表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/45

6 魔王さま、子育ての大変さに直面する。

  魔王の食事が終わるのを待っていたかのように、赤ちゃんが泣き出しました。

 理由がわからずオロオロする魔王。泣く子も黙る巨大なドラゴンと呼ばれていたのに、形無しです。


 対するトメさんは落ち着いたもの。子どもを一人立派に育て上げた女性なので場数が違います。


「この泣き方。お腹が空いたようだね」

「わかるのか。すごいのう」

「もう五十年は前だが、おれは子育てをしとったんだ。わかるに決まっている。ご近所で粉ミルクをもらってきたから作ろうかい。哺乳びんも、向井さんからもらったんだ」

「うむ。なにからなにまで助かるのう、トメ」


 トメさんが電気ポットの蓋を押すとお湯が出てきたので、魔王は驚きます。


「うぬぅ。このような鉄の筒に湯が保存されておるのか? このような技術があるとは、人間はあなどれんの」

「かっかっか。電気ポットがスゴイなら、もうテレビでも炊飯器でも、なんでも目新しかろうなぁ」


 この世界に魔法はないけれど、魔法に匹敵するような技術がありました。

 いま室内を照らしている電気というものしかり。

 トメさんが電気をつけたら、夜なのに昼のような明るさになったのです。

 だいたいどの家にも当たり前にあるものだと言われて、魔王は度肝を抜かれました。


 とにかく赤ちゃんのため、言われるまま湯の温度調節して、粉ミルクをよく溶かします。

 赤ちゃんを抱っこして、哺乳びんの吸いくちを赤ちゃんの口元に持っていきます。


 赤ちゃんは誰に教わるでもなく、本能でそれがミルクだとわかるようです。いっぱい飲んできゃっきゃと笑います。


「おお、うまいか。儂が作ったのだから心して飲むが良いぞ」


 楽しげに赤ちゃんの世話をする魔王を見てトメさんはつぶやきます。


「しかし登呂さんも奇特な人じゃな。見ず知らずの子を、よう川に飛び込んで助けようと思ったのう」

「ぬう。おぬしも今、食べ物を作ったり服をくれたり、儂を助けてくれておるだろう。助けるのに理由が必要なのか? 人とは不思議な生き物よ」


 魔王の言葉に、トメさんはハッとしました。

 トメさんも、ただただ、「登呂さんは記憶をなくして何かと大変だろう」と思い、見返りがほしいわけでもなく手助けしていました。

 それと同じこと。打算や理屈なんてないのでしょう。


 どこかトンチンカンなこの人のことを、トメさんはこの半日でとても気に入りました。

 記憶をなくす前からこういう風に、朗らかで大きな心を持つひとだったのだと思えます。



 ミルクをあげてから一時間も経たないうちに赤ちゃんが泣きだしてしまいました。

 どうやらウンチのようです。

 トメさんに教えられるまま、たどたどしい手つきでオムツをとりかえますが、それでも泣き止んでくれません。


「ふぬおおお、どうしろというのだ。お腹いっぱいだろ、オムツもかえた。なのになぜまだ泣くのだっ!?」

「落ち着きなさいな、登呂さん。アンタが落ち着かんとその子も落ち着かんよ。ちょっとこの子をおんぶして、外の空気を吸ってきなさいな」


 赤ちゃんが背中から落ちないよう、おんぶ紐でしっかり固定して、寒くないようにとその上から半纏はんてんをはおります。


 そのまま魔王は夜風に吹かれながら、近所を歩きます。見上げた月は遠く。


 元の世界の月は双子月といって、二つ並んでいましたがここでは一つしかない。

 違う世界に来たんだなと月を眺めながら改めて思います。


「ほうれ。早く眠るのだ。あーと、名前がないと呼びにくいのう。うん、リュウと呼ぼう。この国でドラゴンを指す言葉だと本に書いてあった。儂の幹部なのだからそうとわかる名にせんとな」


 魔王の背中が温かいのか、それとも歩調が心地いいのか。いつの間にかリュウは安らかな寝息をたてていました。


「よいかリュウ。たくさん寝るのだ。寝る子は育つとトメが言っていた。早く大きくなって、この国を統べるがよい」


 リュウを起こさないようゆっくり歩きながら、魔王はのどか(・・・)荘への帰路につきました。

☆もしもネタ 登呂さんに地球の言葉を教えるゲーム

正しい意味を教えるのか、わざと嘘を教えるのか。

日本侵略がうまく行くかどうかはプレイヤー次第。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=151707040&size=300


新連載はじめました。
シスター・キントレ!
design.png
― 新着の感想 ―
[良い点] 他人を助けるのに理由はいらない。 魔王様の一言は真理ですね。 [一言] 後書きのゲーム画面に出ている選択肢が面白いですね。 生き物にカーソルが合わせられているので、この後の反応が面白そうで…
[良い点] リュウくんと登呂さんの(人間としての)成長物語!! 子育ては大変だよね!少しずつ登呂さんも覚えていくんだろうな~。 天ぷらとは? 天使はプラトニックの意味だよ
2022/11/10 18:32 退会済み
管理
[良い点] 6 魔王さま、子育ての大変さに直面する。読みました。 色々苦労しながら育てていくことになりそうですね。 どんな風に育児が進むのか楽しみです。(*´∇`) [一言] 天ぷらは 乗り物 が好き…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ