるだろーが」
布教してくるギャルゲーにはだいたいツンデレ系ヒロインが登場する。テンプレ的なものではなくて「好きって言っても、人間的には好感持ってるって意味だからね」みたいな好意を示しつつ、異性としては線を引くような微妙なツンデレ具合が好物らしい。女子がそれでいいのか。
「否定できないけど……でもでも!少しだけ素直じゃないとか可愛いじゃん?」
「それは俺もわからんでもないけど……」
「ほらー。一緒に微ツンデレ好き同盟を結成しよーよ!」
って、気が付けばこいつのノリに巻き込まれていた。
「脱線してるっつーの。どのヒロインが好みとか聞かれても困るからいいけどさ」
「あ、そうだった、そうだった。親友でもツンデレでもないなら結局誰なの?」
しまった藪蛇だ。
好奇心に目を輝かせて回答を迫ってくる。
しかも距離が近い。
「待て。落ち着けって」
「いいじゃん。今更恥ずかしがる仲でもないでしょー?」
後ろから抱き着いて、早く早くーとねだる千秋。
こいつの距離感はほんとバグってるんじゃないのか?
いくら付き合いが長い友達と言っても俺たちは男女だぞ?
意識してないから気楽にスキンシップしてくるんだろうけど。
俺の気持ちも考えて欲しい。
(いい加減、ビシっと言うべきか)
ただ、一体どう諭すべきだろうか。
(俺は男で千秋は女なんだから距離感考えろ、とか?)
考えてこれはダメだなと却下する。千秋の距離感は確かにバグってるけど、結構思慮深いところもある。女友達の間ではギャルゲー趣味など全く口にすることなく、ちょっとした下ネタでも恥ずかしがる清楚系純情女子で通っているくらいだ。千秋のことを傷つけたくないし、俺自身、距離を取りたいわけでもないし。
「なんか難しい顔してるけど、考え事してる?そういうときの目だけど」
気が付けば、じっと俺のことを千秋が見つめていた。
しまった。千秋には俺の癖を見抜かれているのだった。
千秋曰く、俺が考え事に没頭するときは目の焦点が合わなくなる、らしい。
初めてそれを聞いたとき、観察眼の鋭さに唸らされたものだった。
「まあ、な。悪い。一緒にゲームしてるのに……」
さすがにお前のこと考えていた、なんてことは言えないので誤魔化す。
「それはひょっとして私のこと?」
(心を読まれた?)
そんなことがあるわけもないのに、一瞬思ってしまう。
「千秋はなんでそう思った?」
「ん-。直感?なんか困ってそうな顔だったし」
「それだけでわかるもんか?」
「わかるよ。秋人が私に何か言おうとするときの行動パターンってそんなだし」
「行動パターンってお前な」
もうこうなったら変に隠しても仕方がないか。
「なあ。千秋が俺のことをギャルゲー趣味を理解してくれる数少ない男友達として大事に思ってくれてることはわかるんだけどさ」
言いながら次の言葉を頭の中で探す。
「うん。そりゃあオタク系女子でも乙女ゲーならともかくギャルゲーだと理解してくれる人少ないもん。昔からの仲だから安心できるっていうのもあるけどね」
安心できる。千秋の俺に対する信頼の証なんだろう。
ただ、男としては非常に複雑になる物言いだ。
(もう言ってしまった方がいいのか?)
千秋のことが昔から好きだったのだと。
(だとして、その後はどうなる?)
きっと千秋はショックを受けるだろう。これまでみたいに気楽に家を訪ねてくることもなくなるかもしれない。そのリスクを考えるなら、今までの距離感を維持した方が……。
「また考え事してる。ねえ、前から時々思ってたんだけど、秋人は私に何か言いたいことあるよね?はっきり言って欲しいな。これからも仲良くして行きたいから」
ああ、そうだった。千秋は俺との仲を大事に思っているからこそ、微妙な距離の取り方に気づいたんだろう。これ以上隠し事をしても仕方がないか。
「わかった。これまで言えなかった分も含めて言うけどな。でも、聞いたら同じように仲良くしていくことは無理だぞ?」
まさか、こんな流れで告白することになろうとは。
「なら、大丈夫だと思うけどね?とりあえず言ってみてよ」
なのに千秋は余裕そうな表情だ。まるで何か確信でもあるかのような。
「千秋のことは親友だと思ってるけどさ。俺は男で千秋は女だぞ?」
「確かにそうだね。続けて?」
「健全な男子ってのは好きな女子から後ろから抱き着かれたりして平然としてられる生き物じゃないんだけどな」
なんで男の側からこんなことを言わなきゃいけないんだか。
「逆に私が言いたいんだけど、健全な女子は好きでもない男子に後ろから抱き着いたりはしないんだよ?」
「え?」
千秋からため息とともに返ってきたのはそんな答え。
あまりに予想外な返答。困惑するだろうと思ってたのに。
「秋人は私のこと一体何だと思ってたの?きっと、親友同士だから何の気なしにとか思ってたんだろうけど」
「待て待て。もちろん普通なら俺もそんなこと考えたりはしないぞ?お前がスキンシップするときってあんまりにもいつも通りだから。さっきだって平然としてたし」
「その時の私の表情とかちゃんと見てた?」
「い、いや。俺も恥ずかしくてそれどころじゃなかったけど」
「すっごく恥ずかしかったんだよ。少しでも意識してくれないかなーって」
判明したのはあまりに予想外過ぎる真実だった。
「つまり、お互い意識してたけど、意識してないフリをしてたってか?」
なんてしょうもない。
「そういうことになるね。振り向いてもらうまでに何年かかったんだろ……」
「何年って。高校は別だっただろ」
「時々、私から二人っきりで遊びに誘ったのとか忘れた?違う高校だから、忘れらないように必死だったんだけど?」
「なら、もう少ししおらしくしてたら俺だってわかったよ。画面の中にいる健気系後輩ヒロインちゃんみたいにさ」
このくらい皮肉ったっていいだろう。
俺と遊ぶときのこいつはあまりにもいつも通りだったのだから。
「できるわけないでしょ。一途に慕ってベタベタする後輩ヒロインはフィクションだからいいんだよ。男子にしてみたら、たまにしか会えないのにベタベタしてくるなんて重い女でしょ?」
「重い女って。千秋がこれまであえて同性の友達みたいだったのは……」
かんっぺきに誤解してたぞ。
「もちろん、重い女って思われたくないからだよ。ギャルゲーが好きなのはホントだけどね。でも、それだってあなたを好きになった後だから、趣味を打ち明けてもいいんだってホッとしたってだけだよ」
語る言葉の一つ一つが重い。高校の頃に遊んで帰るとき、千秋はどこか寂しそうじゃなかったか?あれは単に別れを惜しんでいたのだと思ったけど、この分だと……。
「悪かったよ。でも俺だって千秋のことが高校に上がった頃から好きだったんだぞ?彼氏作ってるかもしれないとか色々考えて踏み込めなかったけどさ」
たまに会って一緒に楽しく遊ぶ昔からの友達。
好きだけど、きっと意識されてないだろう。だから半ば諦めていた。
「お互い激重だったね」
「ほんっと笑えないオチだな。でもなんか、これで恋人になりましたって言ってもあんまり実感が湧かないな」
「それは私の方だって言いたいよ。告白はもっとムードのあるシチュエーションだと思ってたのに……」
「ゲームのやり過ぎだ。現実はこんな風にグダグダな告白だったりするんだよ」
「彼女がいたことがあるような物言いだよね。やっぱり高校の頃、彼女いた?」
「やっぱりって何だよ。俺はずっと千秋に一途だったぞ?」
「どうだか。私からのアプローチに全く動じなかった秋人には彼女の一人や二人いたんじゃないのー?」
「変な風な拗ね方しやがって。一体どうすりゃいいんだよ?」
「スキンシップ」
「うん?」
「秋人の方から私にしてくれたことないでしょ?してくれたら許すから」
「えー。でも、どうしろと……」
手をつなげばいいのか?
それとも普段してくるみたいな後ろからのハグ?
「それくらい自分で考えて」
ふんとそっぽを向いてしまったできたばかりのカノジョ。
正直、恥ずかしいんだけど、でも、へそ曲げられたままも困るしな。
「好きだったよ、千秋。ずっと前から」
歯が浮くような台詞とともに、後ろに回り込んでぎゅっと抱きしめた。
背中から伝わってくる体温に、少し伝わってくる胸の感触。
ああ、もう。これ、顔見られたら真っ赤じゃないだろうか。
身体もなんだか熱っぽいし。
「……」
「お望み通りやってみたけど。なんか言ってくれよ」
「恥ずかしい」
「うぇ?」
「だから!恥ずかしいの!嬉しいけど、顔とか身体全体が熱くて熱くて」
横顔を見てみると見る見る間に頬に首にと赤く色づいている。
それこそゲームでもないだろうに、てくらいに。
「じゃあ、やめとくか?」
「ううん。もう少しそのまま。幸せを噛み締めたいから……」
か細い声でつぶやく千秋は普段と全く違うしおらしい様子で。
「純情系女子気取ってるなーって思ってたんだけど、こっちが本性?」
「悪い?夢見る女子じゃなきゃギャルゲーなんかにはまってないよ」
「悪くないけどさ。そこまで純情だったとか予想外もいいとこだぞ」
でも、そんな少し拗ねた千秋もまた普段と別の可愛らしさがある。
そう思えてしまうのは惚れた弱みか。
あるいは、こういう純情系ヒロインが実は好きだったのか。
「重くて男慣れしてない上に素直じゃない女子だけど。それでもいい?」
まったく今更な話だ。
「お安い御用。ギャルゲーのヒロインに比べりゃ100倍くらいまともだ」
「遠回しに私が癖のあるヒロインだって言ってる?」
「言ってないっての」
同性の親友みたいだと思っていたギャルゲー好き女子は実は激重だった。
純情で少し捻くれてて、でもとても可愛らしい女の子。
(でも、これはこれで)
千秋と俺の間柄はきっとこれまでとは違った風になっていくだろう。
だって、俺の思っていた彼女と本当の彼女はあまりにも違ったから。
今まで知らなかった彼女とどんな付き合いになるのかが楽しみだ。
(この分だと思いっきり逆襲もできそうだしな)
心の中でそんな意地の悪いことを考える俺だった。
今回のテーマはギャルゲー……じゃなくて、見せたい姿と本当の姿、でしょうか。
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ではでは。